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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
行楽編
240/246

行楽編44 干渉できぬモノ

「改めて、今の異能の三大非干渉、三つ全部言えるかな?」

 何だよ今更。さっきも話しただろうに。

「命、時間、空間の三つだろ。そんなことは分かって……」

「では具体的に、それらに干渉できないというのはどういうことか、分かるかい?」

「え?」

 漠然とした認識に、唐突に理解に触れるように言われた。

 言われてみれば確かに、干渉できないということは知っていても、それが具体的にどういうことができないのかは考えていなかった。

 俺は少しだけ思考し、最も端的な答えを出す。

「…………死んだ人間は、生き返らない」

 まず思いつくのはこれだ。

 死者の蘇生、これは不可能の代表格だと思う。

「正解率は三分の一以下といったところだね。まだまだ理解が足りないよ、マイボーイ」

 両手を大仰に広げて、やれやれと茶化すようなロキの言い方。相変わらず腹が立つ。

「なんだよ、三分の一って。普通半分とか言うだろ」

「半分も理解していないよ。まず第一に、生き返らないのは人間だけじゃない」

「それは…………」

 それは、そうだ。

 例えばリルは人間ではないが、死んだら当然生き返らない。

「死んだ命は生き返らない、これが大前提だ。そして次に『不老不死』、命を無限に得ることもできない。更に、無から命を作ること、『生命創造』も不可能だ」

 それらもまあ、納得だ。

 命が作れるなら死者の蘇生だって似たようなものだし、寿命を乗り越えることに成功したように見えていた藤宮も、あっさり死んだ。

「最後に、『命を奪う』。これも成功例は無い」

「は?」

 命を奪えないって、何言ってんだ?

「そんなの簡単だろ? その気になれば俺だって……」

 俺だってできる、そう言いかけて、言葉を止めた。

 異能で身体能力を強化する、または異能具を用いれば俺にだって命は奪えるし、現に異能生物や妖蟲は殺めてきた。

 しかし、それは果たして『異能で命を奪った』に該当するのだろうか?

 俺は異能者になるよりも前に、一度だけ妖蟲を殺している。初めてリルと会ったとき、俺は河川敷でヘルメットを叩きつけて妖蟲を一匹殺した。

 あの時の行動と異能を使った戦闘に、一体どれ程の違いがあるのか。

「気付いたようだね。流石は賢いよ、マイボーイ」

 ロキは満足げに笑い、うんうんとしきりに頷く。

「そう、相手が死ぬのはただの結果。例え心臓を止める異能があったとしても、それが命に関わるのは副次効果なんだよ」

「なるほどな…………」

 首を刎ねれば当然死ぬ。心臓を止めても、大量の血を流しても死ぬ。しかしそれは、異能という力が直接命を奪っているわけではない。

 銃や刀そのものが命に関わる訳ではないように、異能で命だけを奪うことはできないんだ。

「それだけ命にというのは曖昧な概念なんだよ。長い異能の歴史のなかでも、ただ命だけを終わらせる異能は存在しない。次に時間だが、これはまあ言うまでもないね」

 時間干渉。漫画とかならモロにラスボスの能力だな。これは出来なさそうなことだらけでスラスラ出てくる。

「止まらない、戻らない、進まない。タイムスリップとかは勿論、遅くしたり速くしたりもできない」

 端的に出した答えに、ロキは今度は手を叩いて賞賛した。

「うん、正解だ。擬似的に体感時間を操作する方法はあるようだが、肉体への負担が大きいし、何より時間そのものを操作しているわけじゃない。そういった一時的かつ擬似的に干渉する方法は、昔から模索されている」

 つまり、自分の動きを速くしたり反応速度を上げたり、相手の動きを遅くしたりってことか。

 戦闘ならかなり有利になるが、確かに時間への干渉とは言えないな。

「最後に本題、空間についてだ」

「ああ……」

 空間干渉、ヘルの能力。

 異能の濃度さえ濃ければ実現可能というのは、どういう意味なのか。

「先程も言った通り、昔は空間は非干渉ではなかった。しかし、当然可能なことと不可能なことがあった。可能の代表格は、物体転移だ」

 物体転移、書いた字の如く、物を移動させる力か。

「何かしらの形でマーキングをした場所に物を一瞬で移動させる力だ。当然、移動させる物体の重さや大きさ、移動させる距離に限界がある。宅急便と同じだね」

 宅急便と同じ扱いだとチープに聞こえるが、納得の理屈だ。サイズや質量に制限が無いなら、それこそ空に浮かんでるお月様を持ってきたりも出来てしまう。

「私の時代でも、人間サイズの物体を移動させられる者は稀だった。まあ、サイズの小さなものなら現代でも擬似的な移動は可能だし、例外が無い訳でもない」

「そうなのか?」

「君はある程度離れた場所からもリルと異能を通わせることができるし、その後手元で異能を解けばリルは手元に現れる。これはリルが空間転移していると言えなくもないだろう?」

「ああ、言われてみれば……」

 先日東京で関東支部長の大崎さんに絡まれたとき、俺はホテルの地下駐車場から上階にいるリルに働きかけて異能を発現させ、異能を解いたときにはリルは手元にいた。

 あのときはそこまで違和感を持ってはいなかったが、普通に移動するよりも明らかに早く、リルは空間を跳躍したことになる。

「物体転移に必要なマーキング、相互に意思が疎通できる君たちのような例外。この二例の共通点は、移動元と移動先、二箇所から働きかける必要があるということだ。それは分かるね?」

「ああ」

 何もない場所に移動先を設定するのではなく、何かしらの目星が必要ってことだ。

「空間に干渉するには、この『二箇所』という点が非常に重要だ。トンネルを掘るとき、片側だけよりも反対側も並行して掘れば、半分の時間で貫通するだろう。ヘルの空間干渉も、この二箇所からのアプローチで成り立っている」

「……続けてくれ」

 あえて核心を避けているのか、順を追ってでないと説明できないのか、ともかく今まで聞いた話では、ヘルの空間干渉について答えを出すことはできない。

「次に、空間干渉で不可能な点だ。人間を始めとした生き物の転移、リルは例外だが、これも成功例は無い」

「なんで、リルは例外なんだ?」

「リルは異能生物、少なくとも半分はそうだ。異能が形を成さずに霧散するように、異能生物は実体に囚われない。なので理論上は、条件さえ満たせば実体の無い真彩君は瞬間移動が可能だと思うよ」

 つまり、リルは一時的に異能のエネルギーとして霧散して、俺に混ざっているのか。その繋がりが、俺という異能混じりであると。そんなところかな。

「生き物が転移不可能なのは、転移後の負荷に耐えられず死んでしまうからだ。擬似的な転移、空間に穴を開けての移動ならば、生き物でも可能だよ」

「空間に、穴……」

 それは正にヘルが行った移動。人や物体を移動させるのではなく、場所と場所を繋げるってことか。

「ただし、それは同じ時空内、簡単に言えば地球上で行うことはできない」

「…………え?」

 地球上では、空間を繋げられない?

 それでは、まるで…………


「空間干渉の一つ、空間に穴を開けての移動とは、異界への移動のことを指す。ヘルは異界から君たちの前に現れ、異界に帰って行ったんだよ」


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