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『学園生活』3

 ぞとぞろと闘技場に生徒が集まりだし、そこかしこでグループに分かれいろんな話題のトークで盛り上がっている。マサヒロはクラスの生徒にハブられ一人になる事はなく、隣にはクルネとセリアの二人の生徒がいた。

 特段美女な二人を右と左に連れているものだから、周りの男子からは威圧感の凄い視線が送られていた。

「さっき来たばっかりでもう女誑かしてるかのよ」などと周りでは男が何か勘違いしたような事を言っているのがマサヒロの耳にも入ってくる。

 マサヒロはこの状況を見ればそうなるかなと仕方なさそうに頬を掻いた。


「ねえ、二人共……この状況は何か不味いんじゃないかな? 俺と知り合いってバレるのも時間の問題だよ?」


「それの何が悪いのですか? クルネはマサヒロの隣に居たいから居るのです。周りなんて気にすることはありませんよ、分かったらシャキッと胸張って男らしく」


「そうよ、マサヒロは私達より周りの人が好きだって言うの? せっかくあそこまで尽くしてあげたのに」


 尽くすと言ってもまだ会って一日の仲なのだが、とうに親しい感じの会話になるのはなぜなのだろうか?


「(二人共、何か積極性が増したような……)」


 マサヒロは小声で呟いた。呟いたところでこの状況が変わる訳でもないのだが。現実逃避してこの状況から逃れたいという心が何処かに存在したのだろう。

 マサヒロはあちらこちらに目を泳がせながら、視線が合うたびにそっぽへ反らした。


 それにしても異世界の女の子達は可愛いすぎる。目が合うだけで顔を赤らめてしまう程に別嬪揃いだ。スラッとした体に色白な肌、艶のある髪に、クリッとした目、どれもが美しく見えてしまう。その中でも特に可愛いのがマサヒロの隣にいる二人なのだから嫌でも目に付くのだろう。


「おい、マサヒロッ!」


 後ろからドスの効いた声が投げかけられビクッと背筋を震わす。恐る恐る後ろを振り返るとそこには金髪、蒼眼で顔立ちの整ったいわゆるイケメンが立っていた。


「な、何でしょう?」


「ちょっとこっちに来てくれ」


 そう言ってイケメンはマサヒロの腕を乱暴に掴み取ると、二人から引き離し、人影の少ない所へと連れ去る。マサヒロは人影がないのをいい事に「成敗してやるッ」と罵られるのだとばかり思っていたのだが、


「マサヒロ……よくやった!」


 イケメンは親指を突き立てて爽快な笑みで言った。こんな笑みを向けられたら大概の女性はイチコロだろう。


「僕もあの二人には入学当初から目を付けていた。けれど美人なだけあって気品も違ってさ、何ていうの、そこらの女子とは違って近づきにくいオーラが出てんだよね。けれどマサヒロはそれに怖気づくことなく声を掛けて二人共落した。勇者だよ君は!」


「お、おう」


 イケメンが言う事に納得出来る点もあるが、何か勘違いしている点もある。けれどそこを訂正すると有耶無耶になる気がしたのでマサヒロは敢えてそれで通していく事にした。


 それにしてもイケメンのギャップが凄い。冷静沈着で何事においても正義を貫きそうな感じに見えるのに、蓋を開ければマサヒロより女たらしに見えるイケメン。


「あ、そういえばまだ名前を言ってなかったね。僕の名前はレックス。よろしくね、マサヒロ」


「あ、おおう。れ、レックスは俺の事を何とも思わないのか? その何ていうか、あのティホンとかいう奴みたいに、はたまたその辺で愚痴ってる奴らとかみたいにさ」


 恣意的に行動しているように見えるレックスが気にかかり、マサヒロはかまをかけてみる。

 レックスは「ははは」と軽く笑い、頬を掻くと、


「僕はそんなふうには思わないよ。逆に友達になって欲しいくらいだね。なんだってあの二人の近くにいられるんだ。みんなの気のほうがしれないよ。二人と一緒にいたいなら妬むより攻めちゃえばいいと思わない?」


