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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
旧友編
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旧友編18 別格


 暑苦しいスカジャンから伸びる無数の枝。先端の尖った鋭利なそれを、大きく飛んで回避する。

 大木の右腕を中心に、太く鋭い枝の群れは二メートルほどの射程を持っているようで、鞭のように柔軟に、槍のように鋭く、俺を付け狙う。

「吹っ飛べ‼」

 着地の瞬間を狙って振り回された左腕は、太い丸太。

 元々の腕とそれほど長さは変わってないようだが、硬くて重い鈍器だ。

 大雑把に振るわれた丸太を両腕を交差させて受け止め、着地と同時に床を蹴ってその力を受け流す。

「まだまだ行くぜぇ‼」

 開いた距離を埋めるように右腕の枝が伸ばされたのを見て、俺はハッキリと理解した。

『ダイチ』

「ああ」

 俺は今、異能具を、武器を持っていない。

 リルの神狼としての力を発揮するための牙は、ネコメに預けてしまっている。

 しかし、それを差し引いても勝負にならない。

(これでいいか……)

 コンクリートの床に転がる鉄パイプ。先ほど大木が放り投げたものを手に取り、迫る枝の腕に向かって振るう。

 バキバキバキッ、と乾いた快音を響かせ、大木の右腕は粉々に砕け散った。

「なぁ⁉」

 粉砕された自分の腕を見て、大木は驚愕に目を見開く。

 そして、鉄パイプを振り抜いた姿勢で自身を睨む俺を見て、激しく動揺した。

「なんで……なんでテメエまでそんな力を持ってやがる⁉ これは選ばれた奴だけの、特別な力のはずだ‼」

 俺の尻尾や耳が、種類は違えど自分の『木』と同様のものだということは、バカな大木にも分かったらしい。

「確かに特別な力だけど、言ったろ? お前のそれは『特別』の中じゃ『平凡』以下の力なんだよ」

 鉄パイプを捨て、俺は異能で昂る頭で分析する。

 大木の異能は、ハッキリ言ってザコだ。俺とリル、フェンリルの異能とは比べ物にならないくらい弱い。

 片腕を潰してしまったが、辺りに散らばる枝の破片の臭いは枯れ木のそれだ。

 おそらく伸ばしていたのは腕ではなく、爪に当たる部分。つまりは死んだ細胞だ。

 特に痛がっている様子もないし、大木の肉体にはまだ傷一つないのだろう。

「大木、テメエを異能の不正使用とか、なんかそんな感じの罪で逮捕するぜ。今なら痛い思いしないで済むから、大人しくしろ。そんでトシに詫び入れろ」

 霊官は異能を使った犯罪者を逮捕するとかネコメも言っていたし、その研修員の俺がやったって大きな問題にはならないだろう。

 力の差まで感じ取って大人しくしてくれればと思ったが、流石にそう上手くはいかないらしい。

「……ふざけんな。俺は……俺はこの力で最強になったんだ‼」

 叫びながら大木は、再び右腕の枝を伸ばした。

 スカジャンの袖をビリビリに破り、放射状に枝が伸びる。

(再生⁉ いや、折れた箇所は折れたままだ……‼)

 おそらく、ただ伸ばしているだけ。

 二メートルほどしかなかった射程を、折られた分伸ばして補っているんだ。

 つまり、無理をしているはず。

「やめろ大木‼ 限界超えて異能を使ったら暴走するぞ‼」

 いくら低級の異能とはいえ、暴走すればどんな危険があるか分からない。

 それに周りには、まだチンピラ共がいる。

 ハッキリ言ってこんな奴らがどうなろうと知ったこっちゃないが、異能者との戦いで一般人を巻き込むのはマズい。そもそもこいつらの前で堂々と異能を使っているのも、考えてみればかなりマズい。

