『学園生活』6
生徒の集まった武道場に満を持して登場したかのように、筋肉質で肌の焦げた大きなおっさん、『剣技』の授業を担当する先生が入ってきた。
「おい、お前ら全員集まっとるか? 集まっとるんならまだ早いけど授業始めるぞ」
関西弁。マサヒロも聞き馴染みのある方言だ。馴染みがあるだけに何故か親近感が湧いてしまうのは仕方ない。
それにしても先生は体というか見た目と違って中々優しそうな声だ。マサヒロはいかにも熱血教師、図太い声で生徒指導担当と予想していたため予想とはかけ離れ大きく逸れてしまったために拍子抜けを食らう。
人は見た目で判断してはいけない。けど人は結局見た目で判断してしまうのだと実感させられた
――生徒達は授業を始めるにあたって先生の周りに集合する。別に列などはないらしく先生を中心に半円を描くような形でまばらに集合した。
「うし、集まったな。じゃぁ俺から自己紹介しよか。俺はルネイド、今日からお前らの剣術を担当することになった。まぁそこまで畏まらんでもいいぞ、俺は別にロイゼほど堅物やないからな。気楽に授業を受けたらええ、けど弛むのはあかんぞ」
それからルネイドの一人語りがひとしきり続き、ルネイドも喋りに喋って満足したのかようやく本題の授業へと話が進んだ。
「んで、剣術やけどお前らみんな魔法科志望やろ。あんまし将来剣術なんて使うことあらへんけど、一応授業やし覚えてってな。まぁまず、そやなお前ら剣握ったことあるか」
ルネイドの問いかけにバラバラと手が挙がっていく。だがちらほらと手が挙がっていない者もいた。マサヒロは勿論握ったことはない側だ。剣道の授業で竹刀くらいは握ったことある、あと修学旅行で行った京都土産の木刀くらいなら、しかし真剣は握ったことがない。故にマサヒロは手を挙げなかった。
「まぁ半々、いや大半は握ったことあるみたいやな。じゃ握ったことある組とない組で分かれよか。そっちの方が授業は進めやすいやろ」
クルネやセリアは貴族の大貴族の教育の一環として剣には多少嗜んだことはあるようだ。つまりマサヒロとは別授業となる。
今までクルネやセリアに助けられてきたぶん、不安が残る部分もあるが今からの授業は『剣技』であって魔法は使わないはず。それにマサヒロだって二人に頼ってばかりでなく一人でも生きていけるようにはならなくてはならない。故に異世界風、親離れといったところだ。
マサヒロはぐっと腹を括る。
クルネとセリアが奥からマサヒロに心配の目線を送るがマサヒロは大丈夫だというばかりに顔を横に振って対応した。二人は余程マサヒロが心配なのか大丈夫だと宣言するマサヒロを見て二人で顔を合わせ首を傾げるような仕草をしている。
ただマサヒロの意気を踏みにじるようなことはしたくないのか、二人はマサヒロを肯定し小さく胸の前にガッツポーズを作った。あまりにも可愛らしい姿だったためにマサヒロは照れくさくなり顔を少しばかり火照らした。
マサヒロは周りに知り合いはいないか確認するようにぐるっと首を回して見る。
レックスはどうやら剣に嗜みはあるようだ。
ティホンは知り合いというか、ライバル……敵という認識の方がしっくりくる。一応剣は握ったことがあるらしい。
エリザベスもセリアとえライバル関係を築くような仲立ちのため剣に親しんだことはあると。
残りは――
マサヒロはニーナを探そうとした瞬間。
「マサヒロさんがいて良かった。ニーだけだったらどうしようかと思ったよ」
マサヒロの背後からニーナの声がした。振り返れば先程までマサヒロが探していた人物ニーナそのものがいる。
「おぉ良かった。俺もさっきまで知り合いを探していたところなんだよ。みんな剣を握ったことあるみたいでなんか俺だけ置いてかれたなって不安になってたけど、良かったニーナも剣は扱ったことないんだね」
