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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
旧友編
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旧友編12 過去の罪


 俺のせいだった。

 二年前のあの事件のとき、トシを巻き込んでしまったあの事件のときだ。

 バスケ部のレギュラーだったトシは、俺のせいで大怪我を負い、試合に出られなくなった。

 病院のベッドの上で作り笑いを浮かべるトシの顔が、今でも脳裏に浮かぶ。

 大地のせいじゃないから、気にするな。腕の骨を折り、アザだらけの顔で、トシはそう言った。

(違う……俺の、俺のせいだ)

 巻き込んじゃいけなかった。友達になんか、なるべきじゃなかった。

 無関係であれば、あんなことにはならなかった。

 そして今、俺は再びトシの夢を奪った。

「…………」

 悲痛な沈黙が、カラオケボックスの一室を支配する。

 トシの心境を思えばしばらくの間そっとしておきたいところだが、あまり時間に余裕があるわけでもない。

 早ければ明日にでも、トシは異能専科に編入しなければならないのだ。

 放課後にトシの家に行って両親も交えて話さなければならないし、その辺の説明もヒガコーの昼休みが終わるまでの間になるべくしておきたい。

「円堂さん、あなたの混じった『サトリ』という妖怪は、心を読む異能。もし上手く異能を扱えずに暴走すれば、常に周囲の心の声が聞こえてしまいます。一人や二人なら大したことはありませんが、百人二百人となれば、それはもう人間の脳で処理できる情報量を超えてしまいます」

 だから、一刻も早く異能を制御する方法を学ぶ必要がある。ネコメはそう言って発現させていた異能を解除する。

 確かに、人間の脳なんて一対一の会話を理解するので精一杯だ。二人の人間から別々の話をされても、理解できるはずない。もし周囲の心の声が常に聞こえ、しかもそれを『読む』、つまり理解しようとすれば、脳にかかる負担は想像もつかない。

「少し……時間をくれ」

 そう言ってトシは部屋を出ようとするが、ネコメはそれを制止する。

「ダメです。本当に急を要する事態なんです」

 できればこのまま学校に帰さず、異能専科に連れて行くのがいい。ネコメはそう思っているのだろう。

 いつ異能が暴走するか分からないし、それが最善なのは俺にも分かっている。

 でも、トシの心境を考えると、そんなことはできない。

「放課後まででいいから」

 ネコメの制止を振り切り、トシは部屋を出てしまった。

「放課後迎えに行く。親父さん達にも話さなきゃいけなから……」

 ドアが閉まる前にトシの背中に向けてそう言う。

 トシは一瞬だけ振り返り、小さく頷いた。

「…………」

「…………」

 俺とネコメが残された部屋に、再び沈黙が訪れる。

 異能と混じった人間は、霊官が管理するために異能専科に編入させられる。

 初めて聞いたときは効率的なシステムだと思ったが、人にはそれぞれの生活が、環境がある。

 それを問答無用で、こちらの都合でコロコロ変えるのは、本当に正しいことなのだろうか?

 俺のようにフラフラしているやつだったら問題無いかもしれないが、トシにはトシの学校、友人がある。

「……珍しことじゃないですよ。急に転校しろだなんて、誰だって普通は嫌がります。当然の反応です」

 だから気に病むなと、ネコメは言外に慰めてくれているようだった。

 でも、そう簡単に割り切れるわけない。

「……あいつからバスケを奪うのは、二度目だ」

「二度……?」

 俺は温くなったドリンクで喉を潤し、ゆっくり語り始めた。

「二年前、俺は真面目に学校に行ってた時期があったって話たろ?」

「はい、お聞きしました」

「そのときに、他校のやつと大きなケンカをして、それから学校に行かなくなったんだ」

 忘れもしない、あの事件。

 俺は当時、ヒガコーの一年生だった大木トシノリと対立していた。

 理由は大木のまとめていたグループへの勧誘を、俺が断ったこと。

 特にグループに属していなかった俺は、一人で膨大な人数の大木のグループを相手にしなければならなかった。

 通学路での待ち伏せは当たり前、単車で跳ねられそうになったことだって何回もあった。

 複数人対一のケンカを何度も経験し、俺はそのせいでケンカに慣れていった。

 いかに効率よく相手を無力化するか、リーダー格のやつを行動不能にするか。そんなことばかり、上手くなってしまった。

 そして、あいつらは俺を倒すのは困難だと思い、俺の友人であるトシに標的を移した。

 呼び出された場所に行くと、ボロ切れのように横たわるトシと、それを見て嘲笑を浮かべる大木たちがいた。

 そのあとのことは、よく覚えていない。

 半死半生の大木とその仲間。

 手には誰かから奪って振り回したらしい得物。

 死人が出なかったのが不思議なくらいの、大惨事だった。

 俺は誰かが読んだパトカーに乗せられ、警察に連行された。

 相手が大人数だったことと、俺もボロボロだったことを含めて正当防衛ということになったが、周りの反応はひどいものだった。

 当然俺は学校に通えるはずもなく、そのまま卒業を迎えた。

「……俺が巻き込んだせいで、トシは一度バスケができなくなった。骨折して、リハビリにも時間がかかって、高校でやっとバスケができるようになったのに……」

 俺は目に涙を滲ませながら、悔しさに歯噛みした。

 異能と出会ってよく分かっていたつもりだったのに、今更ながらに痛感した。

 神様なんて、いないんだと。



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