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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
贖罪編
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贖罪編2 生徒会長の一存


 異能専科の生徒会。役員全員が異能のプロ、霊官の資格を持つトンデモ生徒会だ。

 隠された生徒会室に、同じフロアには私室。寮内にさえ生徒会役員専用の作業部屋が用意されるほど優遇されている。が、その反面、学校内の雑務をこなしたり、霊官中部支部から異能関連の事件が回って来たりと、その仕事量は非常に多い。

 役員選出のシステムとしては、生徒会長が翌年度の生徒会長を推薦し、全校生徒による信任投票で過半数の票が取れれば晴れて生徒会長になれる。

 会長には他の役職に任意の人員を配置する権利が与えられ、その時期には特に規定がない。

 つまり、いつ、誰を、どの役職にするのかも生徒会長の胸三寸という訳だ。

「そこで、空白だった役職の一つを大地で埋めようと思ったのよ」

「…………」

 苦虫を噛み潰したような顔で、俺は無言の抗議を試みる。無駄な気がするけど。

 時刻は放課後、場所は生徒会室。

 俺は渡された霊官手帳(仮)を使い、エレベーターを動かして呼び出しに応じて生徒会室に来ていた。

 諏訪先輩は片手でリルの耳をイジりながら、開いた手で紅茶の満たされたティーカップを傾けている。

 室内では烏丸先輩と雪村先輩が各々のデスクで雑務をこなしつつ、俺と会長の会話に耳を傾けている。

「知っての通り生徒会役員は仕事は多いけど、メリットも多いわ。このフロアの私室はほぼ私物化して構わないし、寮の門限や就寝時間も守らなくていい。何ならここで寝泊まりしても構わないわ。食堂から食事を運んでもらうこともできるし」

「……それってここで泊まり込みで仕事しろって事じゃねえか?」

「それに寮の執務室をはじめ、役員しか利用できない設備もたくさんあるの」

 無視かよコンチクショウ。

「それに、大地は正規の霊官になる時のために合同体育祭に出たがっていたってネコメに聞いたわよ」

「それが、何か関係あるんすか?」

 カチャ、とカップをソーサーに置き、先輩は真剣な表情でそう語り出した。

「合同体育祭は、年に一度全国の異能専科がその実力を競い合う真剣勝負。どの学校も、もちろん鬼無里校も、戦争みたいな意気込みで挑むイベントよ」

 やっぱりそういう野蛮なイベントなのかよ。

 ネコメたちには建前としてああ言ったが、俺は正直言って合同体育祭なんてこれっぽっちも出たくない。

 全国の異能者と異能バトルなんて、少年マンガでやってくれって感じだ。

「六月の体育祭の結果に関わらず、生徒会役員は合同体育祭に出場できるの。謹慎中で体育祭に出られなかった大地が合同体育祭に出るには、生徒会役員になるしかないわ」

「え⁉」

 つまり、生徒会役員になったら、合同体育祭に参加させられてしまうってことか⁉

 冗談じゃない。

「い、いや、確かに出たかったとは言いましたけど、考えてみれば俺なんかが参加したって何ができるか……」

「大地は神獣の異能混じり。今はまだ実戦不足で荒削りだけど、そのポテンシャルはネコメにも劣らないと私は思っているわ。学校同士の戦争でもある合同体育祭に勝つためには、強い異能者は何人いてもいい」

