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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
行楽編
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行楽編番外 二日目

「犠牲者は、円堂、悟志くん、でした」

「うっわー、まじかー。……っと!」

 慌てて口を抑えるトシ。退治した奴は、それきり喋ってはいけないルールだ。

「それじゃあ、トシくん、カードを、公開」

「…………」

 黙って手元のカードを表にするトシ。絵柄は、

「犠牲者は、村人」

 村人のカードだ。

 これは、被害者の中では最善ってことでいいんだよな。トシには悪いが、役職持ちを守れたのは良かった。

 駆け引きが必要なのは、この後だ。

「それじゃあ、二日目の、相談、開始」

 再びタイマーがカウントを開始する。五分、三百秒。あまりにも短い猶予だ。

「さて、占い師と少女は誰だ? 夜に得た情報を公開して欲しい」

 二日目の相談で最初に口を開いたのは、烏丸先輩だった。

 一日目は俺はある意味安全圏にいた。だから臆さずに発言できたが、二日目となってはその効果も薄いだろう。

 誰もが標的になりたくない中で堂々と発言した烏丸先輩は、俺の目には他の人より少し怪しく見える。

「そう言う烏丸さんは、何なんですか? あ、私はもちろん村人ですよ」

 烏丸先輩を訝しんだのは俺だけではなかった。意外にも真彩が少し強気に問う。

「私は村人だ。しかしそうだな、ここで皆の役職を明らかにしておこうか」

 晒し上げるようにしたところで、本当のことを言う訳もない。序盤で正体を明かしてもメリットになることなんてないからな。

 そんなことは烏丸先輩も分かっているだろうが、それでも場を動かすために仕切ってくれている。

「あたしは村人」

「私は村人よ」

「俺は村人だ」

「俺も、村人」

「私も、村人です」

「私も村人」

 八雲、諏訪先輩、鎌倉、石崎、小月、里立が続けて村人を自称する。一日目の俺と退場したトシを含めて、既に村人の数が十人いることになる。

「どう森かよ……」

 こんな村人だらけの人狼があるか、と言いたくなるが、ここでは余程のバカでない限りそう言うだろう。

 占い師にも魔女にも、今名乗り出るメリットは無い。

「モモ、お前はなんだ?」

「ネコメちゃん、なあに?」

 村人を自称する流れに乗らなかった二人、目黒とネコメに、それぞれ普段は仲の良い鎌倉と八雲が質問する。すると二人とも、あからさまに顔を逸らした。

「モモ」

「…………俺、実はさ、占い師なんだよ」

 驚いたことに目黒は、占い師を名乗った。

(どういうつもりだ……?)

 目黒が本当に占い師なら、二日目の段階で正体を明かすメリットは無いに等しい。しかし、人狼の虚言だとした場合、少なくとも一人、本物の占い師には人狼を自白するようなものだ。

「う、嘘です!」

 目黒の答えを聞き、ネコメが声を荒げた。

「占い師は私です! 目黒君は嘘をついています!」

「何言ってんだよ! 俺が占い師だ! 猫柳こそ嘘ついてんだろ!」

「っ!」

 言い合いを始める目黒とネコメ。これは、最悪に近い。

 占い師を名乗る者が二人。十中八九、片方は人狼。しかし、どちらが人狼かを見破る術は無い。あるのは占い師本人と、昨夜人狼の動向を見ていた少女だけだ。

「二人とも、ちょっとストップ。言い合いしてて時間切れなんて、一番ヤバいじゃん」

「そうよ。水掛け論になっても答えは出せないわ」

 諏訪先輩と八雲が揃って制止すると、二人は言い合いをやめてくれた。

 さてと、どうしたものか。

 嘘の下手なネコメにこんな高度な駆け引きは無理、と目黒を疑うのは簡単だが、そんなことは目黒も分かっているだろう。村人を名乗らなかったのがネコメと目黒だった時点で、ネコメに疑惑をかけるのはリスクが高い。

 そうなると逆にネコメが怪しく思えるが、ネコメが嘘をつくのが下手なのは変わっていない。

 二日目の相談、動きはあったが、八方塞がりだ。

 黙っていても時間が過ぎるだけ。困ったところで、小月が手を上げた。

「あの、昨日の兄さんの案をもう一度使うのはどうですか?」

「昨日の大神の案? 処刑を回避するということかい?」

「はい。この状況では目黒さんと猫柳さん、どちらを疑っても人狼に有利だと思うんです。お二人のどちらかが人狼なら、人狼は残りの一人が占い師だと既に分かっているはずですから。そうなると、投票して占い師の人を処刑してしまっては、人狼は今夜もう一人退場させることができます」

