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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
編入編
5/246

編入編4 鎌倉光生という男

 鎌鼬。

 人を転ばせ、鎌で切り、血止め薬を塗る妖怪。だったと思う。

 なんでわざわざ切った後に薬を塗ってやるのかは知らない。

 もちろん実物なんて見た事ないし、そんな妖怪がいるというのも漠然と認識していただけだった。

 しかし目の前に迫る銀色の刃、それを振るう獣の耳の男は、まさに鎌鼬だった。

 一撃目は服を切られるだけで済んだが、続く二撃目は頬を掠めた。

 振り切った腕の鎌を追う様に鮮血が宙を舞い、一拍遅れて左頬に冷たい感触が走る。

(こ、コイツ、本気か……⁉)

 鎌での一閃。避けなければ軽傷では済まなかった。

 脅しやハッタリなどではない。鎌倉は本気で、俺に自らの異能の刃を振りかざしてきている。

「落ち着いて光生君‼」

「シャレになんねぇって‼」

 別に俺の味方をするつもりではないだろうが、石崎と目黒は鎌倉を止めようとしている。

 しかし、二人の声を無視して鎌倉は刃を振るってくる。

 ケンカというのはルールの決まった格闘技の試合と違い、勝敗を分けるのは意思の強さだ。

 単純な腕力やダメージではなく、いかに相手に『コイツには勝てない』と思わせるかの戦いである。

 言葉や行動による圧力、不意打ちなどで先手を取る事で相手を怯ませるなど、やり方は色々ある。

 先程俺は数で勝る三人を相手に、不意打ちで勝った。

 石崎と目黒の戦う意思を折り、鎌倉にも恐怖心を植え付けたつもりだった。

 しかし鎌倉は、予想以上に意思が強かった。

 それが何かしらの憎悪から来るものか、自身のプライドの高さゆえのものなのかは分からないが、とにかく組み伏せられても折れない意思の強さがあった。

 こうなると俺に取れる選択肢は限られる。

 逃げるか、気絶するまで鎌倉を痛めつけるか。

(逃げるのは、無理そうだな)

 鎌倉は速い。

 必死に間合いを空けても一瞬で詰めてくるし、避けられて隙を作らない様に最初の様な大振りな攻撃もして来ない。遁走のために背中を向ければ、すぐさまあの鎌の餌食だろう。

 だからといって、戦って勝つのはより不可能だと思う。

 刃物とのケンカは初めてではないが、異能混じりとの戦いは初めてだ。

 異能を用いた鎌倉の速さは、間違いなく俺よりも上。今のところ鎌倉は怒りで冷静さを欠いている様だが、それでもジリ貧だ。

 このままではヤバい、そう思ったとき、

『ギャンギャン‼』

 リルが鎌倉に飛びつき、その左手に噛み付いた。

「こっの、犬畜生が‼」

 鎌倉はリルを振り解こうと左腕をぶんぶん振り回すが、リルの噛み付く力は意外に強く離れない。

 必然的に、俺への攻撃が止まった。

(チャンスだ……!)