「そ、そうか。妬んでないならいいんだよ、うん。それで友達だっけ、うん、友達になろう」


「よろしくー、マサヒロ。じゃ、戻るか」


「そうだな」


 レックスとマサヒロは笑いながら闘技場へと戻る。

 戻った先ではセリアとクルネが頬を膨らませ、腰に手を当て、顔を真っ赤にさせながら待ち構えていた。どこからどうみても怒りに満ち満ちている。

 マサヒロは二人に怒鳴られるのを覚悟して胸を張り、目を瞑った。だが幾ら経っても怒鳴り声は聞こえない。


 マサヒロがゆっくり目を開けると、セリアは肺に空気を送り込み大きく口を開いた。


「あんたッ! うちのマサヒロに何してくれてんのよ! 私達みたいな女子囲んでるからマサヒロを妬んだの? ねぇ何、言いたいことがあるなら面と向かって言いなさいよ」


「そうです。悪いのはクルネ達であってマサヒロではありません」


 何かを勘違いしている二人。二人はマサヒロを庇うようにレックスを責め立てた。セリアに至っては詰問口調である。

 しかしレックスは彼女達の憤りなど全く感じもせず、


「いやいやー、僕はマサヒロ君と友達になっただけだよ。でいきなりだけど今日デートしない」


 本当にいきなりである。せっかくの美男顔がもったいない位の女たらしぶり。

 レックスは最早オッケーが出るとでも勘違いしているのか微笑みながら二人の返答を待った。


 二人は一瞬何を言われたのか理解出来なかったのか唖然としていたが、徐々にレックスの言葉が脳内に浸透していくと青ざめた表情になり、


「嫌よ、なんであんたみたいなのと」


「そうです。クルネはもう特別な人がいるんですから」


 クルネは特別な人がいると思わせレックスを諦めさせたかったのだろう。あわよくばマサヒロから離れろ位に。

 だがレックスのポジティブさにはクルネも押し黙るしかない程だった。


「特別…な人……それってもしかして僕?」


「…………」


「沈黙は正解って事で良いのかな?」


「良いわけないでしょ、このバカッ!」


 そんなクルネの叫びと一緒にレックスの頬には平手打ちがかまされた。

 透き通った大きな音を立ててレックスは吹き飛んだ。


 そんな光景を目にしていた生徒たちは俄然としている。クルネの馬鹿力に怯えているのだろうか。


「フンッ」


 クルネが青筋を浮かべながらそっぽを向く。そっぽを向いた先にいた男子生徒は「ひいぃ」とか弱い悲鳴を上げてクルネの視界から去っていった。


「全員集まったか?」


 今から詰問でもするかのような声が闘技場に響き渡った。その冷徹な凍てつく声音にみんな一斉に押し黙る。一ミリたりとも口を動かそうとするものはいない。

 そんな中一人、果敢に返答した者がいた。


 茶色の長髪を後ろに靡かし、手で髪を払うような仕草をする。その姿は凛としていて誰もが目を奪われた。


「全員集まっているようです。早く授業を始めましょう」


 透き通った声音。みんなの耳にも浸透する。

 マサヒロもその姿に見惚れ、レックスは勿論、クルネやセリアと言った女子達でさえも目を奪われている。

 そんな茶髪美女の姿を見て顔を赤くしていないのはロイゼただ一人。


「そうか、それは真面目な事だな。それじゃ早速授業に取り掛からせてもらう。まず二人組を作れ」


 合図と共に生徒は動き出す。近くにいる友達を見つけては声をかけ、どんどんと二人組が形成されていった。

 クルネとセリアも二人で組むらしい。取り残されたマサヒロは頼る者がいなく――ただ一人数分前に友達になったレックスという少年がいたのだが彼はマサヒロに「どうせ組むなら女子だよね!」と意気揚々に告げて去ってしまった、故にマサヒロには今頼る者がいない。


 マサヒロは誰かいないかなと辺りを見渡してみる。

 女子に断られ続けているレックス、腕を組み偉そうにしているティホン、その他控えめな者達が残っていた。マサヒロは控えめな者に声をかけてみようかと足を踏み出したその瞬間、後ろから肩を叩かれ、後ろを振り返る。


 そこには身長小さめな赤毛の少女がいた。

 彼女はマサヒロの隣の席で、席に着くとき微笑みかけてくれた子だ。


「マサヒロさんでしたよね。ニーと一緒に組まない? あ、ニーの名前はニーナだよ、よろしくね」


 ニーナと名乗った彼女は自然にマサヒロの手を掴み取ると優しく包み込むように握った。柔らかいすべすべとした心地よい感じがマサヒロを刺激する。

 このまま手を離したくないと一秒でも多くニーナの手を堪能していると手から離され快感が一気に掻き消された。そして同時に物凄い威圧の視線を感じる。マサヒロの横ではセリアとクルネが本気の殺意を向けていた。