 何とかして俺の生徒会入りを断ろうと思ったのだが、先輩は俺を入れる気満々の様子だ。

 というか戦争って言っちゃったよ、この人。

「でも、真面目に体育祭に参加してた人たちに悪いですよね、そんな裏技みたいなやり方で参加するの……」

「異能者は実力主義よ。そんなことで文句言うような奴は私が黙らせるわ」

「…………」

 マズい。

 これはマズい。非常にマズい。

 何だかトントン拍子に話が進んで行っているが、このままでは本当に生徒会に入れられてしまう。

 何とか上手く断る方法を模索していると、諏訪先輩が紅茶を飲み干し、深刻そうな顔で俺を見た。

「と、ここまでが建前よ」

「た、建前?」

 突如変貌した先輩の顔は、よく見せる『人をオモチャにする時の顔』とも違う、本気の顔だ。

「アンタがホントは合同体育祭に出たがってないことなんて、見ればわかるわよ」

「え⁉」

 先輩の言葉に、思わずドキリとする。

 隠していた本音に迫られたことに焦ったが、先輩はどうもその辺りを咎めようとしている雰囲気ではない。

「体育祭サボれて謹慎様々、そんなこと思ってるのかもしれないけど、事は一刻を争うかもしれないし、アンタも無関係じゃないのよ」

「一体、何があったっていうんすか?」

 チラリと視線を向けると、烏丸先輩も雪村先輩も作業をしていた手を止めてこちらを見ていた。

 俺にも無関係でなく、諏訪先輩がここまで真剣な顔をするほどの事態。

 明るい話題とは、到底思えない。

 諏訪先輩は車椅子の背もたれに一旦体を預け、深呼吸してから切り出した。

「……藤宮が脱獄したわ」

「な⁉」

 あまりの事態に、俺は絶句した。

 藤宮、先月までこの異能専科で保険医をしていた女。

 異能術で若さを手に入れた百歳越えの老婆で、世界大戦の生き証人。

 戦時中に研究されていた非人道的研究、『人工異能者計画』を独自に進め、自分の遺伝子から異能混じりの少女を生み出し、次の実験の為にネコメの異能を狙った女。

 あの女が、脱獄だと?

「脱獄の方法も、その目的も不明。しかも、同時期に面倒なこともあったわ」

 そう言って諏訪先輩はソファの置かれたテーブルからデスクに移動し、引き出しからジッパー付きのビニールを取り出した。

「これを見て」

 テーブルに置かれたビニールの中には、歪な形の宝石のような物が入っていた。

 所々が黒くくすんだ、緑色の石。

 ビニールをつまんで蛍光灯の明かりに照らしてみるが、変な石だと思う以外に特に感想は無い。

「これは?」

「……大地が切り落とした、大木トシノリの右腕。そこから摘出されたものよ」

 大木の、腕から?

 二週間前の事件。中学時代に因縁のあった有名な不良、大木トシノリとの事件は記憶に新しい。

 大木は妖木の異能混じりで、キチンとした扱い方を知らなかった為、暴走した。

 異能の源であった右腕を俺が切り落とし、一命を取り留めたはずだ。

「腕から摘出されたその石、ネコメの爪で機能を停止しているみたいだけど、微量の異能を帯びているわ」

「この石が、異能を?」

 つまり、大木の異能の源は『右腕』そのものではなく、この石だったってことなのか?

「……円堂悟志、アンタの友達が異能混じりで、昔争っていた相手も、異能混じりだった。そんな偶然が、本当にあると思う?」

「……どういう、ことだよ?」

 諏訪先輩は、何を言っているんだ?

 異能混じりは、異能の資質が高い人間に異能の残滓が混ざることで生まれる。

 いつどこで生まれるか分からない異能混じりに、俺の顔見知り二人が偶然なった。

「偶然……じゃ、ないっていうのか?」

 考えてみれば、どういう確率だ?

 異能混じりになる確率を考えれば、俺の知り合いが同時期に二人異能と混じるなんて、天文学的な確率じゃないのか?

「……石の異能は死んでて、検証は困難。だけど、仮説はある。この石は、人体に埋め込むことでその人の資質に関わらず異能混じりにする、後天的に異能混じりを作る石よ」

 異能混じりを、作る石?

 人を異能混じりにする、異能具のような物なのか?

「じゃあ、まさか大木は……?」

 大木は、異能混じりにさせられたってことか?

 そういえば、あの時大木は『力を貰った』とか口走っていたような気がする。

 誰かが、大木を異能混じりにして、俺に当てつけた?

「大木は、何か証言を取れたのかよ⁉」

「……あの夜から行方不明よ。護送を担当していた二人の霊官、飯島と古川の二名も一緒にね」

「な……⁉」

 霊官が二人いて、揃って行方不明だと?

 一体、何が起こっているっていうんだ?

「大木を含めた三人が行方不明になった翌日、藤宮の脱獄が判明したわ。無関係とは思えないわよ」

「……この石は、藤宮が作ったってことか?」

 藤宮は人工的に異能混じりを生み出す実験、『人工異能者計画』を研究していた。

 その目的は、異能を軍事利用して他国に戦争を仕掛ける為。

 異能の資質に関わらず人間を異能混じりにできる異能具なんてとんでもない代物も、あの女が作ったと考えれば納得がいく。

「大木トシノリが異能混じりになった詳細な時期は不明だけど、少なくとも藤宮は檻の中にいたはず。無関係ってことはないだろうけど、直接藤宮が手を出したとは思えない」

「つまり、共犯者がいるってことか……」

 藤宮に協力して、大木にこの石を埋め込んで異能混じりにしたやつがいるはずだ。

 俺の言葉に、先輩はゆっくりと頷いた。

「すでに中部支部は動いているわ。藤宮と、その協力者の捜索。アンタをその作戦に参加させる為には、私が口から出まかせにした研修員なんて立場じゃダメ。本当の霊官予備軍として扱う必要があるのよ」

「その為に、俺を生徒会に入れようってのか?」

 つーか出まかせだったのかよ、霊官研修員。道理で誰も知らないはずだよ。

「まさか、断らないわよね?」

「嫌に決まってんだろ⁉」

 え、なんで今の話聞いて俺が喜んで生徒会に入ると思ってんのこの人⁉

 あの時は巻き込まれたから仕方なく戦ったけど、自分から戦いに行きたいなんて思うわけないだろ⁉

「プロが動いてんだろ⁉ じゃあ俺なんかが出張る必要無いし、そもそももう俺には関係無い……」

「ネコメが狙われるわよ」

「っ⁉」

 な、何言ってんだこいつ⁉

 ネコメが、狙われる?

