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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
贖罪編
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贖罪編 プロローグ


 あれから何日たっただろう?

 日の光も届かない暗い場所で、静かにそんなことを思う。

 初めてできた友人と、机を並べて同じ教室で授業を受ける。

 食堂で談笑しながらご飯を食べて、同じ時間を共有する。

 少し前にはいつも傍らにあったそんな当たり前が、たまらなく恋しい。

 人は失って初めて、失ったものの大切さに気付く。

 そんなありふれた感想を、頭の中で否定する。

 失ってなんかいない。初めから何一つ、手に入れてなどいなかったのだから。

 学校も、食事も、同じ時間を共有したという思い出も、全ては嘘。

 嘘で塗り固め、偽り、欺き、私はみんなを騙してきた。

 そうやって生きてきた。言われるがままに。

 そうやって死んでゆく。もう言われることもないから。

 今の私の世界は、この狭くて冷たい独房だけ。

 房の中でも手錠や足枷を外すことは許されず、食事の時間以外は口の周りにも拘束が施される。

 食事は一日二回、体を洗えるのは三日に一度。刑務作業などで外に出ることもない。

 壁も寝床も、何もかもが灰色の世界の中で、唯一煌びやか色どりを与えるのは、鉄格子。

 純銀で出来たそれは、触れれば爛れる猛毒の檻。

 罪人の入れ物とはいえ、あまりにも時代錯誤。人権団体などが見れば卒倒しそうな光景だ。

 おおよそ、人間に対する扱いではない。

 しかし、考えてみれば自分は人間ではない。

 人間とは、人と人の間に生まれる命のことを指す。

 生まれが不幸でも、育ちが残酷でも、人である以上、それは人、人間だ。

 対して私はどうだろう?

 まず第一に、生まれは人間ではない。

 命令のまま生きてきた育ちも、人間ではない。

 つまり、自分は人間ではない。

 私は、虫だ。

 つまるところこの扱いは正当で、むしろ餌が与えられるだけでも感謝しなければならないほどの好待遇と言える。

 ならば、どうして自分が人間なのだと錯覚していたのだろうか?

 言葉が話せるから?

 二本足で立つから?

 読み書きができるから?

 それとも、あの偽りの日々を、思い出してしまうから?

 周りを欺いていたあの偽りの日々で、私は私を人間だと錯覚してしまった?

 だとすれば、なんて滑稽だろう。

 だとすれば、なんて烏滸がましい。

 人の輪の中にいれば、虫が人になれるとでも思っていたのだろうか。

(バカみたい……)

 考えることをやめ、ボロ布が敷かれただけの寝床に倒れこむ。

 地べたに這いつくばり、踏み潰される。

 虫にはお似合いの末路だ。

(誰か……)

 誰でもいいから、この嘘にまみれた汚い自分を。

 偽ることしか知らない、空っぽな器を。

 この虫けらを憐れむなら、どうか、誰か、


(私を踏み潰して、殺してください……)






三章、贖罪編のスタートになります。


ちょっと重い話になるかもしれませんが、よろしくお願いします。

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