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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
贖罪編
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贖罪編15 三人目の護衛


「先輩、今どこですか?」

『は? 執務室だけど?』

「一人ですか?」

『ましろがいるわ』

「そうですか……」

『? アンタ、何の用よ?』

「いや、大したことじゃないんですが……」

『ハッキリしなさい。用もなく電話したりしないでしょ?』

「先輩の声が聞きたくて」

『そういうのいいから』

「……………………」

『…………何かあったの?』

「トシに異能で護衛の話とか全部バレました」


『何してんのよアンタはッ⁉』


 耳鳴りするほどの大声で、先輩は電話口で怒鳴り散らした。そりゃそうだ。

 詳しい話は電話ではなく直接会ってするとのことで、俺とトシは執務室に呼び出された。

 会いたくないな……。


 ・・・


「心の準備はいいか?」

「……おう」

 例によってエレベーターに乗り、執務室の前に到着した。ついさっきここを出たばかりなのに、こんな短いスパンで来ることになるとはな。

 ドアをノックして呼びかけると、中からは驚くほど平坦な諏訪先輩の応答があった。嫌な予感がした俺はドアを開ける役目をトシに押し付けて、半歩後ろでドアが開かれるのを見届ける。

「なぁにしてんの、このボケナスーッ‼」

 ズドォンッ‼

「おぶぅっ⁉」

 案の定というか何というか、ドアを開けた瞬間、トシは腹部に何らかの攻撃を受けて体を『く』の字に折り曲げた。

「あら? 大地が開けると思ったのに」

「俺もそう思ったからな」

 悶絶し、床に蹲ってピクピクと痙攣するトシを見下ろしながら自分の危機回避能力が上がってきたことを実感する。

 先輩は車椅子を動かして蹲るトシの前まで移動すると、手に持っていた薄汚い棒でその頭をグリグリし始めた。

 トシの腹部への攻撃にも使われたそれは、見覚えがあると思ったら以前俺が鬼を殴るのに使いぶっ壊してしまった朝礼台の足だ。

「円堂悟志。アンタ、自分が何したのか分かってる? 霊官の機密を異能で攫うってことがどういうことか……」

「あ、その辺の説教はもう俺がしといた」

 金属の棒で虫のように突き回される友人を見かね、助け舟を出す。が、こっちに飛び火した。

「アンタもアンタよ‼ 機密の管理が甘いわ‼」

「仕方ねえだろ! こっそり異能使われて防げるかよ‼」

「逆ギレしてんじゃない‼」

 ブゥンッと風を切って振るわれる朝礼台の足を紙一重で回避する。

「危なっ⁉ 鉄の棒ぶんぶん振り回すなよ‼」

 抗議の声を上げるが、マジギレしているっぽい先輩は聞く耳を持たない。

「ふんっ‼」

「あだぁ⁉」

 右足の脛に、金属の棒が炸裂する。

 思わず体を屈めて殴られた箇所をさすっていると、今度は頭を殴られた。

「頭が高いわ、このバカ共」

 ガスン、ガスン、と交互に頭を殴られ、俺とトシは無理矢理土下座させられる。

「あやめ、ちょっと、やりすぎ」

 マシュマロが擁護する声を掛けてくれているようだが、しばらく諏訪先輩の暴行は止まらないみたいだ。

「……大地」

「なんだよ……」

 床に額を擦り付けながら、トシの声に応える。

「ちょっと、気持ちいい……」

「お前もう死ね」

 年上の女に痛めつけられることに妙な快感を覚え始めた友人に若干引きつつ、俺は頭部への殴打が止んだことを確認し、顔を上げた。

「先輩、釈明というか、トシの話を聞いてくれないか……?」

「……話?」

 眉間にシワを寄せまくり、訝しげな顔で先輩は俺たちを見下ろした。

 トシは顔を上げ、緩んでいたであろう表情を引き締めて諏訪先輩を見上げる。

「諏訪先輩、俺も霊官になりたい‼」

 ガスンッ‼

 真下から振り上げられた朝礼台の足が顎を強打し、顔を上げたトシはさらに大きく仰け反った。顎はやめてあげてよ、本当に危ないから。

「寝言は寝て言いなさい」

 顎をさするトシに冷ややかな視線を向け、諏訪先輩は冷淡に言い放った。

「本気だ‼」

 べしん‼

 今度は頰を殴られた。

「……一応理由を聞いておくわ。まさか大地と一緒にいられないのが寂しいから、なんて理由じゃないわよね?」

 右手で持った朝礼台の足で左の手のひらをペシペシしながら、諏訪先輩はスッと目を細めた。

「小学校の委員会じゃないのよ? 友達と一緒がいい、なんて理由で務まると思われたら心外だわ」

「…………」

 諏訪先輩の推測は、外れていない。

 トシが霊官になりたいといったのは、俺が原因だ。

 そんな理由が認められないことは、よく分かる。

 霊官は危険な仕事で、命懸け。

 軽はずみな動機で志すなど、許されるはずがない。

 しかし、

「まあ、そんなとこっす。俺は大地の横にいたい」

 ガァンッ‼

 馬鹿正直に答えた結果、顔面の中心に金属製の棒をぶち込まれ、トシは吹っ飛んだ。純粋な腕力だけではなく、異能を使ったような気配があったな。

「舐めんなバカ。この話は終わりよ」

 キッパリと断り、諏訪先輩は車椅子をターンさせて背を向けた。

「……舐めてないっす」

 しかし、トシは折れない。

 殴られた衝撃で噴き出した鼻血を手の甲で拭い、首だけで振り返った諏訪先輩をまっすぐ見据える。

「俺は本気でダチの隣に居たい。そのためだったら、何でもしますよ」

 あっけんからんと言い放つトシと睨み合うこと数瞬、諏訪先輩はキッと目を細めて口を開いた。

「霊官は死ぬこともある危険な仕事よ? その覚悟はあるの?」

「ないっす」

 トシは躊躇わずそう答えた。

 そして続けて、

「でも、死なない覚悟はあります」

 そう言った。

 トシの覚悟、生きて俺と一緒に霊官をやるという意思を認めたのか、諏訪先輩は目を伏せて溜め息をついた。

「……まあ霊官を目指すのは本人の勝手だし、私にそれを止める権利はないわ」

 そりゃそうだ。

 生徒の決めた進路を生徒会長が勝手に却下するなど、そんなことできるはずない。

 トシは先輩の諦めたような言葉にニッと口角を上げ、ガッツポーズをする。

「大地」

「ハイ」

 諏訪先輩は苦虫を嚙み潰したような顔で俺に向き直り、テンションの上がっているトシを指さす。

「そのバカもネコメの護衛に加える。霊官の仕事を叩き込んでやりなさい」

「え?」

 いや、霊官の仕事なんて、俺もまだほとんど知らないんですけど?

「分かったわね?」

 有無を言わさないその迫力に、俺はぎこちなく頷いた。


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