『学園生活』4
マサヒロは闘技場観客席へと辿り着くと背中に担ぐ意識を失ったニーナを椅子へ下ろした。ニーナはぐったりと腕を下ろし、背もたれにもたれかかりながら椅子に深く座った状態で眠っていた。これでは当分目を覚ますことはないだろう。
「それにしてもニーナは無茶な戦い方をするなぁ。魔力を全て出し切ってまで勝とうとするなんて」
マサヒロは全魔力を使った大爆発を思い出し称賛の目をニーナに向ける。だが心の中では女の子なのだからもう少し穏やかでもいい気が……と思う節もあるにはあった。
マサヒロはニーナから目を離し闘技場の方へと視線を向けると手すりの手前まで歩み寄り、下を見下ろした。
広く広大な闘技場の上にポツンポツンと人が三人だけ見える。模擬戦を受ける生徒と審判を務める担任のロイゼだ。一人はマサヒロもよく知る口達者な銀髪美少女セリアで、対する生徒はこれまた引けをとらない紫髪美少女だった。
「久しぶりだね、エリザベス。でも今日も負けないから」
「今日も? 今日は勝つの間違いではなくて? わたくしを舐めていると痛い目を見ますこと」
セリアは紫髪美少女のエリザベスにやたら食いかかるように敵対視する。対してエリザベスも丁寧な物言いだがセリアに敵意識があるような言葉だ。犬と猫が餌の取り合いで喧嘩でもしているのか互いに睥睨し合う。
「それではいいか? 始め」
模擬戦が開始される。
「目覚め」「目覚め」
二人は同時に加護を目覚めさせ、セリアは腕に炎を、エリザベスは脚に岩の靴を纏う。
「《フレイムバースト》」
セリアは自己流限界突破で身体能力を飛躍敵に高める。
対してエリザベスは手を前に突き出すと、
「《シューティングロック》」
岩をセリア目掛けて放った。セリアは軽々と岩を避けると空中でバランスをとる。が――目の前には既に巨大な岩が迫っていた。
身動きのとれない空中に誘い込み岩を必中させるエリザベスの策にセリアは見事にはまってしまった。
躱すことが不可能なこの状況でセリアは判断を委ねられるが――セリアに直撃し落下、土煙を上げた。もくもくと土煙が上がり闘技場内の様子が見られない。
観客席にいた者たちはざわめき始める。
しかしこんなものでは終わらないとでも言うかのように岩が粉砕され破片が観客席の方まで飛び散った。
岩を粉砕させた爆発による爆風により土煙が瞬く間に取り払われる。爆発を起こさせた張本人のセリアは破片の一つを拾い上げるとエリザベス目掛けて投擲、銃弾のような速さでエリザベスへと肉薄した。
限界突破した状態でのセリアの投擲、とてもじゃないが常人には見切れない速さだ。見切って躱すことが出来なくとも魔法でどうにも対処することは可能である。当然エリザベスがそれを知らない訳がない。
「《アースウォール》」
闘技場の床が浮き上がりエリザベスの前に岩の壁を創り出した。間一髪で弾丸が壁に突き刺さり奥深くまでめり込む。だがセリアの作戦はここからが本番であった。
岩の壁により前方の視界を遮られたエリザベスは神経を研ぎ澄ませて周囲に気を配る。セリアの事だ、壁を創らざる負えない状況を作り視界を遮ったところで不意打ちを狙うと、エリザベスもセリアの作戦を読んだ上で行動していた。
だがエリザベスにとっては意表をつく攻撃だった。
セリアは壁が創られたのを確認した束の間死角に潜り込み身を潜ませる。そして腕に魔力を凝縮させながら拳の一点に炎を集束させ、パワーを増幅させた。
セリアの拳に一つの太陽が出来上がると拳を壁に叩きつけた。岩の壁が崩れ落ち破片が無数に飛び散り術者であるエリザベスを攻撃した。
神経を研ぎ澄ませていたエリザベスでさえも真っ向から来るなんてものは予想打にしていなかった。岩の鱗片が迫る刹那の中驚愕の表情でセリアを見る。いつもの神経質な堅苦しいセリアには考えられない行動、エリザベスはそんなセリアの変化に驚いていた。
エリザベスの《アースウォール》が拳一つで破られ、セリアの眼には手に纏う炎以上の赤々とした火が灯る。拳を少し緩めると炎が手から溢れ出し、突出した。
「《フレイムソード》」
原型を持たない炎のロングソードが出来上がるとセリアは足を踏み出し腕だけで斜めに振り抜く。
「っつ! 《グラウンドランス・シールド》」
間髪を入れずエリザベスは防御魔法を展開しセリアから放たれた紅蓮の刃を防ごうとする。
空中に一瞬にして岩が出来上がり、その大きな岩が平たく伸びると、それがエリザベスの盾となる。セリアの《フレイムソード》は大きな岩石が一点に集中し固まった岩盤の盾に防がれた。互いの魔法は相性的には半々、優劣はない。これは単なる力量勝負なのだ。
セリアは全く動じない盾を見上げバックステップで一旦距離を取る。そしてもう一度真っ向から突っ込み剣で薙ぎ払った。だが盾には傷一つさえ付いていない。完全防壁と化した岩石の盾はそこから微動だにすらしなかった。
セリアは右足を軸に回転すると右へ剣を振り抜き間髪入れずに下から突き上げるように一閃させ、斜めに斬り捨てる。乱方向から剣で斬っかき、耐えられなくなった岩石部分を徐々に剥ぎ取っていった。
――いける!
