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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
旧友編
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旧友編8 友との会話


『おう、どうした? 大地が連絡くれるなんて、珍しいじゃんかよ』

 諏訪先輩から仕事の話を聞いた後、俺はリルを連れて寮の自室に戻り、友人に電話を掛けていた。

 相手は、ヒガコーの一年生。円堂悟志、トシだ。

 トシには今、異能を使用して部活の大会で結果を残したという疑惑がかけられている。その疑惑が信じられない俺は、こうしてトシに連絡を取り、それとなく話を聞いてみようとしているのだ。

「いや、その、どうしてるかなって……」

『何その付き合いたてのカップルみたいなお電話の理由⁉』

「そんなつもりじゃねえ‼」

 言いよどむ俺に、トシはあの頃のようにテンション高く軽口を叩く。

 そんなやり取りが心地よく、俺は思わず笑みを浮かべてしまう。

 やはり、このトシが異能で不正をするなんて考えられない。

「お前、新聞出てたぞ。県大会出場って……」

「ああ、その話か。なんだよ、そんなこと」

「そんなことって……」

 気の抜けたようなトシのセリフに、俺は怪訝な面持ちになる。てっきりもっと喜んでいると思ったのだが、まるで簡単に、地区予選など気にも留めていないような物言いだ。

『あんな小さい記事なんて話にならねえだろ? 俺は全国に行くって言ったじゃんかよ』

「話に、ならない?」

『ああ、俺の夢はまだまだ途中よ! 見てな、夏のインハイに出て、俺がヒガコーを全国優勝させる‼』

 電話の向こうで息を荒げるトシに、俺は心底安堵した。

 自分の夢に向かってひたむきに進んできた友人は、決して不正などしない。そう確信したからだ。

「……優勝って、夢の規模デカくなってねえか?」

『いいじゃねえか、夢はでっかくよ。それに、最近俺マジで調子いいから、本気で全国優勝狙えると思ってるんだよ』

 嬉々として言うトシは、本当に楽しそうだ。冗談じゃなく本気で、全国優勝を狙っているのだろう。

「そんなに調子いいのか?」

『おうよ。なんかコートで相手と向き合うと、相手の動く方向が分かるんだよ』

「……動きが?」

 トシの言葉に、何か俺はきな臭いものを感じた。

『ああ。しかもコート中のやつの位置も手に取るように分かるんだよ。こんな調子いいこと、今までなかったぜ』

「そうか……なあトシ」

『俺って天才だったんだよな~。まさかこんなにバスケの才能があるなんてさ』

「トシ、聞けって!」

『他の部員もみんな調子……』

 ブツッ、会話の途中で、急に通話が途切れた。

「え?」

 ケータイの画面を見ると、圏外になっていた。寮にはワイファイが通っているのに、一体どういうことだ?

「ダメです、大地君」

 ガチャ、部屋のドアが開錠され、ネコメが入ってきた。

「ネコメ……どういうことだ?」

「話し過ぎです。異能混じりの可能性がある相手に、あまり多くの情報を流してはいけません」

 冷静な眼でそう告げるネコメに、俺は戦慄を覚えた。

「そうじゃない。俺のケータイに、なにした? 会話も聞いていたのか?」

「……大地君は、霊官研修員という立場ですが、未だに保護観察を受けているんです。分かってください」

「通話の傍受と、切断。お前がやったのか」

 俺の指摘にネコメは頷き、自らのケータイを操作した。妨害電波のようなものでも飛ばしていたのだろう。

 この異能専科は、異能混じりになった若者の保護と管理の名目で半ば軟禁しているのは知っていた。

 突如異能を手にしたものが、それを悪用しないための監視の檻。そして、看視者に当たる霊官。

 この部屋で目を覚ました日に教わったはずだが、あまりにも外界と隔絶されているこの状況に慣れ過ぎていたみたいだな。すっかり忘れていた。

「私は霊官です。必要と判断すれば、この程度は」

「いい趣味とは言えないだろ」

 苛立ち、語気を強める俺に、ネコメはそれでも毅然と目を見て言ってくる。

「……今の話を聞いて、円堂悟志さんが異能混じりである可能性が高まりました。行動を起こす前にいたずらに情報を与えるのは……」

「違え‼」

 俺の叫び声にネコメは身をすくませ、寝ていたリルは跳び起きてしまった。

『だ、ダイチ?』

「あいつは、そんな卑怯なマネは……‼」

 絶対にしない。そう信じていた。

「……無自覚に、という可能性もあります」

「ッ⁉」

 ネコメの言葉に、俺は嫌な確信を感じてしまった。

 トシは、異能と混じり、無自覚にその力を行使している可能性がある。

 おそらくその異能は、俺やネコメのように大きく見た目に変化が出るものでなく、里立のように特別な影響を及ぼすものだろう。

「……相手の思考を、読む異能か?」

 相対した相手の思考を読み、コートの中の人間の位置や考えを感じ取る。そんな異能。

「今は無自覚に発現しているので、相手の感情や雰囲気の違いを感じ取れる程度でしょう。でもキチンと異能を学べば、相手の深層心理まで読める、強力な異能になります」

 どうやらネコメは、盗み聞きしていた会話の内容からその異能にアタリを付けているらしい。

「その異能って……」

「……おそらく、『サトリ』。人の心を読む妖怪です」


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