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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
行楽編
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行楽編42 ヘルの能力

「ヘルの有する能力はいくつかあるが、最も厄介なのはやはり触れたモノを腐らせる左半身だろう。有効対象は人体は元より、経年劣化する物体全てに適応されると思った方がいい」

「物体全てって、金属とかでもか?」

 ロキの説明に、俺は怪訝に問い掛ける。

 腐敗はあくまでも腐敗。バクテリアに分解されることのない無機物が腐るなんて、あまり考えられないが。

「酸化も腐敗の一種だと言えばイメージが湧くかな?」

「えっと、錆びるってことか?」

 俺の答えにロキは頷いた。

 なるほど、錆は言うなれば金属の腐食。刀や異能具を突き立てても、錆びてボロボロになっちまうってことか。

「つまり攻撃を当てるには、手足か武器を使い捨てにするつもりでなきゃいけないってことか……」

「確かにそれなら多少のダメージは与えられるだろうが、お勧めはしない。あの子の腐食は強弱がつけられる。その気になれば触れたそばから崩れるように腐らせることも可能だ」

「なんだよそれ……」

 そうなれば異能具は使えなくなるし、下手をすればこっちの腕が腐るってことか。トシのエアガンに入っているBB弾も生体分解プラスチックと言っていたし、これは厄介にも程がある。

「と言っても、君にはヘルの腐食は効かない。打開する可能性があるとすれば、そこだろう」

 そういやそうだった。俺には何故か、ヘルの腐食は効かないんだった。

「何で俺には効かないんだ? やっぱり、同じようにお前から生まれたってのが関係してるのか?」

「そうだね。万一のことを考えて、私は自分の子ども達の能力を互いに不可侵に設定した。ヘルの腐食やヨルムンガンドの毒は、私の子ども達には効果が無い。かつての戦いでは仲違いすることはなかったから、記録には残っていないが」

「なるほど……」

 そうなると、やっぱりヘルは俺が戦うべき相手だ。他の誰でもない、俺だけがヘルとまともに戦える。

「まあ、腐食が効かないのは君の肉体だけだから、必然的に攻撃手段は殴る蹴るのみになるがね」

「嫌な絵面だな……」

 半分腐ってるとはいえ、一応性別は女。しかも俺のことを兄と呼ぶ相手に対して殴る蹴るって。

「しかも服は朽ちるから、勝っても君は全裸になっているかもね」

 楽しそうに笑うロキ。何も面白くねえよ、そんな緊張感に欠ける姿。

「腐食のことは分かった。他の力についても教えてくれ。死者を蘇らせるって伝承は本当なのか?」

 ヘルの能力について、北欧神話にはいくつもの伝承がある。その一つ一つについて、できるだけ詳細な情報が欲しい。

「死者の蘇生は不可能だよ。君たちが予想した通り、その伝承は死体を操る能力だ。それもヘルが自分で腐らせて殺した相手に限るし、操作には能力の残滓が必要だからゾンビ映画のように墓地からボコボコ出てくるものでもない。死体使い、ネクロマンサーに近い能力だが、制約は多くて主戦力にたる力じゃない」

 予想した通りって、たたりもっけの事件の翌日俺たちが病院で話してた内容も知ってるのか。マジでプライバシーねえな。

 しかし、いいことが聞けた。

 腐食と死体操作、ヘルの二つの能力は繋がっている。恐らくは、ネコメが腕を落とさざるを得なかったことに関係している。あのときヘルが触れたネコメの腕は、手が離れてからも接触個所から腐敗していった。

 腐食が進んで命を落とした後も、残留する異能で死体を操作できる。逆に言えば腐り切った後の死体、白骨化したあの鬼成りの女のような状態では、操作できないのだろう。

 つまり、事前に大量の死体を用意してゾンビ軍団のようなものを作ることは出来ないってことだ。

「死者の軍勢を率いた、という伝承も、多くの死体が転がっていた戦場での能力行使が誇張されて伝わったものだろう」

 ここまでの話で分かったことは、ヘルの能力の基本はあの腐った半身だということ。つまりヘルは、近寄らなければ怖くない。

 腐食の効かない俺が戦うのはもちろんだが、直接触れずに遠距離から仕留めるというのも有効だろう。この情報は是非とも忘れたくないものだ。

「最後に、一番厄介なのを教えてくれ。三大非干渉に影響できる、あの空間系の能力は何だ?」

 俺は直接見ていないが、ヘルは俺を眠らせた後、何もない空間に出入り口のようなものを作って、あの場から消えたらしい。

 三大非干渉、異能でも介入することのできない三つの概念。命、時間、空間の一つに触れる能力。

 俺は命や時間という概念の絶大さに対して空間の能力というものにピンと来ていなかったが、例えば空間系の能力の代表、フィクションの世界ではよく見る『瞬間移動』という能力を考察するとその恐ろしさが分かる。

 空間を跳躍して移動すると考えればただの便利な能力だが、手に持った武器を相手の体内に移動させたり、相手の体を土の中に埋めてしまうことも可能なはずだ。極端な話、相手を宇宙に移動させてしまえるなら、それだけで簡単に勝負はつく。

 空間系の能力は、紛うことなき絶大な異能。諏訪先輩はヘルの空間移動には絶対にタネがあると言っていたが、実際のところどうなのだろうか。

 ロキは俺の質問に腕を組んで首を捻る。とぼけてる様子じゃなくて、どう説明したものかって感じだ。

「うーん、まずは誤解を解いておきたいのだが、異能で干渉できない対象は三つではなく二つだ。空間という概念は、異能で干渉することができる」

「はあ⁉︎」

 何だその横紙破りは?

 プロの霊官が口を揃えてハッキリと非干渉だと断言した空間系の異能が、こんな簡単に肯定されるとは思わなかったぞ。

「驚くのも無理はない。世界中で現代の異能では空間は非干渉だと言われているし、実際干渉できる者もいないだろう。しかし、歴史を鑑みれば、空間転移の伝承は至る所にある」

「そりゃ、そういう話はどこにでもあるけど……」

 遠野物語の迷い家、浦島太郎の竜宮城、日本だけでもそういった話は山ほどある。

 元になった話がなければ、その手のお伽話は生まれない。

「諏訪彩芽君や、蛍原真彩君、彼女達ほどの魔法使い……いや異能術使いなら、昔なら空間転移の異能術を使うことは可能だっただろう」

 昔なら、諏訪先輩や真彩が、空間転移を使えた?

 それは、どういう意味だ?

「……昔はそういう異能術があって、現代までに失われたってことか?」

 病院で話していた、失われた術。或いは、秘匿された術。

 神話の時代にはそういうものがあったのかと思ったが、ロキは首を振って否定した。

「失われたのは術そのものではない。世界から力が失われたんだ」

「…………はい?」

 唐突に告げられたスケールのデカい話に、俺はアホみたな返しか出来なかった。

「私が生きていた時代と今のこの時代で、世界は大きく様変わりしているんだよ」

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