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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
贖罪編
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贖罪編12 関係者たち


 複雑な空気で幕を閉じたミーティング兼お茶会の後、俺たちはバスに揺られて異能専科に戻った。

 ネコメとリルとマシュマロ、そして東雲を伴って。

 バスの中でネコメはしきりに東雲に話しかけ、東雲は聞き役に徹している様子だった。

 ネコメは再会にはしゃいでいるようだが、東雲の言動にはまだぎこちなさが目立つ。以前のような感じに戻るには、もう少し時間がかかりそうだな。

 最寄りの停留所でほぼ貸し切り状態だったバスを降りて寮に戻ると、マシュマロが東雲の腕に自分の腕を回してその体を引き寄せた。

「それじゃあ、やくもんは、私と、執務室に、来て。ワンちゃんと、ネコちゃんは、あの子達、呼んできて」

「え、あの子達って?」

「こないだの、事件の、子達。執務室で、おはなし」

「ああ、なるほど」

 鎌倉一味と里立の四人のことだな。昼過ぎの今の時間だと、寮の部屋か遊戯室のどっちかだろうな。

「それじゃ、よろ〜」

 歩き疲れたのか、回した腕で東雲にぶら下がるようにしながらマシュマロは地下へ向かうエレベーターの方に東雲を引っ張って行く。東雲の腕を挟んでマシュマロのマシュマロがもう、むんにゅりと形を変えて……。

「大地君、どこ見てるんですか?」

「……マシュマロ」

「雪村先輩のことですか?」

「マシュマロの、マシュマロ」

「甘いものならさっき食べましたよね?」

「…………」

 ネコメの顔は険しいを通り越して冷たいものになっていた。

「さて、俺は鎌倉達を探すから、ネコメは里立を見つけてきてくれ」

 そそくさと遊戯室に向かう階段に足を向けるが、ネコメは冷たい目ではぁ、とため息を吐いてポケットからケータイを取り出す。

「電話しますから、探す必要ないですよ。大地君も、誰か一人くらい連絡先知ってるんじゃないですか?」

「……」

 ネコメのあまりにも冷静かつそっけない反応に俺は冷や汗を流す。ちょっと調子に乗り過ぎたかな。

(でも、なんで俺がマシュマロの胸を見てたからってネコメの機嫌が悪くなるんだよ……。女子はそういうところが潔癖なのかね)

 マシュマロ自身は結構大らかだったのに。あれが歳上の余裕なのだろうか。

 そんな益体も無いことを考えつつ、俺もケータイを取り出す。三馬鹿と連絡先なんて交換してないが、そういえば例の事件ときに目黒のやつが俺に電話を掛けていた。

「あれ? なんかエラい充電減ってるな……」

 着信履歴を遡ろうとしたら、右上の電池マークが充電残量が少ないことを示していた。

 今朝充電コードを抜いてから特にゲームも電話もしていなかったのに、電池の寿命が近いのだろうか?

