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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
贖罪編
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贖罪編36 藤宮勢力


「鬼が……人間……?」

 呆然と呟く俺に、トシとネコメはゆっくりと頷きを返してきた。

 俺が立ち去った後の生徒会室でされたという、鬼の秘密の話。

 それを聞かされた俺は、しばし放心した。

(鬼が、人間……。俺は、それを……)

 先月の事件で、俺は異能具を用いて鬼の首を刎ねた。

 鬼は危険で凶暴な異能生物で、異能者が倒すべきもの。

 殺さなければならない化け物。

 それが正しいと思ったからではなく、当然のように俺は鬼を殺した。

 でも、あれが人だと知っていたら、果たして俺は迷わずに殺めることが出来ただろうか?

 手に残る肉や骨を噛み千切る感触は、今でも鮮明に覚えている。

「大地君、大丈夫ですか?」

「え?」

 ネコメに声をかけられ、俺は自分の手を見て呆然としていたことに気付いた。

「……すいません、言うのが遅くなってしまって。本当は大地君が鬼と戦うようなことになる前に教えなければいけなかったのに」

「あ、いや……」

 ネコメの言う通り、予め教えておいて欲しかったといい気持ちも確かにある。

 しかし、もし鬼の正体を知っていたら、俺は先月鬼と戦うことが出来なかったかもしれない。

 そうなれば、あの事件の結末は違っていただろう。

 だとすれば、少なくとも今まで知らされていなかったのは正しい判断だと思う。

「……熊も猪も、普通の動物なら俺は殺すのを躊躇う」

「え?」

「でも異能生物なら、被害が出る前に仕留めるのは霊官の仕事だ。それは、鬼でも変わらないさ」

 そうだ、妖蟲や妖獣だって、元は普通の虫や動物。

 動物愛護を語るなんて偽善だと思うが、それでも生き物を殺す時に全く躊躇わない人間なんていないと思う。

 でも、必要であればきっと殺す。

 霊官っていうのは、その責任が少し一般人より重いってだけのことだ。

「俺は、殺すよ。鬼が元々何であれ、必要なら、殺す」

 俺はハッキリとそう宣言した。

 本当は、そんな簡単に割り切れはしない。

 いざとなったら躊躇うかもしれないし、戦うことに怯えるかもしれない。

 でも今は、こう言おう。

 分かったフリをして、悟ったつもりでいよう。

「大地君……」

 俺の心境が伝わってしまっているのかもしれないが、それでもネコメは「分かりました」といってそれ以上の追求をしてこなかった。

「…………」

 しかし、俺が本当の意味で鬼と向き合うのは、もうしばらく先のことになる。

 答えを先延ばしにしたツケを支払うことになるとは、この時の俺は思ってもいなかった。

「……あの、いいかな?」

「ん? どうした、八雲?」

 話がひと段落ひたところで、タイミングを見計らっていたように八雲が手を上げた。

 つい今しがたまで敵方にいた八雲の発言とあり、皆んなが八雲に集中する。

「鬼なんだけど、残りは昨夜取り逃がした一体だけだよ」

「え⁉」

 八雲の予想外の発言により、諏訪先輩の『最低二体、最大四体』という考えはあっさり否定されてしまった。

「霊官の二人は、殺された。わざわざ死体を回収したのは、藤宮が他の実験に使う為だったんだよ」

「他の実験?」

 八雲は唇を噛みながら小さく頷き、ゆっくりと語り始める。

「死体を使った、死なない異能者の実験。キョンシーみたいなものを作ろうとしているんだよ」

「ッ⁉」

 八雲の言葉に、俺たちは目を見開いた。

 キョンシー。確か、中国の『道士』と呼ばれる異能使いが使役する、化け物。

 人間の死体を操り人形にして使役するという、イカれた異能だ。

「そ、それは禁忌の行いです‼ 大昔に世界的に禁止された……‼」

「犯罪者相手に、そんな理屈通用しないよ。そんなこと気にするような奴なら、そもそも人工異能者なんて作らないしね」

「それは……」

 その通りだ。

 藤宮、あの女は心底イカれている。

 アイツにとっては禁忌の実験だろうが何だろうが、異能具を一つ新調する程度の感覚なのだろう。

「……アイツの目的は、異能の軍事利用。その一端として、自分の軍隊を作るつもりなんだよ。異能の軍隊を」

 人工異能者に、その失敗過程で再利用した鬼。浅慮な一般人に異能結晶を与えた異能混じりに、殺した異能者を使ったキョンシー。

 それだけの異能技術があれば、あり得るぞ。

 藤宮のための、異能軍隊が。

「でも、キョンシーは失敗だった。死体を動かすまでは出来たけど、生前の異能を使わせることはできなかったんだ」

「だから、二人の異能だけを掠め取ったってことか?」

 俺の問いに、八雲はゆっくりと頷いた。

「古川さんの異能は、数珠に異能術を待機状態で固定するもの。固定自体は古川さん独自の技術だけど、使うだけなら誰でも出来るものだったらしいよ」

「拳銃を作るには専門の技術がいるけど、引き金を引くだけなら子どもでも出来るってことか」

 つまり、霊官の二人は殺されてキョンシーにされたから鬼にはなっていない。

 キョンシーというものがどの程度の脅威になるのかは分からないが、八雲が『失敗』という言葉を使った以上、藤宮の思惑通りの戦力にはならなかったはずだ。あの鬼より強力ってことは無いと思いたいな。

「……じゃあ、あとの『一人』は?」

「…………」

 最大で四体と思われていた鬼の内、霊官の二人は鬼にされていないと判明した。

 残りの二体の内、一体は昨夜確認している。

 最後の一体、いや、一人。

 八雲の前に人工異能者の素体として作られた、最後の一人の所在が明らかになっていない。

「ひ、『一人』ですか……?」

 鬼ではなく人間としてカウントした俺の言い方が気になったのか、ネコメは僅かに訝し気な顔をした。

「ああ、『一人』だ」

 実を言うと俺は、その最後の一人に心当たりがあった。

 藤宮が進めていた、絡新婦を使った人工異能者を作る実験。

 先月の事件の夜、アイツが八雲の生まれを俺たちに喋ったときのセリフは、確かこうだった。

『六体目までは完全に失敗だった。七体目でようやく形になった。それが十八年前のことよ』

 そして十六年前に生まれた八人目の人工異能者が、他でもない八雲。

 八雲が生まれる二年前に作られた、完成に近い『七人目』がいるはずなんだ。

 俺の考えが伝わったのか、八雲はゆっくりと頷き、「そうだよ……」と口を開いた。

「……じゃあ、昨夜のあのフードの女が」

「っ⁉」

 俺の出した結論に、ネコメとトシが驚愕したのを感じる。

 やっぱり、あのフードの女が七人目の人工異能者。成功に一番近い、失敗例。

 そして、俺の考えが正しければ、八雲が藤宮の側に付いた理由は、その人のためだ。

「あの人は、奈雲、東雲奈雲。蜘蛛七号で、奈雲」

 蜘蛛七号、奈雲。

 それは八雲と同じ、ナンバリングのような名前だ。

「奈雲……あたしの……お姉ちゃん」

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