「うん、ニーは闘拳魔道士だから拳を振るうことしか教えられないんだよ。だから剣は初めてだね、この授業でさらなる可能性を見出さればいいんだけど……」
ニーナは初めての剣に新たな可能性を期待する一方、上手く出来るか分からないという懸念が入り混じった複雑な心境だった。ただ、それはマサヒロも同じで魔法に才が無いのだから剣技くらいはという意気込みを立てている中で上手く出来るか不安になっている。
「まぁ俺も剣技を頑張りたいと思っているけどその後はどうなるか分からないんだし、出来る力を出し切って一緒に頑張ろうよ。それもこのクラスで他の誰にも引けを取らないレベルになるくらいにさ」
「うん、そうだね。ニーも一緒に頑張るよ!」
マサヒロは不安に思えば思うほど不安に蝕まれるならいっそ不安なんて取っ払ってしまえばいいと、上手くいく事だけを考えそれも自分にしっかりと言い聞かせるように声に出した。ニーナもマサヒロと同じ考えに至ったのかマサヒロの言葉に便乗して宣言。
二人から不安も懸念も消えただ期待だけが心中に残る。二人は剣技で成績上位を目指す青写真を浮かべながら微笑みあった。
◆◇◆
「よし別れたな。ならまず剣を握ったことある組から説明するでまだ握ったこと無い組はちょいと待っといてくれ」
そう言ってルネイドは剣を握ったことある組の方に体を向け、
「お前らは剣握ったことあるってことやから握り方とかの基本は飛ばすで。ほんならな、まず二人一組作ってそこにある木刀持ったら実践練習や。剣で闘ってな、魔法とあと殴る蹴るは無しや。あくまで剣だけで闘うんやで。ほんじゃお前らは解散、次は――」
ルネイドは剣を握ったことある組の説明を終え、続いて剣を握ったこと無い組に向き直ると、
「お前らは剣は初めてやいうことやから基本からいこか。一人一本木刀取ってきて、説明はその後やな」
ルネイドが「ほらいけ」と手で合図すると、剣を握ったこと無い組である少数人は立ち上がり木刀を取りにいった。
「はい、マサヒロさん」
「おっ、ありがとっ」
ニーナが取った二本の木刀から一本を渡され、マサヒロはそれを受け取るとニーナと一緒にルネイドの元へと戻った。
ルネイドは暇そうに鼻歌を奏でながら戻ってくる生徒達を待っている。時折安全確認のためか剣を振るいに振るっている生徒達をを見ていた。
「うし、全員戻ってきたな。じゃぁ説明するで」
少数の生徒が木刀を持って戻ってきたことを確認し、ルネイドは腰に刺してあった剣を鞘から抜き取る。抜き取る際に鞘と刃が擦れる金属音がし、それが真剣であることが分かった。
抜き取られた剣は鏡の如く鮮明に辺りを刃に映し出し、黄金の柄に持ち心地のよさそうな赤色の鱗で覆われた持ち手、その剣一つを見るだけでルネイドが相当な剣の達人であることが見受けられる。
「流石はエリート学校」
「うん、魔法だけじゃなくて剣技においても長けてる」
マサヒロがつい感嘆の言葉を零し、吊られて隣にいたニーナも感嘆の言葉を零す。
見惚れてしまいそうなその剣はそれほどまでにこの場で異彩を放っていた。
「まずは剣の持ち方やな。これは人によりけりやけど俺は持ち手の真ん中から少し下のこの辺やな。あとこれは片手剣やからこれでしまいやけど、もし両手剣使うってんなら利き手が上にくるようにして下の手は少し間を開けるな、よしじゃぁお前らも今持ってる木刀で実践してくれ。あ、それ全部片手剣やから、両手剣が言いって言う奴おったら名乗り出てくれ」
この場にいるのはそもそも剣を扱ったことが無いのだから剣が片手剣がいいか、両手剣がいいのかなど判断出来るわけがない。誰も両手剣にしたいというのには名乗り出なかったために授業は再開された。
「お、お前らなかなか飲み込みが早いやないか。ん、この調子なら次説明しても良さそうやな」
