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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
行楽編
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行楽編34 人狼ゲーム開始

 配られたカードを伏せたまま、俺たちは一定の距離を保って円形に座る。隣のやつの動作をうっかり気取ってしまわないための配慮だ。

「アナログ、ゲームは、マナーと、ルールを、守るの、大事。当然、異能は、禁止。特に、トシくん」

 ゆったりとした動きでトシを指さすマシュマロ。確かに、トシが異能を使ったらこのゲームは一気につまらなくなる。

「分かってますよ」

「ワンちゃん、ネコちゃんも、リルちゃん、火車ちゃんに、聞くの、禁止」

「はい」

「そりゃそうだな。リル、変なこと言うなよ」

『オウ』

「異能、使ったら、フリーズドライ」

「怖っ!」

 アナログゲームはコンピュータがジャッジをしてくれるビデオゲームと違い、出来ること出来ないことを判断するのはプレイヤー同士。

 進行役のマシュマロがいるとはいえ、イカサマをしようと思えば結構出来るだろう。

 だが、それじゃあつまらない。

 これは命懸けの戦闘じゃないんだ。とりあえず勝てばいい、なんて考える奴にゲームをやる資格は無いからな。

「それじゃあ、みんな、カード、確認」

 万一にも隣のやつに見られないように注意しながら、俺たちは一斉に配られたカードを確認する。カードに触れない真彩の分は、進行役のマシュマロが代わりに見せる。

(マジかよ……)

 顔に出ないように注意したが、今は皆んな自分のカードの確認で人の顔を見る余裕はない。と思いたい。

 俺のカードは、パッケージと同じ動物の横顔。いきなり人狼になっちまった。

 人狼の役割はなるべく怪しまれないように振る舞いつつ、村人を全滅させること。言うならば攻撃側。有利だと思う。

 しかし、こういうゲームでのオフェンスは、流れに任せればそこそこ上手くいくディフェンスと違い、よりゲームへの深い理解が必要。な気がする。

 出来れば、より有利にゲームを進められる能力持ちの役職が良かったな。

「それじゃあ、役職、確認。全員、目を閉じて」

 進行役のマシュマロに言われ、俺たちは一斉に目を閉じる。ここから先は、マシュマロの進行に従って動くことになる。

「まず、人狼は、目を、開けて。声は、出さないで」

 そっと目を開ける。衣ずれや空気の流れで気取られることがないように、そっと。

「…………」

「…………」

「…………」

 最悪、と言いたくないが、言ってしまいそうになった。

 人狼は三人。メンバーは俺と、ネコメと鎌倉。

 嘘のつけないネコメと、バカな鎌倉。略してバカま倉。しかも二人とも人狼は未経験。考え得る限り、最も人狼に向いてない二人と同じ陣営になってしまった。

 俺の「うっわ、ハズレじゃん!」という意思が顔に出てしまったのか、鎌倉は「テメェも経験者じゃねえだろ!」とばかりに睨みを効かせ、ネコメは「どうしましょう。嘘をつく役になってしまいました……!」と見るからにテンパっている。

「それじゃあ、人狼の、三人、目を、閉じて」

 焦りを隠しながら目を閉じる。経験者の諏訪先輩もトシも、洞察力がありそうな烏丸先輩も敵方。これ勝ち目あるか?

「次、キューピッド、目を、開けて」

 誰かが目を開けているのだろう。当然、俺にそれを知る術はない。

「それじゃあ、恋人を、二人、指名、して」

 恋人。厄介な縛りをつけられる役割。頼むから俺を指名しないでくれよ、と誰だか分からないキューピッドに願う。

「指名、された、二人、合図、するので、目を、開けて、お互いを、確認」

 合図とは何を指すのか分からない。マシュマロがそっと立って肩でも叩くのか、異能で何かするのか。とにかく、俺に合図とやらは来ない。恋人には指名されなかったってことだな。

 前準備として互いを確認するのは、人狼とキューピッドに指名された恋人だけ。

「準備、終わり。全員、目を、開けて」

 騙し合い。謀り合い。

 人狼ゲームの始まりだ。

「昼間の、相談時間、五分。人狼、ゲーム、開始」

 マシュマロがケータイのタイマーをセットする。このタイマーが鳴れば、怪しい奴を投票で決める。

 人狼の俺は、まずは自分が怪しいと思われないように振る舞わないと。

「さてと、それじゃあ相談を始めましょうか」

 最初に口を開いたのは諏訪先輩。経験があるだけあって、相談にアクティブだ。

 目立つことで疑いをかけられないためか、諏訪先輩の発言を聞いても口を開く者はいない。

(チャンスか?)

