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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
贖罪編
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贖罪編22 先輩の懇願


 マイクロバスが異能専科の校門前に到着し、開け放たれた乗車口からなだれ込む山の湿気った空気が冷房の効いていた車内の空気を塗り替える。

 車椅子を固定していたシートベルト兼用のベルトを外し、諏訪先輩が車内の霊感たちに向けて呼びかける。

「みんな、今日は急な呼び出しに応じてくれてありがとう。学校では例の捜査網はあまり関係ないけど、気は抜かないでね」

 先輩の言葉に『はい』と一斉に返事をし、今日の緊急招集はお開きとなった。

「それじゃあ、悟志とネコメは私たちと一緒に八雲のところに行きましょう。大地も来る?」

「当たり前だ」

「そう」

 短くそう言って、通行の関係上諏訪先輩は最初にバスを降りる。

 マシュマロがバスに備え付けの折りたたみ式のスロープを組み立て、バスのステップと地面の間に斜面を作る。

「大地、あんた押してくれる?」

 車椅子の押し手をちょいと示す諏訪先輩に、俺はあからさまに嫌な顔を向ける。

「はあ? なんで俺が……」

「ましろの腕力じゃ危ないでしょ。いつもは叶にやってもらってるけど、今日はあんたで我慢してあげるわ」

 頼んでおいて『我慢してあげる』とは、相変わらずなんて横暴な奴だ。スロープの途中で手ェ離してやろうかコンニャロ。

「何その顔? あんた最近自分の立場忘れてない? 腎臓って売ったら結構なお金になるのよ?」

「分かったよ分かりましたよコンチクショウ」

 人の腎臓なんざ売らんでもこの人なら作れそうなもんだが、負債を突きつけられては言うことを聞かざるをえない。

 俺はリル入りのケージを諏訪先輩の膝に乗せ、滑らないように後ろ向きで車椅子を支えながらスロープをゆっくり降る。

 マシュマロが水玉模様の傘を諏訪先輩の頭上にかざし、降りしきる雨に濡れないようにしている。俺には差してくれてないけど。

「大地」

「はい?」

 濡れたスロープに滑らないよう気をつけていると、諏訪先輩は小声で俺に話しかけた。

「私は異能専科の生徒会長。役員のましろも含めて、支部の準幹部並みの立場なの。だから今回の件で、私たちがあの子の味方になるには限界がある」

「…………」

 あの子というのは、言うまでもなく東雲のことだろう。

 諏訪先輩は、その立場のせいでおおっぴらに東雲の味方になれない。そう言っている。

 わざわざ小声で話しかけてきたということは、あまり人に聞かれたくないということだろう。

「だから大地、あなたはあの子の味方でいてあげて」

 スロープを降りきり、押し手から手を離す。

 そして諏訪先輩は俺に向き直り、真っ直ぐに目を見て言った。

「あの子を、信じてあげて」

「…………そんなの」

 東雲の味方は、今極端に少ない。

 幹部連中が東雲に疑いをかけるのは当然だが、まるで捜査の進捗が芳しくないから、とりあえず東雲を悪者に仕立てようとしているように感じる。

 捜査がうまく進んでいるように見せかけるための人身御供。要は東雲の前科を後ろ盾にした時間稼ぎだ。

 そして東雲に前科があるのは紛れも無い事実で、諏訪先輩はそれを擁護できないでいる。

 だったら俺は、俺たちだけは東雲の味方でいよう。

「そんなの、当たり前だ」

 俺の答えに諏訪先輩は薄く微笑み、試すような口調で言った。

「どうして?」

「どうしてって、友達だからな」

 どうしても何も、それ以外に理由なんて無い。

 友達が辛いなら、支えてやるくらいのことは当然だ。

「そう……。安心したわ」

 優しく笑う諏訪先輩の後ろにバスのスロープを片付けたマシュマロが降り立ち、その白い手で傘をかざしながら車椅子の押し手を握る。

「ワンちゃん、やくもんのこと、お願いね?」

 次々と霊官たちがバスを降りてくる中、珍しく不安げな表情を見せるマシュマロにも同じように頷き、俺は決意を固めた。

 東雲の味方は今、俺とネコメと、あとはトシくらいしかいない。

 諏訪先輩やマシュマロ、烏丸先輩を含め、中部支部の幹部連中は敵ではないが信頼することは出来ない。

 まずはトシの異能で東雲の潔白を証明し、あとは何としても藤宮を捕まえる。

(どこでほくそ笑んでいるか知らねえが、覚悟しとけよ藤宮……‼)

 俺のダチをあそこまで追い詰めた落とし前は、キッチリつけてやる。



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