 マサヒロは恐る恐る視線を二人に向ける。覇気のような二人の視線はマサヒロに襲いかかり神経を停止させた。マサヒロは心の中で二人の視線は一種の脅威だと呟いた。


 二人の視線から命からがら逃げ出しニーナの元へ戻って来る。ニーナは癒やしを与える微笑みでマサヒロを受け止めた。


「ニーナ、ありがとう」


 感謝の言葉を伝えるとマサヒロは我に戻ってくる。


「二人組に分かれたようだな。それじゃ、ここから先その人物がお前らのペアだ」


「へ?」「は?」「はい?」


 周りから疑念の声が上がる。しかしロイゼは本気だった。


「だからそれが卒業までのペアだって言っているんだ」


 もう疑念の声は上がらない。この男は本気だ、意見を変える事はないと分かっているから。

 そしてそのまま異論は上がらず授業が始まった。

 ちなみにレックスは最後の最後まで諦め続けなかったが結局断られ続け、残り者のティホンと組む事となった。


 ◆◇◆


「それじゃ今日はお前たちの実力を見る。他のペアと闘え。勿論闘う時は一対一だ。意欲のある者から始めろ」


 意欲のある者、みんなが真っ先に思い浮かべたのはティホンだった。だがティホンと闘いたいと言うものなどいない。

 ティホンはなかなか敵が現れない事に舌打ちをすると、マサヒロの方へと近づいていった。


「おい、お前が俺とやれ。決戦の模擬戦とでも思いやがれ」


 マサヒロは結局自分かと落胆する。断る義理はないので闘うしかない。ニーナの方を伺うと、こちらはこちらでやる気が溢れ出ていて、拳を強く握りしめながら肩を震わせているものの口元は緩み、笑みが溢れている。


「初めはお前らか。闘技場の中心に行け、それ以外は邪魔だ。観客席にでも失せろ」


 生徒達はマサヒロとティホンの組を残して蜘蛛の子を散らすように観客席へと逃げていった。


「おい、早く始めやがれ。こちとらやりたくてウズウズしてんだよ」


「全くお前は言葉遣いというものがなってないんだよ。それでどちらから行くんだ? ティホンお前は分かるがマサヒロの方は――」


 そう言いかけたところでマサヒロが前に出た。ニーナに危険な目には合わせられない。それにこの状況を作ってしまったのは自分のせいだと自覚していたからだ。


 だがティホンとやり合う覚悟があるとしても闘う技術がない。マサヒロはニーナの方へと振り返ると、


「ねえニーナ。水系の基本魔法の詠唱って分かる?」


「うん。分かるよ。えーとね、《秀才なる蒼の水よ、我に従え》だった筈だよ。でもこれって本当に基本中の基本だけどいいの?」


「うん、大丈夫。ありがとうな。じゃ行ってくるよ」


 マサヒロは静かに闘技場へと赴く。これは別に負け試合でもいい、退学などという制限はかかっていないのだから。それならこの試合に望むものは一つ、今の実力でどこまで押せるか、それとティホンの炎魔法に対して水魔法は有効なのかどうか?


「ようやく来たか、さっさと来いよこの逃げ腰がァ。それともそんなに俺とやり合うのが恐かったのかァ、自分の能力を相手に見せるわけにはいかないとでも? 甘いなァ、お前がどんな手を使おうと俺には勝てねェよ」


「何、御託を言ってんだ? お前とやるのが恐い? そんなんだったら元よりこの闘いに来てないって。能力をばらしたくないのはいっそお前の方だと思うけどな」


「ふん、お前みたいなイキった餓鬼を潰すのは俺の趣味だぜェ」


「そろそろ良いか? 両者出揃ったところで――始め」


 気の抜けたような始めの合図で決闘が始まる。ティホンは相変わらず自意識過剰なのか一も二もなく飛び込んだ。マサヒロでも見切れるようなスピード。マサヒロは地面を蹴って横に飛び退きティホン渾身の右ストレートを躱す。