一瞬セリアに油断が生じる。相手は互角に渡り合って来たエリザベス、その表情を見逃さない筈がなかった。強張った表情が一瞬解けたのを削られた盾の隙間から垣間見て、盾を刹那の間に矛へと変化させる。
盾は槍型になり必死で足掻いていたセリアを鋭利な先端部分で闘技場場外ギリギリまで突き飛ばした。セリアは変わる瞬間に炎の剣を収納すると少量の炎を撒き散らし岩石の槍を致命傷にならない程度までには緩衝させた。
「詠唱なしでここまで土を操るなんて! どういうことだ、盾が矛に変わるそういう魔法だったのか……――っつ!」
「そう、今セリアが考えているので正解。セリアは私の魔法を勝手に防御魔法に徹した盾と思い込んだだけ。本当は盾と矛で一体の魔法。だって《グラウンドランス》なんだから」
「そうか……だが惜しいな。私がやられるだけとでも?」
セリアは必死で防いでいた矛の盾を消すと、
「《フレイムハザード》」
エリザベスの足元から炎が突き出るように噴出し、吹き飛ばした。同時にセリアは矛によって圧され、闘技場場外の壁へと激突する。
「セリアッ!」
マサヒロはセリアを心配するように叫んだ。
「終わったか? なら次だ、早くしろ」
「そんな……セリアはどうすれば?」
「死んでない、だから寝かせてろ。目覚める前に終わらせるぞ」
ロイゼは冷静に事を対処していくと、痺れを切らしたようにクルネを急かした。クルネはセリアが大丈夫だという事に安心したのか前を向く。そして両者揃って闘技場に足を踏み入れた。
「そんじゃ始め」
ロイゼの適当な戦闘開始コールで二人の模擬戦が始まった。こちらの二人は知り合いでも何でもないようで相手の出方を伺っている。しかし相手が攻めてこないと分かるや、
「目覚め」「目覚め」
二人同時に加護を目覚めさせた。二人共同じ『風の加護』。背後に風を巻き起こし、セミロングの髪を靡かす。相手側も短めの髪を風で靡かす程、強力な風を起こした。
クルネと相手の少女は同じ『風の加護』を見て驚く事もせず唯、相手の出方を待つ。相手が自分に有利な加護だと分かりほっとすらしているかもしれない。
同じ加護、つまり明確な実力勝負。
先に動いたのはクルネだ。
「《ウィンドブーツ》」
風で足を纏い、風をも凌駕するスピードを手に入れる。
クルネは《ウィンドブーツ》で空中に飛び上がると、空中にも地面があるかのように軽々しく蹴り飛ばし少女に肉薄した。
少女は風で剣を作り空中から迫るクルネに切っ先を向ける。クルネが剣の間合いに入ったところで少女は足を踏み込み剣を振り抜く。
「《ウィンドローブ》」
クルネが呟くと体を風が囲み消えた。いや消えた訳ではなく、《ウィンドローブ》つまり風のローブが体を囲みクルネを視認出来ないようにしてから、視認出来ない程のスピードで少女の背後を取っただけのことだ。床と擦れる音を立てながら背後に姿を表し、
「《ウィンドシールド》」
見えてはいないはずだが後ろとやまをはり振り抜かれた少女の剣を分かっていたかのように盾を形成し、少女の剣は風の盾に防がれ、相殺する。
「ここ貰ったよ」
刹那、クルネの声が聞こえた。それは魔法を発動した声ではない。
見れば、初めからこれが作戦だったのかクルネは少女の間合いに入り手を胸に押し当てた。つまり魔法を放てばいつでも殺せるという合図であり、相手を降参させる手段の一つだ。
素早い決着の付き方で殆どが目視出来ないこともあり、観客席から見ていた生徒達には一瞬何が起こったのか把握する沈黙が訪れていた。
「クルネだったか? お前は無理に全ての力を見せつけず、かつ最低限の力で相手の攻撃を読み仕留めた。なかなかやるじゃないか。今の俺の中には優秀と思える逸材がお前しかいない」