ルネイドは全員が剣を握ったのを確認し、教師の決まり文句みたいな事を言ってみんなを褒めはやした。
「次は『剣技』に置いて一番重要なとこやでな、今日はこれマスターしてってな。じゃ説明するぞ、剣の振り方、これはいろいろあるけれどどの剣の達人だってまず基本の導入から入る。せやから基本は大切なんや。剣の達人は基本をマスターした後に自分型に変えていく。一言で言うなら守破離やな。お前らはまだそこまでしやんでええから、まず基本は確立させようや、主に守の部分をな」
そして本格的に『剣技』の授業がスタートする。ルネイドはロイゼの授業同様二人一組を作らせると、剣の素振りの説明を始めた。
「剣というのは両刃と片刃があるが今日は両刃の説明でいくで。両刃は振り方を間違えると自分の血肉も掻っ斬ってしまう結構危ないもんなんや。せやから今日はそうならんように俺がしっかり教えるで。まずは振り方より最初の構えやな」
ルネイドが構えの手本を見せるため剣の切っ先を誰もいない想像の敵へと向け、手首は伸びすぎないようにしっかりと固定、腰は少しばかり低くなっており、いつでも敵の攻撃に対応出来るよう利き足は後ろに下がっている。
構え方一つで威圧感が凄く戦慄してしまうほどだった。これが剣に卓越したエリート。構えるだけで相手を慄かせるなど最早次元が違う。
「基本はこんな感じやな。まず剣の切っ先やけどこれは当たり前敵に向けるよな、けどここで注意して欲しいことが一個。それがこれ」
ルネイドは固定されていた手首を伸ばして見せる。そしてまた直ぐ固定した構えに戻し、
「剣っていうのは最大限に力を加えないと相手に力負けしてグサリや、そのためにもこんな、手首伸ばしとったら力なんて入らんやろ。まずしっかりと固定や。で、次は」
ルネイドは一旦説明を中断し、一息置くと言葉を紡ぐ。
「剣の構える位置、これは人それぞれ変わってくるから説明はしにくいけど一つだけ守ってほしいポイントがある。それは自分の体に近づけ過ぎない、そして遠すぎないだ。この微妙な位置が重要になってくるんやな。で、最後は」
ルネイドは足をぱんぱんと叩き、これを見ておけと無言の指示を飛ばす。生徒達は集中してルネイドの下半身の動きを入念に観察。
「足は自分の利き足を下げるんや。これは相手の行動に直ぐ対処出来るようにやな。出来れば踵を上げておくといいかもな。で、これが最後やけど腰な。腰、これ棒立ちやあかんやろ。こう、な、低く構えるってのも結構重要なポイントやで。まぁ低く過ぎはあかんけどな。全てにおいて言えるのはし過ぎず、しなさ過ぎずの適度というものを知ることで基本が成り立つってことやな」
ルネイドは構えの基本を全て説明し終えると、パンっと手で音を鳴らし、
「じゃぁせっかく二人一組作ったし、今説明した全部のことを総合して構えを見せあってみようか。出来ないとこは『駄目!』ってしっかり指摘してあげるんやで。わからんとこあったら俺に聞いてや。そいじゃ始め」
ルネイドの掛け声で生徒達は一斉に立ち上がると、二人一組となったメンバーで話し合う。
マサヒロ達も立ち上がると、安全を考慮してみんなから少し離れた位置に陣を取る。
「よし、この辺でしようか。じゃまず俺から」
マサヒロは言われた通り手首を固定、切っ先は相手に向き、利き足は後ろに、しかし、
「駄目!」
速攻で指摘が飛んだ。
「まず腰が低くなってないし、剣の位置近過ぎるでしょ。なんていうか素人感が丸見えだよ」
グサリとマサヒロの心を抉る。
確かに剣技は今日が初めてなのだから初心者で当然だ。しかし素人などと言われると、分かっていても傷つく。
「ニーナはもう少しオブラートな言葉を選べなかったのか?」
「あはは、ごめんごめん。なんか熱くなっちゃってね。じゃぁ次はニーがやるからマサヒロさんは見ててね」