「チッ」


 ティホンは一撃で仕留められなかった事に不満を抱き軽く舌打ちをするが、しゃがみこんだまま方向転換し先程と全く同じ攻撃でマサヒロに迫った。

 勿論マサヒロは難なくその攻撃を躱す。

 だがそこからのマサヒロの攻撃はなかった。理由は明白、水系魔法の詠唱を知ったところで魔法を発動させるには魔力の根源マナが必要である。そのマナを感じ取るには多大な集中力が浪費され、他の事に頭が回らなくなるのだ。つまり魔法を発動させるにはティホンの攻撃を受け続けなければいけないし、魔法を発動しなくとも永遠とティホンの攻撃を躱すだけと、マサヒロに優勢な部分など一つもありはしないこの闘いなのである。

 魔法を発動するにはほかの方法もあるにはあるのだが、それを今ここで実現させるのは皆無に等しいだろう。


 ティホンは永遠と魔法すら使わずに攻めてくる。

 なのだが動きの一つ一つがしっかりしていて飛び掛かるときも体勢は安定しているし、着地した時点でも隙の一つも見せやしない。そんなティホンから隙を作り出そうとするのには相当骨が折れる。


「ウラァァッ」


 ティホンはパンチを止め空中で蹴りをかます。空気を切り裂く音がマサヒロの耳元で唸った。

 蹴りはパンチに比べ攻撃範囲が大きい。その為マサヒロは躱しきれず顔面に食らった。視界が大きく歪み足がもつれる。


「へっ、パンチばかりだと思ったかァ?」


 ようやく攻撃が当たった事で調子づくティホン。腕を組み大きな態度でマサヒロを蔑むように見た。

 その行動を見てマサヒロは直感的に魔力を感知するのは今だと感じる。


 集中力を高め大気中のマナを呼び起こす。光と共にマナがマサヒロに纏わりつきマサヒロの能力、魔力と変化した。


 ティホンは目の前で起きる現象に目を丸くして驚愕する。

 組んでいた腕は解かれ、大きな態度も今では消極的だ。


「……何だよ、それ」


 見たことがない能力。見たことがない強さ。ティホンは一瞬にしてプライドなんてものを捨て去った。

 魔法を使わない、そんな事を言っている場合ではない。魔法を使わなければ死ぬ。


「《秀才なる蒼の水よ、我に従え》」


 驚愕で腰を抜かしそうになっているティホンなど気にせずに水系魔法の詠唱を行う。だがただの基礎魔法、殺傷能力などほとんどない。

 ――そう普通なら

 少量の水しか具現化させる事の出来ない詠唱から池の水が凝縮されたような大量の水が現れる。

 マサヒロの空中に存在するその水を見れば殺傷能力がないなどと口を開く事は許されない。

 ティホンとマサヒロの一戦を見ていた生徒達はマサヒロの能力を見て俄然とし、立ち尽くした。


 いきがっていたあのティホンでさえも動きを止めてマサヒロを見ている。魔法を放つ為に溜め込んだ魔力も動きを止めた。

 ――まだ魔法を使い慣れていないけど、使いこなせるようになればこの世界をも凌駕してしまう程の実力は持っている

 学長の言葉が脳内で反芻される。


「これが、使い慣れていないだと。ふざけるなっ! 《目覚め(フレイム)》」


 ティホンも対抗するように加護の力を呼び起こした。

 炎が腕に纏わりつく。

 魔力が増幅する。

 そしてティホンの目の色が変わる。


神の創る太陽(フレイム・サン)


 同じようにティホンも頭上に炎球を創った。

 ただティホンは最上級魔法。

 基本魔法と最上級魔法では雲泥の差。なのにこうして拮抗する力があるとは、本当に世界を凌駕してしまうくらいの強さを持っているのではないか?