あの険悪なロイゼが初めて人を褒める。流石は三大貴族の一人というわけか。生徒達は皆固まって驚愕していた。
「次だ。早くしろ」
そしてこの後も模擬戦は続き、結局ロイゼに優秀と認められたのはクルネ唯一人だった。
◆◇◆
「はぁ、やっと終わったな」
「本当だよ。僕はもう駄目だ、マサヒロあの二人の元へ連れていき僕を癒やしてくれ」
レックスはわざとらしく胸に手を当てマサヒロに手を差し伸べながらその場に砕け散る。
「クルネとセリアは女の子の割に気が強いからな、癒し魔法なんて扱ってないと思うぞ。もし俺がお前を連れて行ったとしても攻撃の嵐が吹き荒れるだろうに」
「別にいいんだ、僕は二人の顔さえ拝めればそれで満足。充分に癒やされるのさ」
「なら普通に待ってろよ。女子達だって着替えてるだけなんだから着替え終わったら直ぐにこっち来るって」
言ったそばからドアが開かれ数人の女子が入って来た。
クルネとセリアは辺りを見渡してからマサヒロを見つけ即座に駆け寄っていく。マサヒロの隣にいるレックスには一瞥すらくれず、クルネの拳とセリアの蹴りが叩き込まれた。
「っつ、僕が……何を?」
確かに理不尽であった攻撃にレックスは疑念を寄せる。
「存在がいらない」「マサヒロの評価を下げる女たらし」
二人が冷徹に吐き捨てる。これに関してはマサヒロもフォローの仕様がなく、レックスが救済の視線を送っても哀れなめで見守ってやる事しか出来なかった。
そんな重たい空気の中、レックスの背後から蹴りでレックスを突き上げひょこっとニーナが現れる。
「ニーも話に加わりたいんですが、よろしくしてもらってもいいですか?」
「ニーナちゃんですね、マサヒロのペアの。こちらこそよろしくです」
「私はセリアだ。よろしくな」
「あらあら楽しそうに話していますこと。私も会話に入れてはくれなんまし?」
模擬戦でセリアと闘ったエリザベスという金髪美少女が確実にセリアを意識しながら現れた。エリザベスとセリアの間に火花が交錯する。
「何であんたがここにいんのよ! あんたは会話に入れて上げないに決まってるでしょ」
「そう邪険に扱わんといて。私の心だってガラスのように脆いのですから」
「あんたは身も心も図太い鋼鉄でしょ」
セリアとエリザベスが喧嘩をしているにも関わらずマサヒロは思わず笑みを零す。ここに来てもし二人に会っていなかったらここまで笑みを浮かべる事は無かっただろう。
いつのまにか形成しつつある愉快な仲間達。ここまで愉快なのはマサヒロも中学生以来で懐かしさが込み上げていた。
「僕は何を?」
レックスは完全に蚊帳の外に放り出され、三人の暴力を浴びせられた体を引きずりながら執念深く和に入ろうと心見ていた。そんなレックスに女子達は誰も気づかない、いや完全に無視しいている。
「別にここまで徹底してレックスをいじめなくても……」
◆◇◆
「ここからは魔術科の受講に入る」
フロイデーン学園には魔術科と剣術科の二つがあり、特進クラスだけ特別に二つの科を受講することになっている。一年みっちり学んだら日本の学校の文理選択と同じ要領で魔剣選択が行われる。
大抵の人が魔術科を選択し、ほんの一握りだけが剣術科を希望する。剣術科を選んだ者は殆どが騎士一家の家柄だったりする。
魔術科が人気な理由は、この世界オリュンパスでは確実に魔術科の方が将来の見込みがあるからだ。生活必需魔法なんてものが存在するほどこの世界では魔法が必須。
そして魔術科の特進クラスを卒業した者はエリートとして魔法研究者や魔法学者といった魔法に関する職務に就く。しかし魔職の中でも特に人気のある職業は魔法騎士。
魔法騎士は魔術科の中でも頭一つ抜き出る程成績優秀で、最高位魔法が使える逸材、国家試験に合格した五十人に一人と言われる世界に数えられる程の者しかいない。