意気揚々としているニーナは手先の器用さを利用して手元で木刀を回して見せると、右足を後ろに引き腰を低く、切っ先は前に向け構えて見せた。
赤髪がふわり揺れ一瞬ニーナのうなじが姿を現す。
ニーナの構えは流石と言えるほどに綺麗で赤髪とその美貌が艶麗な木刀を持つ構えと相まって美しい。
ただ、構えは美しいのだがどこか違う。いや、構えが武闘家のそれなのだ。
ニーナはこの世界で闘拳魔道士と呼ばれる存在の一族らしい。闘拳魔道士はその名の通り、拳と魔法を組み合わせるのだが、それ故に全てが武闘家の構えとなってしまう。
今まで常に武術を嗜んできた為か武闘の構えが身に染み付いてしまっているのだろう。
剣技としての構えではない。だが、ルネイドが言っていた通り構えは人それぞれ。ならば武闘を嗜んできたニーナには無理に剣技の構えに直さなくてもこれがベストなのではないだろうか。
「うん。ニーナ、物凄く綺麗だよ。けど……なんか武闘家っぽさが残ってるんだよね。この引いた足も、これ次には蹴りが炸裂するよね?」
「うん、そうだよ。こうやって、こう!」
「ぅおっ、と危ない。いや、実践しなくていいから!」
ニーナはその蹴りの姿勢から高々と足を振り上げビュンッと風切り音を立ててマサヒロの鼻先ぎりぎりを横切らせた。
マサヒロの目の前を蹴りが通過してマサヒロは後ろに仰け反った。
本当に当たる寸前だったマサヒロは急に蹴るなよとニーナに指摘するがニーナは武闘のこととなるとついスイッチが入ってしまうのか「えへへ」と誤魔化すように笑いながら頭を掻いていた。
「で、まぁ実践までしてくれてこれが完全にニーナ独自の構えだとは分かったけれど、どうだろうか? これは、ありなのか?」
実戦で活用するならニーナにはこっちの方があっているだろう。それこそ授業が始まる前にニーナが言っていた新たな可能性に繋がるのではないだろうか。
闘拳魔道士の武術に剣技を混ぜた闘い方、それもまた一興だ。
「ニーには分からないけど、ニーはこっちの方が慣れてるし、やりやすいかな。無理にこの型を壊したくないというのが本音ではあるけど」
「そうだよな。ニーナは闘拳魔道士であって型が崩れたらそれこそ終わりだよな。新たな可能性もひったくれもないし」
二人で頭を悩ませていたところに、丁度筋肉先生ことルネイドがやって来た。
「どうしたんやお前ら? なんか困っとるんか?」
やはり見た目のわりに優しい声。女子がもし、後ろから声を掛けられたとしたら期待を抱いて振り向くが、あまりの声に似つかわしくないごっつい見た目に失望してしまう感じだ。
「あ、は、はい」
優しい先生だと分かっていても恐縮してしまう二人。それほどまでにこのごつさはインパクトが強い。
「ん、そうか。なんや、言うてみ」
この声はどこから出てるのか。優しく抱擁してくれそうな声。この見た目がなければスクールカウンセラーでもしていそうな感じだ。
マサヒロはルネイドが悩み事相談なんてものをしている風景を想像し、こんな筋肉相手に悩みを打ち開けるのはなんか嫌だなとつくづく思った。
「あのですね。ニーの構えがなんか違うみたいでして」
話の論点が逸れかけていたマサヒロを正気に戻したのはルネイドに返答したニーナの声だった。
だがニーナの言葉だけでは足りないところもあるので続いてマサヒロがニーナの説明不足を補うように言葉を紡いだ。
「ニーナは闘拳魔道士なんです。それで構えが先程先生が説明した剣技の構えではなくて武術の構えになってしまっているんですよ。けれど先生は構えは人それぞれと言っていたし、この構えがニーナにとって確立した構えなのだから間違ってはいないだろう、けどどうなんだろう、と話していたところです」
ルネイドはマサヒロの言葉に興味深気に「ほうほう」と頷いて、