 このまま背を向けて全力疾走で逃げればこの場所を離れられる。

 リルと俺が離れられるのは約三メートルが限界なので、1秒もしないうちにリルを引っ張って逃げられる筈だ。

 しかし、

「この野郎ォ‼」

 鎌倉は左手に噛み付いたままのリルに、右腕の鎌を振り上げた。

 邪魔者を排除するために、異能の刃を突き立てた。

「何やってんだ、離せリル‼」

 眼前に迫る凶器に、それでもリルは離そうとしない。俺の言うことも無視した。

「やめろ鎌倉‼」

 慌てて駆け出す俺だが、鎌倉の凶行は止まらない。

 間に合わない、と俺が戦慄した瞬間、


「やめなさい‼」


 空きスペースに、凛とした声が響いた。

 リルの眼前に迫っていた鎌はピタリ止まっており、鎌倉は苦々しい表情で切っ先を震わせている。

「その手を下ろしなさい」

 そう命じる声の主は、悠然と空きスペースに入ってきた。

 命令に従うように鎌倉はゆっくりと手を下ろし、全身から力が抜けていくのが見て分かる。

 それは、言うなれば『妖精』だった。

 銀色に輝く髪に、銀色の瞳。

 頭には髪と同色の三角形の獣の耳。

 スカートを捲り上げて不規則に揺れる銀色の毛に包まれた尻尾。

 人間の少女の姿を借りた、銀色の猫の妖精がそこにいた。

「リルさん、あなたも離しなさい」

 妖精は鎌倉の手に噛み付いたままのリルに優しくそう呟き、言われるがままにリルは口を離した。

「ね、猫柳、なのか……?」

 その妖精の顔と声は、俺の知る猫柳瞳のものと酷似していた。

「はい、大神君。遅くなってしまい、申し訳ありません」

 妖精、猫柳はぺこりと頭を下げ、力を抜いて弛緩している鎌倉の正面に立った。

「鎌倉君、鎌倉光生君。どういうつもりですか?」

 凛然と言い放つ猫柳に、鎌倉は歯を噛み締めて怒りの形相を浮かべる。

 しかし、その表情とは裏腹に体には全くと言っていいほど力が入っていない。両手はだらりと垂れ下がり、足元もおぼつかないでいる。軽く小突けば倒れてしまいそうだ。

(これが、猫柳の異能なのか……?)

 相手を屈服させる、絶対的な存在感。

 名前の通りの『猫』の異能が、猫柳瞳の異能らしい。

「猫柳、悪いのは光生君だけじゃなくて……⁉」

「そうそう、俺たちも……⁉」

 鎌倉を擁護しようと石崎と目黒が口を開くと、二人は何かに足を取られるように真後ろへすっ転んだ。

「はぁ⁉」

「うぁ⁉」

 短い悲鳴を上げ、後頭部を地面にぶつける寸前、小さな手が二人の体を支えた。

「どう見ても主犯は鎌倉くん。庇うんなら同罪だよ?」

 小さな手の主、東雲は目を細めて普段のゆるい雰囲気を引き締め、二人をそっと諭す。

(今のは、東雲の異能か?)

