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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
贖罪編
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贖罪編31 彩芽の考察


「鬼はそう簡単に作れる異能じゃない。藤宮の支配下にある鬼は、昨夜取り逃がしたやつを合わせて、多くてもあと四体だと思うわ」

 彩芽の出した答えに、生徒会室にいた一同は複雑な表情になった。

 四体。決して多いとは思わないが、あの鬼のポテンシャルを間近で見た者からすれば断じて楽観できる数ではない。

「えっと、何で四体なんですか?」

 具体的な数字が出たことを疑問に思ったトシがそう問いかけ、彩芽はデスクの上に置いてあったバインダーから一枚の資料を抜き取る。

「鬼は、異能生物。つまり生きているの。鬼を作るには生きた人間に異能を取り込ませる必要があるから、死体からは作れない。それに異能の資質がある人間がそう都合よく何人もいるわけないし、いたとしても攫うのだって簡単じゃない」

 鬼を作るために必要なのは、異能の資質が高い人間と、その人間に摂取させる異能。

 後者は最悪妖蟲でも何でもいいし、そもそも異能の培養を行っていた藤宮なら適した餌を量産できてもおかしくはない。

 問題は前者、素体となる人間である。

 異能の資質が高く、かつ事件性が出ることは鑑みれば家族や友人がいない者が望ましいが、そんな都合のいい人間がそうそう見つかるはずもない。

 要は鬼を作るための材料が無いのだ。

「じゃあ、あと四体ってのも想定にしては多くないですか?」

 トシの指摘はもっともだ。

 藤宮は先の事件で既に四体、昨夜の襲撃を合わせると、計五体もの鬼を失っている。

 それに加えてあと四体という数字が出たのには、何かしらの根拠がなくては納得できない。

「……八雲が人工異能者として作られたのは、知ってるわね?」

「は、はい……」

 八雲は藤宮が自分の遺伝子を使い、異能混じりとして完成しやすいように調整して作られた。トシが大地から読み取った情報の中にも含まれていたことだ。

「藤宮の逮捕後に押収したパソコンの中に、研究の考察と思われるものがあったわ。ここには、八雲の前に七体の異能混じりを作ろうとして失敗したことも書いてあった」

 取り出した資料、その研究考察を印刷したものに目を落としながら彩芽はそう言った。

「藤宮の目的は鬼を作ることじゃなくて、異能混じりを作ること。でもその過程で出た失敗を無駄にすることはしないでしょうね……」

「つまり、その七体、七人を使って、鬼を……?」

 トシの結論に彩芽はゆっくりと頷いた。

 目的である異能混じりを作ることには失敗しても、その過程で出た混ざれなかった者たちは鬼として自分の駒にする。

 よくできた無駄のないリサイクルだ。

「パソコンは藤宮が密かに作っていた研究施設から押収したんだけど、鬼そのものは見つからなかったわ」

 彩芽はそう言ってバインダーからもう一枚資料を抜き取ってデスクに置いた。

 そこには研究施設と思われる薄暗い部屋の写真が貼られており、部屋の床には気味の悪い黄緑色の液体が撒き散らさせていた。

 そして部屋中に敷き詰められた、巨大なガラスの円柱。

 写真では縮尺までは分からないが、天井の高さから見て少なくとも四メートルはありそうな巨大なものに見える。

「これに、鬼が……?」

「そう考えるのが自然よね」

 ネコメの言葉に彩芽は頷く。

 つまりこの写真にある部屋で、藤宮は異能混じりを作る過程で出た鬼を育てていた。そういうことだろうと彩芽は推測していた。

「……残りの二体は?」

 彩芽が考える鬼の残りは四体。

 先月ネコメと大地が倒した鬼が四体で、昨晩ましろが倒した鬼が一体。鬼にされた異能混じりのなりそこないが七人なら、数が二体合わない。

「……大木トシノリを護衛していた、二人の霊官よ」

「ッ⁉」

 予想していなかった彩芽の答えに、ネコメとトシは言葉を失った。

「昨夜あのフードの女が使った異能、憶えてる?」

「えっと、蜘蛛の糸ですか?」

 トシは記憶を手繰り答えを出したが、ネコメはその答えをあっさりと否定する。

「いいえ、あの数珠ですよね?」

「ネコメが正解。あれは大木の護衛を担当していた古川さんの異能術よ。彼は異能使いにしては珍しいマルチな戦い方が出来る異能者だったわ」

「珍しいんですか?」

 そもそも異能なんてもの自体が珍しいという意識が残っているトシの疑問だったが、彩芽はこの機会にキチンと教えておこうと説明を補足する。

「珍しいわ。異能者、特に異能使いは得意分野でのみ実力を発揮できる場合が多いの。私は遠距離は得意だけど、見ての通り一対一の近距離戦なんかは苦手だし、叶は逆に接近戦なら日本有数の異能者よ。だけど、古川さんは数珠の珠一つ一つに別の異能術を施すことで、どんな間合いや相手にも臨機応変に対応できる人だった」

「……それをあの女が持ってたってことは……」

「古川さんは殺されたか、遺体が発見されなかったことを考えれば、利用された」

 古川と飯島、消息不明の二人の霊官は、殺されたか鬼にされたかのどちらかであると、彩芽は考えた。

 故に、鬼はあと多くて四体。少なくとも二体はいると考えていいだろう。

「そして、あのフードの女……」

「うん、多分、あれが、共犯者」

 かねてより存在すると思われていた、藤宮の協力者。

 霊官がガサ入れする前に研究施設の鬼をどこか他の場所へ移し、藤宮の脱獄を手引きし、獄中の藤宮に代わって大木に異能結晶を与えた者。

 あのフードの女がそうであると、彩芽は確信していた。

「ましろ、戦ってみた感想はどう? あの女は絡新婦の異能混じりとして、どの程度のもの?」

 異能とは単純な強さで測れるものではない。

 例えば大地は筋力でネコメに勝るが、スピードなら劣る。そもそもケット・シーの特性からして大地はネコメに勝てない。

 異能同士の相性が重要になる異能者の戦いだが、同じ異能と混じったものなら話は別だ。

 同質の能力同士なら、その優劣はハッキリと出る。

「正直、強い。多分、やくもんより、かなり」

「そう……」

 相手の強さに気が滅入った彩芽だったが、同時に少し安心もした。

 これであのフードの女は八雲とは何の関係もない、ただの藤宮の私兵という可能性が強まったからだ。

 八雲は藤宮の最高傑作であるはずだし、その八雲より強い異能混じりがいるならわざわざ八雲を従える必要はない。

 恐らくあの女は、八雲が知らないうちに藤宮の下に就いた流れ者。彩芽はそう結論付けた。

「敵は鬼四体に、絡新婦の異能混じり。そして、藤宮。他の霊官にも追って通達するけど、全員気を引き締めて頂戴」

『はい‼』

 号令に勢い良く返事をした者たちの顔を見まわし、彩芽は満足したように頷いた。


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