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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
行楽編
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行楽編47 夏の終わり

「あー、旅行もあっという間だったな」

 帰りに寄った道の駅で土産物を物色しながら、トシがそんなことを口走る。

「俺はほとんど旅行って感じしなかったけどな……」

「そうか?」

「そうだろ」

 一日目は呪いのアイテムの処理に、水子との予定外の戦闘。二日目はネコメとの一件があって遊びなんて状況じゃなかった。コイツらは諏訪先輩が上手く誤魔化してくれたおかげで海水浴楽しんでたみたいだけど。三日目は前日のリベンジの海水浴に、スイカ割りや花火などの定番をそれなりに楽しめていたが、やはり心のどこかで前日のネコメのことが引っかかっていた。

 ネコメは、俺に好意を向けてくれている。しかし、それは決して純粋な恋愛感情ではなく、生い立ちから来る歪みに満ちた、仄暗い好意だ。

「笹団子? パンダのオヤツですか?」

「いやいやいや、人間用だよ。餡子の入った和菓子」

「あたしも食べたことない。美味しいの?」

 八雲や里立と一緒に土産物を見て回るネコメは、一見普段と変わらない様子だ。女三人で姦しいというが、ウィンドウショッピング感覚で楽しそうにしている。時折俺と目が合うと、微かに頬を紅潮させながらニコリと笑みを浮かべてもくる。

 ネコメが普段通りに振る舞うなら俺もそれに倣うが、それでも、あの告白を受け取った俺には、今のネコメの姿がどこか空恐ろしく見えてしまう。

「兄さん、お父さんのお土産、何がいいかな?」

「あー、オヤジ甘いの食わねえからな。米所だし、日本酒とか?」

「私たちじゃ買えないと思うよ」

 そりゃそうか。それにしても、こういう土産物ってのは甘い菓子が多いよな。苦手な人には酷かもしれん。

「お兄ちゃんお兄ちゃん! これ可愛い!」

 そう言って真彩が指さすのは、白い狐みたいな猫みたいな、モフモフした尻尾の長い動物のキーホルダー。前足でピンクとか水色とかの球を持っているやつで、『小さな十手』や『金ピカの刀』などに並ぶ、土産物屋に絶対置いてあるやつだ。

「…………真彩、これはね」

「すっごく可愛いよね!」

 わお、純粋。

 隣に置いてある刀のキーホルダーとかも、何故か子供心にドストライクなんだよな。今となっては全く欲しいと思わないんだけど。

「か、買ってやろうか?」

「いいの⁉︎」

 お目目をキラキラさせて喜ぶ真彩。別に買うのはいいんだが、この手のキーホルダーの魔力って半日くらいしか保たないんだよな。経験上。

 真彩はピンク色のやつを欲しがったので、土産にする適当な菓子と一緒にレジに持って行くと、既に並んでいた諏訪先輩とマシュマロが驚愕の表情で横から口を出してきた。

「え? 大地アンタそれ買うの? 高校生にもなって買ってる奴初めて見たんだけど」

「それ、わたしも、昔、買った」

「いや、俺じゃなくて真彩がな。ちなみにマシュマロ、それまだ持ってたりする?」

「帰って、忘れてて、次の、旅行で、鞄から、見つかった。そのあとは、分からない」

 不遇だなぁ。まあ、このキーホルダーを後生大事に持ってる奴なんて見たことないけど。

 諏訪先輩の隣で土産物を抱えていた烏丸先輩は、刀のキーホルダーを興味ありげに眺めている。この人が鞄にこんなもの付けてたら死ぬほど笑うけどな。

「この刀は装飾が多すぎるな……」

 真面目に検証すんなや、こんなもん。

「実在しないでしょうね、こんな刀」

「あったとしても使い物になるまい。これでは重くて……ん? 大神、その腕どうした?」

「え? ああ、なんか昨日起きたら怪我してて……」

 俺の左腕には、何やら赤く腫れが出来ていた。昨日海に入ったときに少し染みたが、どこで怪我したのか覚えが無い。

 そんな話をしながら各々が買い物を終え、炎天下の駐車場に出てる。暑い。

「ほら、真彩」

「ありがとう、お兄ちゃん!」

 ポチ袋みたいな小さな包みからキーホルダーを出してやると、真彩はそれに自分で異能を込めてから手に取った。確かにこうすれば真彩でも持てるが、普通の人にはキーホルダーが浮いてるように見えるんだよな。

『ダイチ、僕には?』

「あー、お前には……これでいいか」

 リルには魚の干物をくれてやる。『肉じゃないのか……』なんてワガママを言いながらもしっかり齧り付いた。

「さてと、お土産も買ったし、あとは帰るだけね」

 売店で売っていたアイスを食べながら、諏訪先輩の号令で解散式のようなものが始まる。こうなるといよいよ終わりって感じだな。

「夏休みもあと数日だし、明けたらすぐに学園祭の準備が本格化するわ。生徒会はもちろん、そうでない人も忙しくなる。それに……」

 諏訪先輩は言葉を切り、チラリと小月の方を見る。この場にいながら、本来異能とも霊官とも関わりの無い小月。そんな小月に聞かせる話ではないと思ったのなら、それは多分霊官や、大日異能軍に関わることか。

「……それに、学園祭は一般の人も来られるわ。大地、小月ちゃんに入場券渡すわよね?」

 恐らく最初に言おうと思っていたことと違うことを言った諏訪先輩。俺は頷き、素知らぬ顔で答える。

「ああ、一応そのつもり。小月も学祭、行きたいか?」

 異能専科の学祭は、普通の学校のように父兄などの一般人も来られる。入るには生徒一人につき三枚配られる特別な入場券が必要になるが。

「行けるの?」

「ああ」

 小月はパッと顔を輝かせる。最初真彩を家に連れて行ったときには幽霊という存在にパニックを起こしていたのに、この旅行で随分と慣れてくれたみたいだ。

「それにしても、夏休み短いよね」

 唐突に八雲の口から出た言葉に、一同は大きく頷く。

「ホントだよな。俺は八月の終わりまで休みなんて、都市伝説だと思ってたぜ」

「どのメディア見ても言ってるけど、確かに実感湧かないよな」

 トシの言葉に俺も同意する。

 長野では小中高共に夏休みが短い。始まるのは全国と大差ないが、終わるのは八月の三週目くらい。一ヶ月ほどしか休みがないのだ。

「他のところだともっと長いんですか?」

「一般的には七月の三週目から、八月末までね」

「そんなに違うんですね」

 常識に疎いネコメに諏訪先輩が説明する。そして、次の一言に鈍器で頭を殴られたような衝撃が走った。


「のび太くんやカツオくんが必死に宿題やってる頃には、私たちはとっくに二学期だものね」


 …………………………………………宿題?


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