「逆に言えば、投票さえしなければ、今夜の人狼の標的は占い師で決まり。翌日には少なくともネコメか目黒、人狼を一人処刑できる。そういうことね」

 諏訪先輩の確認に小月が頷く。

 占い師という有効なカードを捨てることになるが、確実に人狼を一人削れる。

 なるほど、これはかなり有効な手だ。

「それを見越して人狼が占い師以外を襲う可能性もあるが、その場合占い師は残る。どちらにしても、今のところ被害を最小限に抑えるには、最善の案だな」

 烏丸先輩も頷く。

 小月は人狼の経験はないと言っていた。咄嗟にこの案を思いついたのなら、我が妹ながら優秀な子だ。

「ちょい待った! それって占い師、俺がほぼ確実に死んじゃうじゃん! 他の案ないの?」

 小月の案に物申したのは、他でもない目黒だった。

 自分の安全を主張する発言だが、どうにも怪しい。

「じゃあモモ、お前昨夜、誰を占ったんだ?」

「え?」

「占い師なら、当然誰かを占ったんだろ? 誰が、何だった? 役職までは言わなくていいから、人狼か村人側かだけ教えてくれよ」

「……占ったのは、大神の妹ちゃん。村人側だったよ」

(当てずっぽうだな)

 直感だが、そう確信する。

 会話の中で小月が人狼ではないと思ったのだろうが、今の間は確実に含みがある。何より、友人の鎌倉や石崎、ゲーム経験者の諏訪先輩ならともかく、特に接点のない小月をわざわざ占う理由は無い。

「ネコメは昨夜、誰を占った?」

「八雲ちゃんです。村人側でした」

 対してネコメは、スムーズに答えてくれた。

 仲の良い八雲が敵か味方か知りたいのは自然なことだし、東雲八雲という人物の強かさを知っていれば、敵に回したくないと思うだろう。

(決まりだな)

 目黒は人狼で濃厚。ネコメを嵌めようとして、失敗したってことだ。

「それじゃあ、本物の占い師には今夜誰を占ってもらう? 当然昨夜とは違うやつだよな?」

「でも、お兄ちゃん、占い師さんは今夜人狼さんに……」

「それは問題無いだろう。村人にはまだ、魔女がいる。占い師の候補は絞れたのだから、今夜襲われるのはほぼ間違いなくどちらかだ。ブラフで違う人物を襲うなら、翌日以降でもいい。どちらにしても、占い師が生き残るターンが増えれば村人に有利だ」

 俺も烏丸先輩と同意見だ。人狼に占い師が襲われても、魔女の蘇生薬で最低でももう一ターンは占いを行える。確実にもう一人、正体を知ることができる。

 今夜起こり得るパターンは三つ。ネコメが襲われるか、目黒が襲われるか、他の誰かが襲われるか。

「じゃあ、魔女にはネコメか目黒が襲われた場合のみ薬を使ってもらうでいいな?」

 今日処刑を行わなければ、明日の投票で確実に人狼を一人消せる。そうなれば人数的には二対八。しかももう一人は確実に占いで敵味方の判別がつく。

 俄然有利だ。

「待って待って! でもそれじゃあ……!」

 八雲が何か言おうとしたところで、マシュマロのケータイが時間を告げる。昼間の相談、終了だ。

「時間に、なりました。投票、します。せーの」

 ここの投票では、当然処刑は行われない。

 そして夜の被害者、占い師は魔女が蘇生する。

 人狼ゲームでは珍しく、被害者ゼロでターンを進められる。そう思っていた。

 しかし、その予定調和を乱す者がいた。

「え?」

 相談後の発言は禁止にも関わらず、思わず声を出してしまった。

 それだけ、その状況が予想外だったからだ。

「最多、得票数は、二票で」

 皆が自分の右側を指さす中で、一人だけ全く違う方を指さしていた。

「ネコちゃんを、処刑、します」

 指されているのはネコメ。

 指しているのは、小月。

 ネコメは黙ってカードを表にし、そこに描かれている絵を見てマシュマロが告げる。

「ネコちゃんは、占い師、でした」

 驚愕する皆に、小月は悪戯っぽく笑った。 

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