 みんながそう感じた。


「ハァァァァァッッ!!」「ウオァァァァァッッ!!」


 同時に魔法が放たれた。

 水が唸りを上げながらティホンへと向かう。

 炎が爆風を撒き散らしながらマサヒロへと襲いかかる。


「いけぇぇぇっ」「死ねェェッ」


 二つの魔法がぶつかりあった。

 炎と水の間に境界線が作られる。

 押されながらも押す、拮抗した二つの魔法。

 徐々に削り取られ火の粉や水飛沫が舞う。


 普通ならば炎と水では水の方が圧倒的に優勢。しかし基本魔法と最上級魔法だからか、水を炎が押していた。

 そして大きな水球を水飛沫に変え、炎はマサヒロに襲いかかる。


 炎はマサヒロの手前までいくと急に倍の大きさへと膨れ上がる。

 刹那、炎は消えた。


「そこまでだ。実力は分かった。次」


「チッ」


 ティホンは不満そうに舌打ちをすると踵を返す。そして首だけを振り返らせ、


「実力は俺の方が上って分かったろ。なら大人しくここを去りな。まぁどんだけ足掻こうが俺には勝てないけどね」


 ティホンは言い終えると目線をマサヒロから外し、闘技場から降りた。マサヒロももう闘技場に用はないのでその場から去る。去り際にペアのニーナとすれ違う。ニーナは気合を入れているようで胸の前で拳を作って「大丈夫、大丈夫」と呟きながら歩いていた。


 マサヒロはその光景を眺めて邪魔をしていいものか迷っていたが少しでも緊張を解して上げた方が実力が発揮出来ると思い魔が差したのかニーナに話しかけていた。


「ニーナ、大丈夫だよ。相手は男だけどレックスは女の子相手にメチャクチャするような奴じゃないよ。だから安心して戦えばいいと思う」


 マサヒロは内心レックスは女の子相手で鼻の下を伸ばして油断している内に負けるだろうと思っているが流石に友達をそこまで貶すのは可愛そうなのでそこは伏せておいた。

 ニーナはマサヒロの言葉を聞くと明るい顔でこちらを見て、


「うん、ありがとう。大丈夫だよ、ニーはこれでも特進クラスなんだからね」


 ここにいるのは特進クラスつまり実力のある者達なのだ。マサヒロは杞憂だったな頬を掻き、闘技場から降りると場外からニーナの活躍を見守る事にした。勿論レックスの事だって忘れていない。レックスにはそれなりに頑張って欲しいくらいに思っている。


 ニーナの向こう側から参ったなという表情で現れた金髪の少年。どうやらこの場に及んで女の子をたらし込むような残念なイケメンではないらしい。

 油断している表情は一切ないレックスにマサヒロは内心だけで謝っておく。


「両者出揃ったな。それでは――」


 二人は腰を低くして構える。


「始め!」


 合図と共にニーナは飛び出していた。レックスは予感していたかのように腕を顔の前でクロスさせ受け身の大勢に入る。

 ニーナは右腕を後ろに引き、左手で反動をつけるとレックスの構えたクロスの部分にドンピシャで殴り入れる。


 女の子と言えるのか分からない威力で拳がレックスを襲った。場外にいるマサヒロにまでも風圧が来るほどだ。


「君は闘拳魔道士の一族だろ? 赤髪でこの威力が何よりの証拠」


 レックスの腕から煙が立つ。今ニーナの拳を受けた場所が黒焦げになっていた。


「闘拳魔道士?」


「闘拳魔道士も知らないのか?」


 いつの間にか近くにいたロイゼがマサヒロの疑問について答えた。


 闘拳魔道士。それは拳を中心とした戦法で殴り入れた拳から直接魔法を放つ魔道士のこと。故に闘拳魔道士は体術を得意とする。


 レックスの黒焦げた腕から察するにニーナの能力は『火の加護』で間違いないだろう。

 マサヒロはティホンの炎を間近で体験しているので威力がどれくらいのものか知っていた。その炎をゼロ距離から受けて無事でいられるレックスは相当な強さを誇るのだろうと分かる。


 特進クラス、マサヒロが入学しようとしているクラスは揃いも揃って化物揃いだった。


「闘拳魔道士は確かに強い。だけど自分と相性が悪いとその動きは一変して鈍くなる。普通なら初撃または速攻戦でケリをつける。だけど相性が悪いと体力が持続出来ず、返り討ちに遭う」