そんな皆の憧憬、魔法騎士を目指すべく魔術科を希望し、魔法騎士の国家試験に落ちようともまだエリート職業は残されている夢のような科だ。
そんな大事な魔術科の授業が今始まろうとしていた。
マサヒロのいるこのクラスも9割以上が魔術科を目指しているだろう。下手したら全員が魔術科を希望するなんて事もあり得る。ここから既に成績争いは始まっていた。
魔術科を選ぶさい成績が悪ければ勿論魔術科を選択する事は不可能となる。しぶしぶ剣術にするも魔術科しか目指さず剣術を怠ったらその場で進級の見込みなしとして特進クラスなら下の普通科であるどちらかの科に振り分けられる、普通科の者なら進級の見込みなしと判断された時点でその場で退学処分だ。
そんな苛烈な争いがこの初日の授業から幕開けされていた。
「魔術科の必須科目『魔法実技』だ。今日は実践では無く説明だけして終わる」
魔法実技、魔法の扱いや仕組みについて深く理解する為にある必須科目だ。魔術科を選ぶなら勿論、剣術科でも必要となる魔術科の科目。
どうやら魔法実技の授業担当はロイゼらしく、模擬戦の後そのまま引き続きロイゼが担当した。
「特進クラスのお前らなら分かっていて当然だろうが、魔法とは体のマナを魔力に変え、魔力を魔法に変えるプロセスを行う事でそれぞれの魔法が扱える」
ロイゼは後ろの黒板にチョークも持たず、しかも後ろを向くことなく文字や先ほど説明していた魔法扱う為のプロセスを分かりやすく図式にして記していった。
マサヒロは魔法の便利さを目の当たりにして流石ファンタジー世界だとその光景を羨ましそうに眺める。
生徒達はこの内容が常識だと知っているからか唯ロイゼの講義を傍聴しているだけだ。
「お前達には世界に恵まれ加護を生まれ持って与えられている。加護が無くとも固有スキルなどいろいろだ。だからお前達は生まれながらにしてその一点に大して抜きん出て優秀だ。しかしそれは同時に他の系統を扱うのを放棄している事になる。この『魔法実技』では実に多彩な系統を扱えるように制定された。一点に長けていてもバランスが悪い、そこでここではバランスよく覚えて貰う」
ロイゼは講義を行いながら黒板に火、水、風、土と四つを書き出す。光や闇、無属性など他にも系統はあるのだがこの三つはまだ解明されていない謎多い系統、なので研究が進んでいる四大系統を覚えるのだろう。
「加護を扱う際には勝手に魔法を生み出して発動してくれるので魔法を無詠唱で扱える。しかし加護のない他の系統を扱うには先程言った魔法のプロセスを踏まなければならない。ここで必要となるのが詠唱だ」
マサヒロも知っている、詠唱とは、魔法を行う過程で魔力変化などを手助けしてくれるサポーターのようなものだ。マサヒロは加護が無いためこの詠唱でしか魔法を放つ事が出来ないので、ここは重要なところだ。
「詠唱にはそれぞれの系統に必ず枕言葉が存在する」
そういってロイゼは生徒全員に見えるよう手を前に出すと掌を上に向けて、
「基本的なものは《紅蓮なる炎よ、我に従え》」
炎を起こしポンと消す。
「《秀才なる水よ、我に従え》」
水の球が空中に浮かび上がり水飛沫となって四散する。
「《高貴なる風よ、我に従え》」
掌からつむじ風が吹き起こった。
「《一途なる土よ、我に従え》」
土が掌に作られ、一点に集中させると小さな石に変えその場に転がした。
「こんな感じだ。自分が扱いたい魔法を扱うときはこの後にもう少し詠唱が必要となるが今日のところはこの基本の四つだけ抑えてくれたらいい。次の授業では実践に入るからな」
マサヒロは実技が今日ではないという事を思い出し内心ほっとする。もしこの状況で魔法なんて行使したら魔力量を抑えきれずにとんでもない事になってしまう。
