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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
旧友編
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旧友編19 暴走の果て


 右腕を肘先から失った大木は、放心したように大人しくなった。

 がっくりと膝を折り、床に顔を向けて何やら呻き声を漏らしている。

「生きてはいる、みたいだけど……」

 顔や左腕は人間のものに戻っているが、砕けた右腕は枯れ木のままだし、頭の木も無くなっていない。

 これが異能が暴走した結果なのだとしたら、あまりにも無残だ。

『ダイチ、こいつどうするんだ?』

 俺と混じったままのリルが頭の中でそう問いかけてきた。

「どうするって、放っておく訳にもいかねえだろ……」

 社会不適合者だが、大木だって人間だ。それに、俺の目的はこいつをトシの前に連れて行って土下座させることだしな。

 とりあえずネコメに相談しようと思い、戸惑う。

「ネコメ……怒ってるかな……?」

 あれだけの啖呵を切って病院を飛び出した手前、ネコメと話すのが気まずい。

 まだ泣いてたらどうしようとか、メチャクチャ怒ってて電話に出てくれなかったらどうしようとか、頭の中でぐるぐると考えてしまう。

 しかし、ひょっとしたら大木の状態は一刻を争うかもしれない。

 意を決してポケットに手を突っ込み、ケータイを取り出す。

「…………」

 バッキバキに割れた液晶画面から、ガラスの欠片がポロッと床に落ちた。

 まあ、あれだけ無抵抗に殴られれば、ポケットの中のケータイなんてそりゃ壊れるよね。

「テメエ等……」

 俺は未だに枯れ枝の籠から出られずにへたり込んでいるチンピラ共を睨みつける。

「ひぃ⁉」

「こ、殺さないでくれ……‼」

 異能者同士の戦いを間近で見てしまったチンピラたちは、引くくらい怯えていた。

 化け物を見るような目で俺を見て、涙目になっている者までいる。

 文句の一つも言ってやろうと思ったのだが、こいつ等も考えようによっては被害者みたいなものだ。これ以上痛めつけることもないだろう。そもそも一般人は殴れないしな。

「いいか、お前等は今日、何にも見なかった。明日からは善良な一市民として、学校や仕事に真面目に行くんだ」

 口止めのために工場中に響く声でそう言うと、チンピラ共はキョトンと目を丸くした。

「今日限りで不良をやめろ。酒もタバコもシンナーもやらない。頭を丸めて、派手な格好もしないでポロシャツとか着ろ。花とか動物とかが大好きないい人になるんだ。分かったか⁉」

 次第に俺の言葉の意味を理解したらしく、チンピラ共は青ざめた顔でコクコクと頷く。

 大人数の不良を更生させたことに満足した俺は、ふぅ、と息を吐いて腰に手を当てる。

「よし、問題解決」

「全然解決してませんッ‼」

「のわぁ⁉︎ ね、ネコメ⁉」

 突然の声に振り返ると、俺がドアを蹴り破った工場の入り口に、異能を発現させたネコメがいた。

「ネコメ、何でここが⁉」

「発信……そんなことより一体この状況は何ですか⁉」

 今ネコメさん、『発信機』って言いかけなかった?

 え、俺実は発信機付けられてるの?

「なんかケータイのマップみたいなので探してたぜ。お前の今カノ、束縛キツいのな」

 謎の恐怖を感じていると、ネコメに続いてトシがドアの無い入り口から姿を現した。

「トシ! 目ぇ覚めたのかよ⁉」

「あー、ついさっきな」

 そう言って気まずそうに頰をかくトシは、やっぱり傷だらけだ。

 顔にはガーゼに包帯、全身から痛み止めの塗り薬の臭いがする。

「酷えツラだな。ボッコボコじゃねぇか」

「オメーのツラも大概だよ。つーか血ぃ出てんじゃねえか」

 まあ、角材やら鉄パイプでボコボコにされましたしね。

「ところでネコメ、俺発信機つけられてんの?」

「わ、私がやったんじゃないですよ⁉ 大地君はまだ一人で出歩かせることができないので、はぐれたら使いなさいって、会長が……」

 やっぱりあいつか。

 つーことは発信機は、このチョーカー、グレイプニールに仕込まれてるとかかな。

「……それにしても、この状況は……」

 ネコメは工場内の惨状を見渡し、グッと眉間に皺を寄せた。

 異能で作られたと思しき枯れ枝の籠に、何人もの怯えた一般人。

 そして、異能の発現が消えていない大木。

「ネコメ、大木トシノリは、異能者だった。妖木の異能混じりだ。そんで……暴走した」

 かいつまんで説明すると、ネコメは小さく頷いた。

「円堂さんから、大木トシノリが異能者であることは聞きました。異能で、攻撃されたと」

 やっぱり。大木は異能を使ってトシを攻撃していたのか。致命傷になるような刺し傷が無かったし、左腕の丸太で殴ったってとこだろう。

「このチンピラ共は、どうするんだ? まさか、口封じに殺さなきゃいけないとか……」

「そ、そんなことする訳ないじゃないですか‼」

 だよね、よかった。

 せっかく巻き込まれないように気を使ったのに、死なれちゃ俺の苦労が水の泡だ。

「でも、このまま解放することはできません。異能者関連の事件になると思ったので、先ほど会長に応援を要請しました。しばらくすれば支部から護送用の車両と人員が派遣されるはずです。おそらく、支部で今夜の記憶を消されると思います」

 準備がいいなネコメは。さすがプロの霊官だ。行き当たりばったりでこんなことになった俺とは違う。

「記憶を消すなんて、そんなことできるのか?」

「支部の幹部に一人、そういうことができる異能者がいるんです。私も会ったことはありませんけど」

 人の記憶まで自由自在とは、さすが異能だ。恐れ入ったよ。

「しかし、支部の人たちが忙しいから俺みたいな下っ端まで仕事が回ってきたっていうのに、結局支部に後のこと任せちまうんだな」

 俺は記憶を消すなんてできないし、プロに任せるのは仕方ないことなんだが、なんだか半端な仕事をしたみたいでモヤモヤする。

「私たちに回ってきた仕事は円堂さんが異能混じりになっているのか調べることです。その過程で異能犯罪者を逮捕できたんですから、大手柄ですよ」

「そうかな?」

 ネコメにそう言ってもらえると、なんか安心する。

 妖蟲退治とは違う、学校の外での初仕事は、まあ成功ってことでいいみたいだ。

「…………ぉご」

 仕事を終えて気が緩んだ瞬間、不気味な声が響いた。

「あ?」

 声のした方を見ると、そこでは大木が膝を折った姿勢のまま、痙攣を起こしていた。

「ごが、があぁぁぁぁ‼」

 俯いていた大木が突然頭上を仰ぎ、喉の奥から潰れた声を上げる。

「な、何だよ! まだ何かあるのか⁉」

「こ、これは……⁉」

 俺たちが動揺する中、大木の右腕から、枯れ枝の槍が弾けた。


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