「御託並べる暇があるなら勝つ算段でも立てたらどう? まだ勝ってもいないのに勝ったような口ぶりは一番腹が立つよ」


「勝つ算段はもう立ってるさ」


 レックスの蒼眼が輝き出す。海に溶け込みそうな真っ青な色。


「《目覚め(アクア)》」


 レックスの加護である『水の加護』が目覚め、水がレックスの頭に合わせて冠を作った。


「レックスさんは『水の加護』でしたか。さっきの攻撃も水で緩衝させてダメージを軽減させたのでしょうが、まだニーに勝ったとは言えませよ――《目覚め(フレイム)》」


 ニーナも加護を目覚めさせる。ティホンと同じく『火の加護』なのでニーナも腕に炎が纏わりついた。


 ニーナは足に魔力を溜めると炎を爆発させ爆風に乗ってレックスへと迫った。空中で横に回転しながら勢いをつけ回し蹴りをレックスに向ける。

 レックスは表情を変えずに水を手に纏わせニーナの蹴りを振り払う。


 水飛沫が飛び散り、レックスの腕から水の小手が消えた。

 ニーナは片足で着地をすると大勢を持ち直し、左足を軸に右足を振り上げた。水飛沫はまだ空中で舞っている。

 レックスは右から迫る脅威に右腕で対処し、相手の足に自分の水を這うように纏わりつかせる。


 ニーナは足に迫る水に気づくと一旦距離を取り、足を爆発させ水を蒸発させた。

 空中に舞っていた水飛沫はようやく地面へと着陸する。


「す、すごい。一瞬の事過ぎて何が起こっているのか全然分からなかった」


 観客席で見ている生徒達もマサヒロと同様の心理状態にあるのか凄い戦いが繰り広げられたのは分かるが何が何やら理解不能といった感じである。


 レックスは女の子を傷つける事は出来ないのか自分から攻撃をしにいくことはない。今だって相手の出方を見守るだけで棒立ちの隙だらけである。


「ニーも随分と舐められているようですね。なんで本気を出そうと思わないんですか?」


「僕は女の子を傷つけられない質でね。そっちのマサヒロだったら容赦はしなかっただろうけど」


 レックスはマサヒロを指さして言う。


「でもそろそろ終わりにしたい頃ではあるし、次は少しばかり本気になるよ」


「そうですか、それは幸いです」


 ニーナは魔力を高めると余波で炎が漏れ出るほど限界まで持ち堪える。次の技で決めるつもりなのだろう。

 レックスは相変わらず棒立ちだ。


「いきますよ! 死んでも許してくださいね」


「大丈夫、死なないから」


 ニーナが地面を蹴りレックスへと向かっていく。地面を一度蹴るたびに空間が歪む。

 レックスはニーナが走り出したのを見て構えを取った。一気に魔力を高め、放出させた。


「《ウォーターウォール》」


 レックスの前に滝が立ちはだかりニーナの行く手を阻む。しかしニーナは止まる事なく滝に突きをする。普通ならば貫通しない水の壁が炎を纏ったニーナの突きに討ち破られる。


 ニーナの突きは水の壁を貫通したものの手はレックスまで届かなかった。にも関わらずニーナは諦念する事なく、水の壁の向こう側にある手まで魔力を張り巡らせ炎を爆発させる。

 手を覆っていた水の壁が粉砕する。湯気がたちこもり辺りが見えなくなった。


「そこまで」


 ロイゼの声が闘技場に響き渡る。どちらが勝利を手にしたのか、みんなが固唾を飲み込みその一声を待った。


「ニーナは気絶、よってレックスの勝利」


 ニーナが起こした爆発、ゼロ距離からでないにしてもあの近距離からとんでも威力の爆発を受けたのだからレックスが負けでもおかしくない。だがレックスは湯気の向こう側から悠々と現れ傷一つついていなかった。対してニーナはロイゼの言う様魔力を使い過ぎて気絶している。


「レックス、ああ見えて強い。もしかしたらティホンよりも強いかも知れない。あの威力を防いだ水魔法があるなら教えて貰うのもいいかもだが……」


「おいマサヒロ。こいつはお前のペアだろ。さっさと連れてけ」


 床に転がる屍のようなニーナを指さして言った。

 マサヒロはニーナに歩み寄ると姫様だっこで持ち上げ闘技場を後にした。両ペアの模擬戦が終わったので場外で観戦する事なく、観客席へと戻っていく。


 観客席へと向かう途中階段でクルネとセリアのペアとすれ違った。


「二人共がんばってよ」


「マサヒロ! 凄かったですね、マサヒロもレックスもそこのニーナも。一戦目からあんな試合見せられるとこっちが困りますよ。でもクルネだって特進クラスの一人、負けませんよ」


「生活必需魔法も使えないマサヒロに負けるわけないじゃない」


 二人は負けない宣言をすると階段を下っていった。


「さて二人の模擬戦を観戦するとしますか」


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