「おい、マサヒロ、お前は授業受ける気がないのか?」
突然にロイゼがそう発する。よく見れば周りはみんな手帳をふわふわ漂わせてメモを書いたり、板書を写したりしていた。
みんなペンを持ってないことからこれは魔法の一種であり、みんなが普通に使えているという事は――マサヒロは直感した。この魔法、絶対に生活必需魔法だと。
「いや、少しボォーっとしてただけです。今から出しますから」
そう言ったは良いものの生活必需魔法などまだ一度として使ったこと無いのでどうすればいいのか全く分からない。外からマナを集めてもいいが、それだとまたとんでもないものが出来上がりそうで怖かった。
刹那、マサヒロの前に手帳が形成された。辺りを見渡すと心配そうにこちらを見ていたクルネがいた。
どうやらこの手帳はクルネが作ってくれたらしい。マサヒロは心の中で礼をすると、カモフラージュするかのように見様見真似で手を動かしてみた。
それに合わせてクルネが手帳に文字を記していってくれ、どうにかその場から脱っした。
「何がボーっとだ、お前はただでさえ加護がないんだから詠唱で魔法を扱う他ないだろう。そんな当人のお前がボーっとだと? 何をほざいてやがんだい、この才能なしが」
ロイゼは悪態をつけるがそれ以上は何も言わなかった。
マサヒロはどこの世界にも目の敵にしている生徒を持つ教師はいるもんなんだなと、昔の担任と同化させて見ていた。
「今日のところはこんなところでいいだろう。午後からは剣術の『武技』だから体ならしておけよ」
ロイゼはそれだけ言うと板書を一瞬にして消し去り、教室から出ていった。
ロイゼが教室からいなくなった事でみんなの心から枷が外れたかのように肩を撫で下ろした。緊張感はロイゼのあのキツイ性格のせいもあるだろうがそれ以上に、
「ちゃんと授業聞かないと魔法科に進ませてくれないから大変だよね。マサヒロなんて加護すらないからキツイんじゃない?」
セリアがマサヒロの席の前まで来てそう溢した。
「それにしても危なかったですね。みんなマサヒロが生活必需魔法すら使えないって知らないから、あの時はどうしようかと思いましたよ。マサヒロが上手く誤魔化そうとしてくれたからクルネも何とか対処出来ただけなので本当に間一髪でしたよ。あ、その手帳はもうマサヒロに上げます」
クルネの言うようにこの学園ではマサヒロが魔力すら持たないと知っているのがクルネを含めて三人しかいないのだ。もし魔力がないと知れ渡れば退学処分を免れる事は不可能に近くなるだろう、それも学長が何しようとも。
なので生活必需魔法に関しては、第一にマサヒロが上手くマナを扱えるようになってもらうというのはあるが、マナの扱いに慣れるには結構な時間を費やすため、それまではクルネかセリアのどちらかで支え合っていかなければならない。つまりマサヒロは常にどちらか二人と行動を共にしなければならないのだ。
マサヒロが二人に囲まれ話していると、やがてレックスが現れ、ニーナが横からちょくちょく会話に割り込み、エリザベスがセリアと口論を始める。このメンバーが大分定着してきたのか、クラスでは少し浮いた賑やかなグループとなった。
たまにクラスの生徒達とも会話を交わし、徐々にマサヒロの認識が高まっていく。それと同時にマサヒロへの好感度も高まっていった。
ただ一人を除いて。
ティホンだけはマサヒロを目の敵にしており、やがてクラスのみんなからも干されてしまった。誰かしらが話しかけたみたいだが、ティホンは孤高の存在を貫き通すかの如く、鮮やかに無視。
いつしかクラスはマサヒロ陣営一色に変わってしまった。
「(ティホン、いつまでそうしているつもりだよ)」
マサヒロは倒さなければならない相手と知ってはいるものの慈悲ある視線を向けた。