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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
旧友編
24/246

旧友編1 部活


 ピッ、電子音が響き、それに合わせて駆け出す。

 狼の耳に、尻尾。全身に異能を発現させ、トラックの土を蹴る。

「あいつ早いな……」

「狼ってのはダテじゃないよ……」

 百メートルの疾走を終え、記録係が俺のタイムを告げる。

「六・一四秒です」

「ハイ……」

 百メートルを六秒ちょい。文句無しで世界記録なのだが、この学校ではせいぜい『ちょっと早いやつ』レベルだ。

 俺、大神大地が異能の国立専門学校、異能専科に編入して、約一ヶ月が過ぎた。

 六月に入り、季節は梅雨。今日のように雨の降っていない日でも、高い湿度によって不快指数の高い毎日が続いていた。

 俺と相棒の狼の異能生物、フェンリルの末裔リルは、再来週に迫った体育祭に向け、放課後の部活選びに奔走していた。

 この異能専科は全生徒が強制入部。つまり何かしらの部活か委員会に所属することが義務付けられているが、編入生である俺は未だなんの部活にも所属していない。

 特にやりたい部活があるわけではなかった俺だが、入部の期限は今月の体育祭まで。それまでに決めないと、人数の少ない部に無理矢理入れられてしまうことになる。

「大神だったな。どうだ、ウチに入ってみないか?」

 体操着で百メートル走を終えた俺に、陸上部の部長らしい三年生が声を掛けてきた。

「お前いい線行ってるし、狼の異能混じりって結構貴重なんだよ」

 爽やかな笑顔でそんなことを言ってくる部長に、俺は手で汗を拭いながら曖昧な笑みを浮かべる。

「いや、やっぱ走るってのは、それを専門にやってきた人たちには敵わないっすよ」

 この部の歴代最高記録は、百メートルを四秒台。百メートルをである。

 異能専科の部活において最も異常な点が、全ての部活で異能に関する制限が無いこと。つまり、異能ありきで部活を行うということだ。

 文化系の部活なら大した影響は無いが、運動部において身体能力を向上させる異能の制限が無いというのは、扱える異能によって実力が決定づけられるということでもある。

 狼の異能混じりである俺は確かに速いが、速さだけならもっと速い異能が他にいくらでもいる。

 ちなみに歴代最高記録保持者の人は、あろうことかゴキブリの異能生物と混じっていたらしい。

 やんわりと入部を断る俺に、部長さんは「そうか……」と残念そうに笑った。

 なにも部内でトップになりたい訳ではないし、異能専科の生徒は公式な記録を残すことも出来ないので大会に出る意味もあまりない。

 だからこそ好きなことを、やりたいことを趣味の延長線上でやるのが、異能専科の部活なのだ。

 その点、今日体験した陸上部はダメだ。絶対にダメだ。

(大会も何もないのに練習だけは毎日あるとか、嫌過ぎる……)

 分かっていた事だが、大会に出られないというのにここの人たちはみんな真面目に練習し、自分の記録を伸ばそうとしている。

 俺は、楽な部を探しているのである。


この文字数でならテンポよく毎日アップできそうです。

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