「闘拳魔道士か、確かにその赤髪は、そうやな。闘拳魔道士なんて久しぶりに見たわ。一回その構え見せてみ」
その言葉にニーナは頷き、先程と同様蹴りを入れる構えと剣技の構えを融合させた艶麗な構えをルネイドに見せつけた。
これにはルネイドも感心したのか「おぉ」と感嘆の息を漏らす。
「構えは様になっとる。これはこれでありかもしれん、いやありやな。闘拳魔道士の闘い方も剣技も全ては武術に還る。ニーナやったか、お前さんは剣は握ったことなくても武術の基礎は既に身に着けとった。守の部分はもう達成しとるってことや、やから次は基礎を破って自分型に変えていく破に挑戦するとええ。お前さんはあっちで実践練習をしてきてええぞ」
ルネイド公認のニーナ流剣技。
流石はもう武術に関しては卓越した存在だったというわけか。あの貫禄溢れる美しき構えを見れば誰だって感嘆の声を漏らす。
ニーナは剣を扱ったことは無くとも既に剣技以上の光を持っていた。これが才能というものだろうか。
武術において秀でた才能、そして魔法を操る。
武術、剣技、魔法、全てを使い熟し闘うニーナは闘拳魔道士を超える存在と成り得るだろう。
「どうした? 行かんのか?」
才能は認められたはず、しかし動こうとしないニーナ。別に悩んでいて動かないのではない。ニーナの目には信念が籠められている。
「ニーはマサヒロさんと一緒に強くなると決めました。なのでニーだけ抜け駆けなんてことはしませんよ、ね」
マサヒロの方に微笑みを向ける。
顔をマサヒロに向けた勢いで赤髪が靡く。
「う、お、おう」
上手く言葉が出ない。筋肉がいるからではない。
体が熱い。そこまで運動という運動をしてはいないのに。
「そうか、まるで新婚夫婦のようやな。末永くお幸せに」
何か勘違いしたルネイドは手をひらひらと振って去っていった。
マサヒロがこの後、ルネイドの勘違いに気づくのは相当後になってからの事だった。
◆◇◆
「よし、今日のところは授業終了や。ほんなら今日のことはしっかりと復習しといてな。じゃ、解散」
パンッと手を鳴らし解散の合図をする。
これで午後の授業は終了した。後は帰るだけなのだろう。
みんな気楽そうに話しながら武道場を出ていった。
「マサヒロ、この後なんか用事ある?」
クルネとセリアも授業が終わったらしく、慌ただしく駆け寄ってきた。
どうやらクルネとセリアもこの午後の空いた時間を使ってどこかに遊びに行ったりするらしい。こんな光景はマサヒロが高校生のときもよく見たものだ。
ただ彼女達とレックスには時間があるかもしれない。けれどマサヒロには既に予定が詰まっていた。
「ごめん、俺は今から学長のところへ向かわないと行けないからさ」
「あぁそうだったわね。じゃぁ私達だけで行こうか」
「まじで、マサヒロいないってことは僕は物凄い美女に囲まれたハーレム状態を満喫することに!」
すっかり元気を取り戻したレックスがセリア達に食ってかかる。が、無言で飛ばされた蹴りに拳に闘拳魔道士の体術に翻弄され、ボロ雑巾のようになったレックスがマサヒロの足元へと転がってきた。
そんなボロ雑巾を気に留める事もなく女子達は去っていった。
「大丈夫か?」
マサヒロは一応レックスの安否を確認する。
闘拳魔道士の体術なんて食らったら、そらもう、体術のエキスパートたる彼女の体術を受けるなんて恐ろしいことマサヒロは考えたくもなかった。
レックスは死にかけの戦士のようにゆっくり手を挙げると、パタリと力尽き、
「これが大丈夫なように見えるか?」
と、逆にマサヒロに問いかけた。
それにマサヒロは沈黙で答え、そぉっとしておいてあげようと、その場を退散する。
「おい、待って、ちょ、マサヒロ!?」
その声はもう届いていない。
「お前らはどんだけ無慈悲なんだよぉぉ!」
人がもう一人もいない武道場にボロ雑巾の声が響き渡った。