 二人を転ばせたのは、東雲が何かをしたのだろう。何をしたのかは分からなかったが。

「三対一で、異能を行使しての暴行、そういう事でいいですか?」

 言いながら猫柳は三人を見回し、最後に俺を見て回答を待つ。

 これは、思った以上に圧倒的だ。

 猫柳と東雲、霊官の二人は現れただけで完全にこの場を支配した。

 罪の裁きを下す閻魔の如き制裁権を持っている。

「…………」

 俺の沈黙を肯定と取ったのか、猫柳は一瞬辛そうに銀色の目を細め、鎌倉に向かって宣言する。

「鎌倉君、異能の危険行使の現行犯です。霊官の権限を持って……」

「ただのケンカだよ」

 猫柳が言い終わる前に、俺がそう割り込んだ。

「大神君……?」

 猫柳は不思議そうな顔で俺を見てくるが、俺は構わず続ける。

「見ての通り、ただのケンカだ。俺も蹴ったり殴ったりした」

 言いながら自分の膝を示す。そこには顔面に蹴りを入れられた目黒の鼻血が付着していた。

「俺より目黒の方が重傷だが、三対一だ。正当防衛ってことでいいだろ?」

 そう言って肩をすくめると、東雲が面白そうに笑い出した。

「アハハ、正当防衛ね。異能で切られたのに?」

「かすり傷だ」

 そう言って切られた頰から流れる血を乱暴に拭う。どうやら血も止まったみたいだ。

 俺は鎌倉に歩み寄り、憮然と言い放つ。

「痛み分けってことにしとこうぜ。もうあんま絡んで来るなよ」

 これで終わりだと言わんばかりの俺の態度に、猫柳はふっと強張っていた表情を緩めた。

 同時に髪や瞳の色が見知ったものに戻り、耳と尻尾も消えた。異能を解除したってことだろう。

 猫柳の異能が解けると鎌倉はその場にへたり込み、鎌になっていた腕や丸っこい耳が元に戻る。まるで猫柳の異能が鎌倉のことを拘束していたみたいだな。

「大神君がそれでいいなら、そういうことにしておきます」

 クスッと、猫柳がちょっとおかしそうに微笑んだ。鎌倉達を庇った訳じゃないんだが、俺の真意は伝わってなさそうだ。

 東雲は何が楽しいのかスキップしながら俺の前までやって来て、上目遣いであざとい笑顔を浮かべる。

「校内で異能の使用はあまりしないこと、これ校則ね」

「つまり、ちょっとは使っていいんだろ?」

「ケンカも褒められた事じゃないよ」

「じゃあじゃれてただけってことで」

 そう言って俺は踵を返し、空きスペースを後にする。

「貸しでも作ったつもりかよォ!」

 ふらつきながら立ち上がった鎌倉が、俺の背中に向けてそう叫んだのが分かる。

「ふざけんな、何が痛み分けだ! 異能一つマトモに使えてねぇザコが、勝った気になってんじゃねぇぞ!」

 鎌倉の言い分はもっともだ。

 ケンカでは不意打ちで俺が勝ったが、異能を使われてからは手も足も出なかった。異能混じり同士の戦いとしては、鎌倉の圧勝だ。

 しかし俺は別に鎌倉に勝ちたい訳ではないのだ。

「ケンカしたって俺にメリットねぇだろ。無駄なケンカなんてお断りだ」

 振り返り、キッパリと断っておく。

 確かに俺はそれなりにケンカ慣れしているが、別にケンカや暴力が好きなわけではない。

 絡まれたから仕方なく相手をしていただけで、自分から理由もなく相手を殴った事なんて一度もない。多分。

 これでこの話は終わりだ、と俺はツカツカと歩いて行く。後ろにリルが付いてきて、東雲もそれに続く。

 最後に目ざとい猫柳が地面に落ちている吸い殻を発見し、鎌倉のポケットに手を突っ込んで「改めて没収します。もうしないでくださいね」と、なぜか目黒に言ってその場を後にした。

