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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
贖罪編
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贖罪編21 帰り道


 説明会を終えた俺たち鬼無里校の霊官は、再びマイクロバスに揺られて学校に戻る道中を進んでいた。

 車内の空気は、はっきり言って最悪に近い。

「オイ大地、それやめてくれ」

「あ?」

 カタカタカタカタ。

 隣の席で仏頂面を晒すトシの視線を追うと、俺の膝が小刻みに震えていた。

「ああ、すまん」

 意識せずに行なっていた貧乏ゆすりを押しとどめ、窓に意識を向ける。どうやら俺は相当苛立ってしまっているらしいな。

 雨粒の当たる窓の外はわずかな街灯はあるものの仄暗く、鏡のように反射した窓は外の景色ではなく、通路を挟んで座るネコメの姿を写していた。

 ネコメは意気消沈といった様子で膝の上に手を置き、虚ろな瞳で虚空を眺めている。

(柳沢さん、なんであんなことを……)

 その姿に先ほどの柳沢さんの言葉を思い出し、歯嚙みせずにはいられなかった。

 藤宮の内通者として最も有力な候補は、東雲八雲。

 東雲は今、中部支部の幹部から疑いをかけられている。だから東雲は今回の招集に呼ばれなかった。

 疑われる理由は単純だ。

 東雲は霊官の資格を持つ実力者で、藤宮の娘。何より藤宮の共犯者だったという前科まである。疑うなという方が無理というものだ。

 しかし、藤宮同様に東雲もまたほんの数日前まで異能者用の刑務所に服役していた。

 大木の殺害に関しては、絶対的なアリバイがある。

 そんなことは分かりきっているのに、わざわざあの場で東雲の名前を出すなんて。

「諏訪先輩、なんだって東雲に疑いがかかるんだ? 東雲の出所と大木たちが行方不明になった時期は一致しないだろ?」

 大木が行方不明になり殺害されたのは、音信が途絶えたタイミングから考えて間違いなくあの事件の日の夜だ。

 もう二週間以上前の話で、東雲はその頃服役していた。どう考えても東雲に犯行は不可能だ。

 俺の疑問に、諏訪先輩はため息混じりに答えた。

「何も幹部の人たちだって本気で八雲を疑っている訳じゃないわ。ただ、今は藤宮に繋がる情報が少なすぎるの。だから藤宮と関係があった八雲をマークすることで……」

「要は『何も手掛かりは無いけどとりあえず東雲を疑っておけばそれっぽく見える』ってことか? 疑いが晴れたとしても、『ああそう、良かったね』で済ませられるもんな」

「……そういうことよ」

 なんて、胸糞悪くなる話だ。

 つまり東雲は、捜査が順調であるかのように装う為に容疑者に仕立て上げられたんだ。

 実際の進捗があるまでの時間稼ぎのつもりか知らないが、ふざけるな。

「そんな顔すんなよ、ネコメちゃん」

 話を聞いてさらに表情を曇らせるネコメに、座席から身を乗り出したトシが声をかけた。

 視線を二人の方に向けると、浮かない顔を少し持ち上げたネコメに、トシが笑いかけていた。

「俺が読めば一発で東雲ちゃんの疑いは晴れるんだ。そしたらもう誰もあの子のこと悪く言わねえさ」

 そう。トシは諏訪先輩の指示で、東雲の疑惑を晴らす役を与えられた。

 東雲に前科がある以上、多少の疑惑を向けられるのは仕方のないことで、幹部連中以外にもそういう懸念を持つものはいるかもしれない。

 何もアリバイのある東雲を本気で疑っているわけではないが、その無罪の証明としてもう一手、サトリによる読心が必要という訳だ。

「そう、ですよね……」

 無論、必要だからといって友人にそんな疑いをかけられることを快く思う奴なんていない。かくいう俺も同じ気持ちだ。

「なあ、大体なんであんなこと言うためにわざわざ霊官集めたんだ? 電話でもなんでも良さそうなもんだろ?」

 向かって斜め前、通路に固定した車椅子に座る諏訪先輩に向かって言うと、先輩は振り返ってから首を振った。

「理由がない訳じゃないけど、この様子だと空振りね」

「なんだよ、その理由って」

「要は撒き餌よ。大人数の霊官が一箇所に集まれば、必然的に他の場所は手薄になる。内通者がその情報を藤宮に流していれば、何かしらの動きがあるかもってことよ」

「なるほどね……」

 合理的な考えだが、どうにもいいように転がされている気がして納得いかないな。

 諏訪先輩を始め、一部の信頼できる霊官にだけ詳細を教えているってことは、俺たち下っ端は信用されていないとも取れる。

「今回の件は、他支部や本部へのメンツもあるのよ。中部支部所属の霊官が異能で罪を犯し、捕まえた犯人に逃げられる。オマケに内通者まで霊官だったら、中部支部の面目丸つぶれだからね」

 メンツ、ね。

 そんなものに左右されて動かなきゃいけないなんて、窮屈な話だ。

「とりあえずネコメ、護衛は解除するけど、藤宮がまたあなたを狙ってくる可能性は大きいわ。寮では基本的に八雲と、それ以外のときはなるべく霊官二人以上と一緒にいてね」

「はい、分かりました」

 諏訪先輩の言葉にネコメは素直に頷いた。

 これはネコメにとって煩わしいかもしれないが、仕方ない。

 藤宮がどう動くか分からない以上、ネコメは藤宮に対してこちらが用意できる最大のエサになる。

 しかし、ネコメに対する警戒が上がっているのは藤宮も承知しているだろうし、ネコメを狙うという分かり易い動きをしてくれるとは限らない。

 霊官の中に藤宮の内通者がいれば例の捜査網で藤宮を捕らえられるとは思えないし、現状でこちらからは手の打ちようがない。

「実際問題、藤宮が動くのを待つしかないんだよな……」

 これは正直言って歯痒い。

 藤宮は東雲のストレスの要因にもなっているだろうし、捕まらなければ落ち着いて元の生活になんて戻れないだろう。

 一刻も早く藤宮を捕まえて、この事件を終わらせたい。

 東雲を安心させてやりたい。

 なのに、そのために何もできないことが、俺は腹立たしくて仕方なかった。

 胸のつっかえが残ったままの俺たち一行を乗せ、バスは山道を登り、異能専科に戻って来た。



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