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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
行楽編
227/246

行楽編番外 一日目

 改めて配られたカードを確認すると、今度は村人側だった。

 一番数の多い村人だが、考えてみれば枚数は十二枚中四枚。実際は人狼か役職持ちになる確率の方が高いんだな。

「それじゃあ、目を、閉じて」

 進行役のマシュマロに従い目を閉じる。

 先ほど同様に人狼の確認とキューピッドによる恋人の指定、そして、恋人同士の確認が行われる。幸い俺は今回も恋人には選ばれなかった。

「それじゃあ、相談、スタート」

 マシュマロの合図と操作で、ケータイが五分のカウントを始める。

「えっとだな……」

 俺は、今回は積極的に動くことにした。

 率先して喋るやつは良くも悪くも目立ち、投票の標的にされ易いと思う。しかし、俺は先ほど理不尽な投票でゲームを台無しにする一端を担った。

 激怒したマシュマロを見て、皆が気を引き締めた。

 心理的なブレーキがかかり、再び俺に投票しようという輩は少なくなるだろう。多少動いても大丈夫だと思いたい。

「この状況で何言ってもブラフに聞こえるだろうが、俺は村人だった」

 初めにそう宣言しておく。これからする提案は、あくまでも村人陣営のためのものだというアピールだ。

「さっき諏訪先輩が言ってたけど、このゲームはある程度進まないと絞りようがないよな。序盤が人狼の独壇場なら、偶然に頼るのは効率が悪いと思うんだ」

「どういう意味?」

 先ほどの自分の発言を加味した意見に諏訪先輩が食いついた。この時点では、当然諏訪先輩がどちらかなんて分からない。

「相談して投票しようにも、まだ怪しいやつなんて分かんねえだろ? だったら単純に、ランダムな投票で人狼を処刑できる確率は十二人中三人で、四分の一。二十五パーセントだ」

 ここまでいいよな、とばかりに全員の顔を見渡す。異論がある奴はいないようだ。

「逆に言うと、人狼は放っといても七割以上の確率で処刑されない。だから、一日目から分母を減らすのは得策じゃないと思うんだ」

「それって、処刑をしないってこと?」

 ハッとしたような八雲の言葉。それを聞いて、何人かは息を呑む。

「ああ。全員が時計回りに投票すれば、全員が得票数一票で横並び。処刑はない。これを繰り返せば、脱落するのは人狼に襲われる村人陣営だけ。つまり、どんどん生き残りの中で人狼の確率が上がるんだ」

 当然これにはリスクもある。村人陣営最大の武器である人数を減らすことになるし、恋人や狩人が人狼の標的になれば減るのは一日に一人とは限らない。

 しかし、それ以上のメリットもあると思う。

「何より、うっかり役職持ちを処刑しないで済む。占い師や魔女、少女が活動できるのは夜だけなんだから、その前に戦力を失うのは避けたい」

 俺の考えに、皆は仕切りに頷いた。自分で言うのも何だが、これは悪くないアイデアだと思う。

「輪を乱して違う人に投票すれば、そいつはほぼ人狼で確定ってことね」

「ああ。その場合処刑は行われるが、翌日の投票で確実に人狼を一人削れる」

 諏訪先輩は「いいアイデアね」と納得し、異論を出す者はいない。もっとも、今この場で何か言えばそいつが怪しく見えちまうからな。

「それで、二日目以降なんだが……」

 口を開いた瞬間、マシュマロのケータイから鐘の音が響く。喋り過ぎたみたいだな、時間切れだ。

「そこまで。相談、終了」

「…………」

 相談時間五分というのは、思いの外短い。しかし、言いたいことは大方言えた。

「それじゃあ、投票。せーの」

 マシュマロの合図で全員が一斉に指をさす。自分の右側に座る人を。

 得票数、全員一票。

「同票が、でたので、一日目の、処刑は、ありません。夜に、なります。目を、閉じて」

 予定通り、一日目の処刑を回避した。

 ここからは俺にできることは無い。人狼の時間、そして、占い師と魔女と少女の時間だ。

「人狼は、目を開けて。少女は、バレないように、目を開けて、かまいません」

 少女の能力は覗き見。人狼のやり取りを見ることができる。その代わり、見ていることがバレればその晩の標的になり、即座に退場させられる。

 俯いていては少女が覗き見をしづらいと思った俺は、目を閉じた後も首を動かさないでいた。こうしておけば、人狼は誰が見ているかを判断しきれないだろう。

「人狼の、相談が、終わりました。人狼と、少女、目を閉じて、ください。次に、占い師、目を開けて」

 人狼のやり取りが終わった。次は村人陣営のターンだ。

「正体が、知りたい人、一人を、指名して」

「…………」

 ほんの僅かな衣ずれの音。誰かが誰かを指さし、マシュマロがゆっくり移動する気配。指名された人のカードを見せているのだろう。

 ここで得られる情報は貴重だが、使い方を誤れば明日の夜には占い師が消される。

 もし明日占い師を名乗る奴が現れても、それが真実なのか、人狼の虚言なのかは分からない。分かるのは、その人物が退場したときだけ。

 俺が人狼で占い師を名乗り、本物の占い師も名乗ったとしたら、ソイツを殺すようなことはしない。自分が人狼だと教えるようなものだから。

 占い師の駆け引きは、考えただけで頭が痛くなるほど高度なものが要求される。

「最後に、魔女、目を開けて。今夜の、人狼の、犠牲者は……」

 恐らく指をさすことで、マシュマロは魔女に被害者を教えている。

「蘇生薬、使う?」

「…………」

「毒薬を、誰かに、使う?」

「…………」

 マシュマロと魔女で交わされるやり取り。俺たちがこの結果を知るのは、この後だ。

「……夜が、明けました。全員、目を開けて」

 一日目が、終わった。

 ほとんど流れを確認するための、練習のような一日目。

 それでも、確実に一人減るのがこのゲームだ。

「人狼の犠牲者は……」

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