「……クッソが‼」

 癇癪を起こした鎌倉がパイプ椅子を蹴り倒す音を聞きながら、俺は深い溜め息をついた。


・・・


 鎌倉達の溜まり場の空きスペースから離れて歩き始めると、猫柳が唐突にケータイを取り出してどこかに電話を掛けた。

 仮にも今は授業中なのに、どこに掛けているんだと俺が首を捻っていると、東雲がそっと寄ってきて小声で話しかけてくる。

「ネコメちゃんのためでしょ、鎌倉くん達を庇ったの」

 ニヤリと含みのありそうな笑みを浮かべ、東雲はそう言った。

「……何のことだよ?」

 当然俺はすっとぼける。

「鎌倉くん達に罰を受けさせないんじゃなくて、ネコメちゃんに罰を与えさせないためにあんなこと言ったんでしょ?」

 含みのある笑顔の口角をさらに上げて、東雲は詰問してくる。

 とぼけても無駄だな、と悟った俺は、肯定の意味を込めて東雲に質問してみる。

「猫柳は、霊官の権限とやらで罰を与えるの、嫌いなのか?」

 先程鎌倉達に罰を与えようとした猫柳は、確かに辛そうにしていた。

 霊官には異能を危険なやり方で使った者に罰則を与える権利があるようだが、『罰なんて与えたくないけど、鎌倉達が悪いなら仕方ない』と思っているように見えたのだ。

 あの場で俺がただのケンカだと言い張れば、猫柳は嫌々罰を与えなくて済むと思っただけのことだ。

「……半分正解。あたし達霊官は異能の危険行使には罰則を与えなきゃならないの。でもネコメちゃんは、クラスメイトに自分の判断で罰を与えるの、嫌なんだよ」

 しょうがない子だよね、と言いながらも、東雲の顔は明るい。心なしか嬉しそうだ。

「何で嬉しそうに言うんだよ?」

 罰則を与えるのも霊官の仕事だと言うなら、猫柳の先程の行いは職務怠慢にもなりうる。同僚の東雲は咎めこそすれ、嬉しそうにする理由はないはずだ。

「……霊官の中には普通の異能者に威張るような人もいるから、だからネコメちゃんみたいにお人好しな霊官がいてもいいんじゃないかなって」

 それはまあ、いるだろうな。

 権力者なんて言い方はあまり良くないだろうが、霊官が異能の公務員、警察のような仕事をしているなら、普通の異能者に対して高圧的になる者がいても不思議じゃない。

「後の半分は?」

 猫柳が鎌倉に罰を与えたくない理由、東雲は先程俺の答えに対して半分正解と言った。

 猫柳の優しい性格が理由の半分として、後の半分はなんだと問う。

「鎌倉くんが霊官を嫌いな理由、知ってるからだと思うよ」

「鎌倉の理由?」

 確かに鎌倉は霊官の二人を敵視していた。霊官全体のことを嫌っているのも想像に難くないが、やっぱり嫌っているのはそれなりの理由があってのことなのか。

「……鎌倉くんはね、間に合わなかったの」

 東雲はポツリと、瞳を細めて呟くようにそう言った。

「間に合わなかった?」

 含みのあるその言い方に俺が首を傾げると、東雲は珍しく遠慮気味に言葉を続けた。

「人の過去のことだから、あんまり言っちゃうのはマナー違反なんだけど。でもリンチされかけた大神くんは無関係でもないし」

 それは確かにそうだ。

 鎌倉が俺に絡んだのは、もともと霊官の二人とつるんでいたから。

 なぜ自分が異能でもって攻撃されたのか、その理由くらいは知っておきたい。

「十年くらい前、私もネコメちゃんも霊官になる前のことなんだけど、鎌倉くんの家族は異能生物に襲われたの」

「⁉」

 異能生物に襲われる。その言葉の意味を俺が正しく理解する前に、東雲は語り出した。

 鎌倉光生の過去と、おぞましい異能生物の実態を。


・・・


 今から十年ほど前、鎌倉光生は両親と歳の離れた兄と暮らす、ごく普通の子供だった。

 田舎に居を構え、先祖から続く畑で野菜を育てる農家の次男として過ごしていた。

 そんなある日の夜、鎌倉家は一匹の獣に襲われた。

 それは両前脚が鎌になった、巨大なイタチだったらしい。

 巨体に傷を負い、どう猛に暴れ狂うイタチは窓を突き破って家の中に侵入し、暴風のようにその鎌を振るった。

 デタラメに振り回される鎌の嵐に、まず鎌倉の兄が八つ裂きにされた。

 次いで家族を守らんと立ち向かった父親の胴が裂かれ、最後まで鎌倉のことを抱いていた母親はそのまま首を刎ねられた。

 最後に残った鎌倉に獣の鎌が触れる寸前、その獣を追っていた霊官達が家に飛び込み、異能の獣『鎌鼬』を殺した。

 何でも『鎌鼬』は遠方で暴れていた所を霊官に退治されかけ、傷を負って逃げ出したものだったらしい。

 三人もの一般人を殺害して生き絶えた『鎌鼬』は、その場に異能の力を残していた。

 そして、異能の資質が高かった鎌倉はその力と混ざり、異能混じりになった。

 そして天涯孤独となった鎌倉は保護施設で育てられ、異能専科に入学した。

 自分の家族を殺した異能をその身に宿して、

 家族を守ってくれなかった霊官への憎悪に身をやつして。


・・・


「それが鎌倉くんが異能混じりになった理由。鎌倉くんにとって霊官は、家族を見殺しにした足の遅い正義の味方なんだよ」

「…………」

 東雲の語った鎌倉の過去に、俺は言葉を繋げられないでいる。

 俺は妖蟲に襲われたときに大怪我を負ったが、猫柳と東雲、霊官の二人に助けられた。しかし鎌倉は、家族を助けてもらえなかった。

 その上自身が異能混じりとなり、家族を見殺しにした霊官と同じ学校に通うようになった。

「……なんで『鎌鼬』は、鎌倉の家族を襲ったんだ?」

 異能生物が無差別に人を襲うのだとしたら、遠方からわざわざやってきて鎌倉家に押し入り、そこにいた鎌倉光生が異能の資質が高いなんて偶然があるとは思えない。

 背筋に冷たいものを感じながら俺が問いかけると、東雲はおぞましい答えを口にした。

「食べるためだよ、鎌倉くんを」

「⁉」

 ゾワッと、全身に鳥肌が立つ。

 人を、食べる。

 妖怪や化け物の伝承には珍しくない話だが、いざ聞いてみると身の毛がよだつ。

「異能生物はね、異能を食べると強くなるの。異能の力を取り込んで傷を治したり、力をつけたりするために。他の異能生物や妖蟲、それに、異能の資質が高い人間や異能者を食べる」

