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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
旧友編
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旧友編9 再開の旧友


 サトリ、人の心を読む妖怪。

 人の心を見透かす獣で、猿やタヌキのような姿で描かれるものだと、ネコメは説明した。

 あれから、悟志に連絡アプリで電池切れしたといった適当な言い訳をし、ネコメと今後について話し合った。

 昨夜の通話で悟志に対する疑惑はさらに深まり、俺たちは直接ヒガコーに赴いてその真偽を確かめることにした。

「なんでそんな格好をしているんですか?」

 翌日の早朝、バスの始発に乗って向かった場所はヒガコーの校門近くである。

 俺とネコメは目立たないために、諏訪先輩がどこかから仕入れたヒガコーの制服に身を包み、校門を通って部活の朝練に向かうと思しきヒガコーの生徒を一人一人監視し、トシを探していた。

 ネコメはヒガコーの夏服、プリーツスカートと半袖のワイシャツとカーディガンに身を包み、怪訝な顔で俺の格好を見ていた。

 俺はヒガコーの冬服である学ランの下に薄手のパーカーを着込み、フードを深く被っている。

 背中に背負ったスクールバッグにリルを無理矢理押し込み、静かにしているように厳命しておいた。

 季節は初夏、はっきり言ってクソ暑い。

「俺はこの辺ではそれなりに名前が通っちまってるから、顔隠してんだよ……」

 俺はフードの下で汗を拭い、ネコメに返答する。

 このヒガコーには俺と同じ中学出身の生徒がそれなりの人数席を置いているし、そうでなくても大変不本意なことに、俺は市内ではそれなりに顔と名前が知られている。

 閉鎖的な異能専科にいる間に忘れかけていたが、俺は悪い意味で有名人なのだ。この程度の顔隠しは当然である。

「逆に目立ちませんか?」

「…………」

 確かに、梅雨を間近に控えたこの時期に学ランパーカーという出で立ちは、それなりに目立つ。しかし、背に腹は代えられない。俺のことがバレれば、教員連中に警察を呼ばれても不思議はないのだ。

 ちなみに異能専科は制服を自由にイジれるため、衣替えという概念は存在しないらしい。

「……異能具は、持っていますよね?」

「そのための学ランでもあるからな」

 俺はパーカーのポケットに突っ込んでいた手を腰に回し、そこにある感触を確かめる。

 ベルトに固定するタイプのオリジナルホルスターに、俺とリルの牙、二本の異能具がある。

 夏服のワイシャツだけではこの異能具を隠せないから、こんなに着込んでいるというのもあるのだ。

「大地君」

「なんだよ?」

 校門の見える位置で不快指数の高い熱気に耐えていると、ネコメが唐突に口を開いた。

「円堂悟志さんが異能者だったら、嫌ですか?」

「……なんだよ、その質問」

 そんなの嫌だ。嫌に決まっている。

 あいつには、バスケで全国に行くという夢があるんだ。異能専科に入ったら、運動部の大会では結果を残せない。あいつの夢は永遠に叶わなくなってしまう。

「……極端に珍しい例ではあるんですが、昔の友人と異能専科で再会した人は、例外なく嬉しそうにするんです」

「それって、昔同じ学校だったやつ同士が、二人とも異能混じりになるってことか?」

 半異能のような混血は生まれた時から異能専科への入学が決められているようなものだし、諏訪先輩や烏丸先輩みたいな異能使いは、大抵の場合『代々そういう家系』らしいので、これも異能専科に入るのは既定事実だ。

 普通の学校にいた人間が異能専科に編入する場合、それは異能混じりになる以外ありえない。

「はい。同じ秘密を共有するような、不思議な感覚になるそうです」

「いるのか、そんなやつ?」

 異能混じりになる確率を考えれば、昔の知り合いが二人とも異能混じりになるなんて、天文学的な確率に思える。

 だから、俺は円堂悟志が異能混じりになるなんて、そんな偶然を信じられないんだ。

「うちのクラスなら、目黒君と石崎君は同じ小学校だったらしいです」

「マジかよ……」

 あの三馬鹿のうちの二人にそんな接点があったなんて、通りで仲良い訳だよ。

「だから、大地君ももっと喜ぶかと思ったんです。昔のお友達と、クラスメイトになるかもしれないんですから」

「…………」

 ネコメの言いたいことは、まあ分かる。

 そりゃ俺だって、一時期はトシと同じ学校に入ろうとしていた。そのくらいには一緒にいることが苦痛でない間柄だったんだ。

 フリーターやってた時期だって、あいつと一緒にヒガコーに行っていればと、何度も思った。

 でも、あいつにはバスケという夢がある。

「俺は、一度あいつの夢を……」

 そう口を開いた瞬間、


「呼ばれてないのに、ジャジャジャジャーン‼」


「⁉」

「ッ‼」

 俺たちの真後ろから、大声でそんなことを言ってくるやつがいた。

 俺は咄嗟に腰の異能具に手を伸ばすが、声を掛けてきた人物の顔を見てフッと力を抜いた。

「こんなとこで何してんだよ、大地」

 その人物、円堂悟志は、両手を挙げた珍妙なポーズで笑いかけてくる。

「うちの学校の学ランなんか着込んで、何やってんだ?」

「ああ、これは……」

「つーかその女の子誰⁉」

「こいつは……」

「うお⁉ よく見りゃ超かわいいじゃん‼」

「いや、だから……」

「なになに、大地の彼女⁉」

「いや、そういうんじゃ……」

「クッソ、やっぱ不良ってモテんのか⁉」

「話を聞けぇ‼」

 スパァン!

 トシの頭を思いっきり引っ叩き、右肩上がりのテンションを落ち着かせる。

「イッテェー! 相変わらず容赦ねぇな大地」

「お前こそ、相変わらずバカそうだな」

 ため息を吐きながら、俺は昔とちっとも変わらない友人の様子に心底安堵した。

 そして同時に、泣きそうになった。

 ネコメもまた気付いたのだろう、トシのテンションに若干引きながらも、不安そうな顔で俺の方を見てくる。

(ああ、気付いたよ……)

 異能具の作製を依頼するために日野甚助の家を訪れた時にも、似た感覚を覚えた。

 異能者が異能場を知覚できる、あの感覚に似ている。

(なんで……なんでお前が……)

 目の前で昔と変わらない姿を見せてくれる友人が、


 円堂悟志が異能者になっていることに、俺は気付いてしまった。



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