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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
旧友編
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旧友編11 叶わない夢



「……理解してくれたか、トシ?」

 静かなカラオケボックスの一室、隣の部屋の歌声がわずかに漏れ聞こえる中で、異能の大まかな説明を終えた。

 諏訪先輩の助言通り、ネコメに代わって俺が説明役をやらせてもらったが、上手く説明できた気はしない。

 現に最初は呆気にとられていたトシが、今は眉間にシワを寄せて俺の隣に座るネコメを睨みつけている。何か、誤解を生んでしまったのかもしれない。

「大地、目ぇ覚ませよ。この女に何吹き込まれたんだ⁉」

 激昂したトシはネコメに掴みかからんばかりの勢いで迫り、声を荒げた。

「テメェ、俺のダチに何しやがった⁉ コイツはイカれた宗教にのめり込むような奴じゃねぇぞ‼」

 やっぱり、俺の説明が足りなかったらしく、トシは異能を変な信仰宗教と勘違いしているようだ。

「トシ、落ち着いて……」

「黙ってろボケ! お前の女運が悪いのは知ってたが、ここまでとは思わなかったぜ」

 トシは俺の方を見ようともせず、俯くネコメに詰問している。

「円堂さん」

 俯いていたネコメがゆっくり顔を上げ、異能を発現させた。

 髪の色は茶髪から銀色に、頭の上には同色の獣の耳が現れる。

 突如目の前で起こった超常現象に、トシは言葉を失い、あらん限りにその目を見開いた。

「これで、少しは信じてくれますか?」

 銀色の瞳に射竦められ、トシは放心したように椅子に腰を落とした。

「な、んだよ、それ? 手品か、何かか?」

 わなわなと口を震わせながら、トシは助けを求めるように俺の方を向いた。

「……リル」

 俺はネコメに倣って異能を発現するべく、スクールバッグの中で眠るリルに呼び掛けた。

『……うにゅ?』

 バッグのジッパーを開けると、未だ半分夢の中のリルがのそりと顔を出した。

「うお⁉ い、犬?」

 俺の犬嫌いを知っているトシは俺がリルを連れているのを不審に思っているらしい。

「狼だよ。リル、少しいいか?」

『んー』

 起き抜けのところ悪いが、俺は少しだけリルから異能を回してもらう。融合するほどではない、耳と尻尾が現れる程度の異能の力を。

「だ、大地⁉」

 俺の頭上に現れた耳を見て、トシは驚きを通り越して怯えるような顔になってしまった。まあ当然の反応だよな。

「トシ、これが異能だ。お前にも、似たことが出来るはずだ」

「い、異能……」

 超常の力、異能。

 トシの中にも、その力がある。

「俺に……そんな力が」

「サトリ、人の心を見透かす妖怪だ」

 サトリの能力は心を読むこと。

 だからトシには、本当は分かっているんだ。

 俺の言っていることが本当だってことも、自分に異能が備わってしまっていることも。

「…………」

 トシは放心したように静かになり、テーブルの上で頭を抱えてしまった。

 そんなトシの様子を見て、ネコメがそっと耳打ちしてくる。

「大地君、サトリは動物の異能、私の異能が通じます。いざとなれば……」

「やめろ。絶対にやめてくれ」

 いざとなればネコメの異能で、異能のことを受け入れさせる。

 そんな洗脳の真似事をトシにしたくないし、ネコメにもさせたくはない。

 やがてトシは頭を上げ、血の気の引いた顔でぽつぽつと口を開いた。

「……俺も、その、異能専科に行くことになるのか?」

「ああ」

 俺がそうしたように、トシも異能専科に編入することになる。

 これは霊官、ひいては国の決定。一介の学生である俺たちにどうこうすることは出来ない。

「……バスケは? 県大会は、来月なんだぞ⁉」

「ッ‼」

 悲痛に顔を歪め、今にも泣きだしそうなトシを見て、俺は目を覆いたくなった。

 でも、それでも俺は言わなくちゃいけない。

 友達に、死にも等しい宣告を。

「……地区予選でお前は、無意識に異能を使ってしまっている。対戦相手の動きを読んだり、コートの中の人の位置を知覚したり。異能で公式の大会に結果を残すことは、厳しく禁じられているんだ」

「違う! あれは俺の……。俺の……」

 トシは最初から、分かっていたのかもしれない。

 あれは自分の力じゃなく、不思議な力でズルをして得た結果だと。

「……地区予選の結果は、残しちゃいけないんだ。ヒガコーのバスケ部は、県大会への出場を取り消され……」

「俺一人の問題なら、部のみんなは関係ないだろ⁉」

 ダンッ、とテーブルを叩き、トシは声を荒げた。

「三年の斎藤さんは、大学のスポーツ特待枠取れるかもって喜んでた! 部長は泣きながら俺に、お前のおかげだって……‼」

 興奮して息を切らせたトシは、言葉を詰まらせて激しく咳き込んだ。

 呼吸を整え、涙目になりながら言葉を続ける。

「げほっ……。せめて、あの人たちだけでも……」

 自分以外の部員だけでも、県大会に出場させてほしい。トシの自己犠牲の上でのその願いを、俺たちは否定しなければならなかった。

「東高校バスケ部の功績は、全て異能によってもたらされたものです。それはできません」

 ゆっくりと首を振るネコメに、トシは震えながら、ゆっくりと涙を零した。

「トシ……」

 何か言おうと口を開きかけた俺に、トシの冷たい視線が向けられた。

「……お前は」

 その冷たい目は俺を、俺たちと異能を拒絶する、そんな目だった。

「お前はまた、俺から夢を奪うのか……?」

 トシの口から出たその言葉に、俺は心臓を鷲掴みにされたような寒気を覚えた。

 忘れもしない、二年前のあの事件。

 俺は一度、トシから夢を、


 バスケを、奪った。



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