 東雲の言葉に、俺は自分が襲われた時のことを思い出していた。

 あの時妖蟲たちは、異能の資質が高い俺のことを食べようとしていた。

 異能生物は、人を食べる。強くなるために。

 突き付けられたその事実に、俺は改めて恐怖した。

「結局ネコメちゃんが優しすぎるってだけなんだけどね。鎌倉くんがあんな感じになったのは結局本人のせいだし、そうでなくても自分とは無関係な話なんだから」

 一見冷酷にも思える東雲の感想だが、そうやって割り切らなければやっていられないのだろう。

 鎌倉の家族のことは自分達とは無関係。仮にも命を救われた鎌倉が霊官を恨むのはお門違い。そうやって割り切るのは簡単だが、猫柳はそれをしようとしない。

 鎌倉の霊官に対する恨みを受け止め、罰を与えることにさえためらいを感じる。

 猫柳瞳は、優しすぎるのだ。

「……何でアイツ、霊官なんかやってるんだ?」

 チラリと視線を後ろに向けると、少し遅れて歩く猫柳はまだ誰かと電話で話している。

 クラスの問題児に罰を与えるのさえ戸惑うようなやつが、異能を取り締まる霊官なんてやったってストレスが溜まるだけではないだろうか。

「あんまり女の子のこと根掘り葉掘り聞くもんじゃないよー。大神くん、ストーカー気質?」

「人聞き悪い事言うんじゃねえ⁉」

 確かに人のプライベートを嗅ぎまわるような真似はするもんじゃないと反省するが、ストーカー呼ばわりは心外だ。

「あ、もしかしてネコメちゃんに惚れた? ネコメちゃん、可愛いもんね〜」

 ニヤ、と今日一番の笑顔になった東雲が心底面白そうにそう言ってくる。

「バカか、そんなんじゃ……」

 慌てて否定したりするとこの手の輩には逆効果なので、俺は冷静に言い返そうとする。

 しかし東雲は俺の弁明など聞こうとしない。

「ネコメちゃんは誰にでも丁寧だし、物腰も柔らかくていい子だよ〜。綺麗好きでお掃除得意だけど、お料理はあんまりかな〜」

 根掘り葉掘り聞くな、と言った舌の根も乾かないうちに聞いてもいない個人情報がどんどん流失している。

「だから、俺はそんなつもりじゃ……」

 などと東雲と話していると、

「なんの話ですか?」

 電話を終えた猫柳がいつの間にか近づいて来ていた。

「あ、いや、別に……」

 バツが悪くなって言い淀んでいると、東雲が素知らぬ顔で口を挟む。

「異能を使ったネコメちゃんのパンツの尻尾の部分が気になるって話してたの〜」

「カケラもしてねぇぞそんな話‼」

 何言ってくれてんだコイツは、と思わず東雲を怒鳴りつける。

 猫柳は一瞬キョトンとした顔になり、言葉の意味を理解していくにつれてどんどん顔を赤らめていく。

 顔を真っ赤にした猫柳は両手でスカートの前後を抑え、何か言いたげなジト目で俺を見てくる。

「ち、違う。そんな話はしてない! 東雲が勝手に言ってるだけで……」

「でも、気になるよね〜」

 東雲はスッと猫柳の背後に回り込み、太ももに手を回してスカートに手を掛けた。そうとした所で猫柳に関節を決められた。

「いぃだだだだ! ギブ! ネコメちゃん、ギブ!」

「ふざけ過ぎですよ、八雲ちゃん!」

 顔を赤らめながら猫柳は東雲に折檻を続ける。鎌倉達には躊躇っていたのに、東雲には割と容赦の無いやつだ。それだけ気心が知れている仲だって事なのだろうが。

「もう。今はそんな場合じゃないんですよ」

 嘆息しながら猫柳は東雲を解放し、顔を引き締めて俺の方を向き、こう告げた。

「大神君、今から私たちと生徒会室に来てください」


少し遅れました。


なるべく早く次回をアップしたいです(そればっかり)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 鎌倉君の名前が最初の登場時は「光生」でしたがその後は「光男」となっているのは前者が間違いでしょうか? [一言] まだ読んでいる途中ですが気に入りました 読み進めていくのが楽しみです
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