 まあ目黒一人に電話するくらいは大丈夫だろうと思い、遡った着信履歴から未登録の目黒の番号に電話を掛ける。

『ほいほーい。どうしたよ大神?』

 数回のコールの後目黒は電話を取り、軽い調子でそんなことを言ってきた。お前は俺の番号登録してたんだな。

「目黒、鎌倉と石崎はそばにいるか? つーか今どこにいる?」

『え、今みんなで遊戯室だよ? 光生君もショウゴ君も』

 よし、やっぱり遊戯室か。それならここの真下だし、すぐに呼びつけられるな。

「そうか。じゃあ二人を連れて寮の一階に来てくれて」

『は? なんだよいきなり……』

「早くしろ。三分以内な。来なけりゃ張り倒す」

『ちょっと待っ……』

 ブツ。目黒の言葉を待たずに通話を切る。

「言い方、ちょっと乱暴じゃないですか?」

 先に里立への電話を終えたネコメがそんなことを言ってくる。

「いいんだよ、あいつにはこれくらいで。電話口で余計なこと言う訳にもいかないからな」

 目黒の口ぶりでは、鎌倉と石崎以外にも『みんな』と称するに足る人数がいるようだった。

 もし最近よくつるんでるトシ辺りが一緒に遊戯室にいるとすれば、間違ってついてきてしまうかもしれないからな。

「あ、みんな来ましたよ」

 ケータイをポケットに仕舞うと、すぐに目黒たちが階段を上がって一階にやってきた。

「あれ、やっぱ猫柳と一緒じゃん?」

「どうしたの、二人して?」

 意外なことに、鎌倉、目黒、石崎の三人と里立が一緒にやって来た。

「お前らこそ、一緒にいたのか?」

「うん。一緒にビリヤードやってたんだけど、同時に二人から連絡来たから何かと思ったよ」

 そう言ってはにかむ里立と、訝しげな表情の三馬鹿。そして、その後ろには悪い予感が当たり、トシも一緒に居た。

「トシ……なんで来たんだよ?」

「なんか俺除け者にして呼び出しとか掛けるから、寂しかった」

 デカイ図体して寂しがるなよこの野郎。

「ネコメ、やっぱりトシが一緒じゃマズイよな?」

 小声で耳打ちすると、ネコメは気まずそうな顔で頷いた。

「……そうですね、悟志君は事件には無関係ですから、一緒に居てはみんなに箝口令を敷く意味が……」

 そりゃそうだよな。

 トシは東雲のことを知らないし、あの事件の詳細も、東雲が抱えている複雑な事情も知らない。

 できることならトシと東雲にはただのクラスメイトとして接してもらいたいので、あまり余計な情報は入れたくないな。

「トシ、悪いけど結構マジに重要な話で、お前には言えないんだ。先に部屋に戻っててくれないか?」

「やっぱり俺を除け者にする気だ‼」

「違えよ! 別に楽しい話しようとしてる訳じゃねぇんだよ‼」

 トシのアホなノリに付き合ってやりたいという気持ちも多少はあるのだが、今は事情が事情なだけにこちらもふざけてはいられない。

「悟志君、これはとある異能事件の事後処理を含む話なんです。申し訳ありませんが、霊官として同行は許可できません」

「そ、そんな〜」

 ネコメの言葉にトシはぶすっと膨れっ面を晒した。男がやるな、その顔。

「事件の、話か……」

 集められた顔ぶれから、里立は大方の事情を察したらしい。

 無関係なのに危険に晒された里立は、ある意味あの事件の一番の被害者ともいえる。内心は複雑だろう。

「……そういう訳だから、悪いな。話はすぐに済むから」

「わかったよぉ〜」

 トシは渋々頷き、寂しそうな足取りで男子寮の方へ歩いて行った。

「あとでちゃんと構ってやれよ、大神。円堂のやつ、最近お前が居ない日が多いって愚痴ってたんだからな」

 ポン、と肩を叩きながら目黒が長い髪を掻き上げてそんなことを言ってくる。

「構うって、俺はアイツの親かよ……」

「馬鹿野郎、アイツは学校に連れてこられてまだ日が浅いんだぞ? ダチが居るのと居ねえのとで全然違えだろうがよ」

「鎌倉……」

 確かに、それは鎌倉の言う通りだ。

 俺が異能専科に連れてこられたときは、ネコメや東雲が過保護なくらい俺の世話を焼いてくれていた。

 お陰で俺は寂しい思いをしなくて済んでいたが、トシに対して同じようにしてやれている自信はない。

 部屋に戻ったらちゃんとケアしてやらないとかもな。

「さてと、それじゃあ皆さん、私たちについて来てください」

「どこに行けばいいの?」

 先導して歩き出すネコメの背中に、里立が声を掛ける。

「執務室です。そこで皆さんには、大切なお話があります」

 イマイチ何のことだか理解していない三馬鹿と、神妙な顔で頷く里立。

 トシのことも気に留めてやらなきゃいけないが、まずはこいつらへの説明だ。

 何事もなくスムーズに行けばいいがな。


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