「当然でしょ? 藤宮の逮捕のきっかけは、ネコメの異能を手に入れようと躍起になった結果。脱獄した今、再びネコメを狙うのは当たり前じゃない」

 それは、そうかもしれない。

 藤宮はネコメの異能を手に入れ、それを元に新しい異能混じりを生み出そうとしていた。

 その為に何人も殺そうとするくらい、ネコメの異能に固執していた。

 つまり、ネコメは再びあの狂人につけ狙われるに違いない。

「……おい、ちょっと待てよ」

 でも、だとしたらなぜ、先輩は俺だけを今日ここに呼び出した?

 なぜ、当人であるネコメにこの話をしていない?

「ネコメはこの話、知ってるのか?」

「…………知らないわ」

 あらかじめネコメには話を通してある、そういうことなのかと思ったが、どうも違うらしい。

 じゃあ、つまり、そういう事か?

「お前、ネコメを、餌にするつもりかッ⁉」

「…………」

 先輩は答えない。

 それは、肯定と同じだった。

 何も知らないネコメを餌にして、藤宮とその共犯者をあぶり出す。

 ネコメを餌に、それを狙う藤宮を釣る作戦ってことだ。

「ふざけんなッ‼ そんな危険な方法に、ネコメを……‼」

「これは私よりもっと上、中部支部の決定よ。藤宮の狙いが絞れる以上、それを利用しない手はない」

「それを……そんなやり方を許可したのかよっ⁉ テメエそれでもネコメの上司なのか⁉」

 カッと頭に血が上り、立ち上がって声を荒げる。

 テーブルを叩いて怒りをぶちまけようとした瞬間、首筋に冷たい物が突き付けられた。

「口が過ぎるぞ、大神」

「烏丸先輩……‼」

 腰から抜いた日本刀を俺の首筋に突き付け、烏丸先輩はその端正な顔を怒りに歪めていた。

「お嬢様がそんな事を望んでいると、本気でそう思っているのか? これがお嬢様の立案した作戦だと、そう思うのか?」

「……ッ⁉」

 霊官も、諏訪先輩も公務員。上の命令には逆らえないってことなのか?

 じゃあ、ネコメを餌にする作戦を良しとしたのは、中部支部の幹部?

「柳沢さんは、どういうつもりなんだよッ⁉」

 霊官中部支部の支部長、柳沢アルトさん。

 ネコメの名付け親のあの人が、この作戦を許可したのか?

「……幹部は柳沢さんだけじゃないわ。身内贔屓なんて、それこそ人の上に立つ人間のやる事じゃない」

「数で押し切られたってことかよ?」

 いくら柳沢さんが反対したとしても、他の幹部が押し切れば作戦は通される。至極単純な多数決だ。

 やるせなさを押し殺して舌打ちをする俺から刀を引き、烏丸先輩はため息を吐いた。

「柳沢さんもお嬢様も、ネコメ一人を危険に晒すつもりなど毛頭無い。その為に、彼女には詳細を知らせないままだが、護衛を二人付けることが決まった」

「二人の、護衛?」

「ええ。一人は大地、あなたよ」

 そう言って諏訪先輩は一枚の紙をテーブル上に差し出した。

 紙には、ネコメの護衛と、藤宮を再逮捕する作戦への参加を表明するサイン欄があった。

 俺は横に置かれたポールペンを取り、迷わず名前を書く。

「……もう一人は?」

 諏訪先輩や烏丸先輩が付いてくれるなら心強いが、こんな大仰な作戦の最中にこの二人がそんな仕事をする暇があるとは思えない。

 諏訪先輩は俺の言葉に薄い笑みを浮かべ、今度は見慣れたケータイを手渡してきた。

 二週間前に没収された俺のケータイだ。ありがたいことにバキバキだった液晶画面は修理されている。

「アンタの最初の仕事は、その人とネコメを引き合わせることよ。こっちとしても、太鼓判の人材よ」


三章以降は文字数とかあんまり考えないで更新しようと思います。

更新頻度はなるべく早めで。

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