「死ねや大神ぃ‼」

「止めろっつってんだろデブ‼」

 俺の制止を無視して異能を行使する大木は、縦横無尽に右腕の枝を伸ばす。

 伸ばして伸ばして、広く大きく拡散した枯れ枝の腕を床に這わせ、頭上にも大きく伸ばす。

「これで、どうだ⁉」

 そして分散させた枝を編むように絡め、巨大なドーム状の『籠』を作り上げた。

「バカヤロウ……一体何メートル伸ばしやがった⁉」

 廃工場の内部を覆う、巨大な枯れ枝の『籠』。

 自分やチンピラ共もまとめて籠の中に閉じ込めた大木は、ガタガタと震えていた。

「へへ、へへへへへ……。捕まえた、ぜ。大神ぃ……‼」

 ガチガチと歯を鳴らし、焦点の定まってない目で大木は俺を見据えた。

「今すぐ異能を引っ込めろ‼ テメエ死ぬぞ‼」

 大木は明らかに様子がおかしい。

 無理矢理異能を行使して、体に桁違いの負荷がかかっているんだ。

 異能混じりだって人間、俺も異能を使えば馬鹿みたいに腹が減る。

 キチンとした異能の扱い方を教わっていない大木がこんな無茶なことをすれば、人体にどんなダメージが行くか想像もつかない。

「テメエが死ねや‼」

 俺の忠告など気にも留めない大木は、辺りを囲う籠から俺に向けて枯れ枝を伸ばした。

 太く鋭い枝だが、速度は遅い。

 俺は難なく回避するが、避けた枝はそのまま突き進み、チンピラの一人の右足を貫いた。

「いっぎゃぁぁぁぁ⁉」

 足を貫かれたチンピラは悲鳴を上げ、床に転がってのたうち回る。

「な、何してやがんだテメエ⁉」

 俺は大急ぎで駆け寄り、チンピラの足に刺さった枝をへし折る。

「おい、大丈夫か⁉」

 倒れたチンピラを助け起すが、その顔は恐怖に染まっていた。

 枝はふくらはぎを貫通しており、抜けば出血が増えてかえって危険だ。

「大木、テメエ……」

 自分の仲間を平気で巻き込んだ大木に一言言ってやろうと向き直るが、その目はすでに俺を見ていなかった。

「おおおおお、おがががみいいいい。ころす……こ、ろす……‼」

 右腕の枝はどんどん太くなり、頭の木も背丈を伸ばす。どう見ても異能を制御してるようには見えない。

 それに、大木自身も普通じゃない。

(暴走……してるのか⁉)

 大木のその様子を見て、周りのチンピラ達が戦慄する。

「うわぁぁぁぁ⁉」

「大木君、出して‼ ここから出してくれよ⁉」

 仲間の一人が自分たちのリーダーの攻撃で倒れ、チンピラたちはパニックになった。

 ある者はコンクリートの床に蹲り、ある者は枯れ枝の籠から脱出しようとする。

 籠を形成する枯れ枝は太く、生身の人間が折るのは困難だ。

 籠に触れてなんとか逃げ出そうとする奴を弾き飛ばして、再び大木が俺に向かって枝を伸ばす。

 俺が枝を避けるのは簡単だが、避けたらおそらく誰か他の奴に当たる。

「クッソ‼」

 俺は再び鉄パイプを拾い、迫る枝を叩き砕く。

「全員伏せろ‼ 巻き添え食らうぞ‼」

 チンピラ共は俺の指示に従い、一斉にコンクリートの床に伏せた。

「おおおおがみみみみいいいいい‼」

 四方八方から迫る枯れ枝は、俺を貫こうとその勢いを増す。

 弾幕を張るように次々とコンクリートの床に突き刺さり、俺を追い詰めて行く。

「おれは、ちから、を、ををを、もらららた‼ ころろろろすすす、ちからぁ‼」

 ガタガタと全身を震わせながら、大木は一際太い枝を伸ばし、無数の枝を巻きつけてドリルのような極太の槍を作る。

「ころろろろすすす、ちかららららぁ‼」

 一直線に向かってくる枯れ枝の槍を正面から見据え、俺は鉄パイプを捨てて大木に向かって駆ける。

「……異能は、殺すための力じゃねぇ。それに……」

 枯れ枝の槍を引きつけ、半歩だけ体を揺らして回避する。

「俺の中の力は、俺の相棒は……」

 大木本体に肉迫し、右脚を振りかぶる。

「テメエなんぞとは、格が違えんだよ‼」

 渾身の回し蹴りで、大木の枯れ枝を肘先から砕いた。



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