 今発言をすれば、無用な疑いをかけられずに済むかも知れない。『人狼なら皆が黙っている中で発言するような目立つマネはしない』という心理を逆手に取る。

 当然、発言することによって疑われる可能性もあるが、恐らくそれは半々だろう。

 あとは俺を疑うやつだけを、さりげなく消せばいい。

「えっと、とりあえず俺は人狼やったことないから、まず何すればいいのか教えてくれるか?」

 できるだけさりげなく、経験のある諏訪先輩とトシに向けて問いかける。

「何すればっつっても、こういうのは喋り過ぎても喋らなくても疑われるんじゃねえか?」

「そんな気がするな」

 俺が口を開いて場が喋り易い雰囲気になったのか、石崎と目黒が率先して発言する。

 里立や真彩はその発言に頷くが、迂闊に喋ろうとはしない。

「まずは投票の相談、と言いたいところだけど、正直序盤は人狼側の独壇場だからね。少し人数が減るまでは流れに任せるしかないと思うわよ」

「ソ、ソンナ。ヒガイシャ、デルマエ、ニ、オオカミサンヲ……」

 ネコメ、人狼、向いてねえ!

 カタコトで違和感バリッバリ。ほぼ全員が「あ、ネコメ人狼だ」と確信してしまった気がする。嘘下手過ぎだろう。

「…………」

「…………」

 あっけに取られる俺と鎌倉。

 これは、残酷な選択が必要な場面かもな。

 ネコメは怪しい。俺が人狼で正体を知っていることを抜きにしても、今この場で一番怪しいのはネコメだ。

 人狼同士がお互いに投票するのはリスクが高い。仲間を減らしてしまうからだ。

 しかし、今この場でネコメに投票しない方が不自然だ。

 ネコメはこの後の投票で、ほぼ確実に処刑される。

 だったら、俺もあえてネコメに投票することで、俺は人狼ではないと印象付ける方が効果的だろう。

 ネコメは自分の発言以降、空気が変わったのを感じ取ったのか、それからずっと黙っている。これじゃ失敗しちゃった人狼ですって言ってるようなものだ。

 それ以外には特に有効な情報が出ることもなく、五分間の相談時間は終わった。

 マシュマロのケータイから響く、荘厳な鐘のような音。わざわざこんな音をセットするとか、芸が細かい。

「では、せーので、怪しい人、指差して」

 投票は匿名ではなく、皆が見ている前で行われる。だからこそ、俺がネコメに投票することに意味がある。

「せーの……」

 マシュマロの掛け声で一斉に指をさす。

 得票数は、ネコメが二票。俺が十票。

「なんで⁉︎」

 ネコメに投票したのは、俺と同じ考えに至ったらしい鎌倉と俺だけ。それ以外は、ネコメを含めて全員が俺を指さしている。

 鎌倉も理解できないのか、慌てた様子でネコメと俺を交互に見る。ああ、もう、そんな動揺したらバレるじゃん。

「ちょい待った! 何で俺⁉︎ 俺怪しくなかったろ⁉︎」

「だって、大地くんウェアウルフだし」

 さも当然のように言う八雲。その発言に石崎と目黒、あろうことか里立や真彩や小月までそれに頷く。

「そんな決め方あるかぁ⁉︎」

 異能がオオカミだから人狼とか、安直にも程がある。

「つーか何でネコメまで俺に投票してんの⁉︎」

「そ、そうすれば大地君は疑われないと思って……」

 何でそんな気づかいができて嘘が下手なの、ネコメさん⁉︎

「私は、ネコメはいつでも消せるし、むしろ今消さない方が情報が取れると思って」

「私も」

 諏訪先輩と烏丸先輩は何かレベルの高そうな駆け引きでネコメに入れなかったらしい。

「じゃあ何で俺に?」

「オオカミだし」

「ああ、オオカミだし」

「だからそれやめろよ!」

 その法則なら何回やっても俺は最初の投票で消されることになる。そんなつまんないゲームあってたまるか。

「…………みんな、なにしてるの?」

 ヒヤリと、部屋の温度が下がった。

 錯覚ではない。夏の熱帯夜特有の湿った空気が、明らかに冷たくなっている。

「ま、ましろ?」

 皆の視線がマシュマロに集まる。そこには、冷気を纏う氷の化身がいた。

「言った、よね? アナログ、ゲームは、マナー、大事。悪ノリで、進めるの、キライ。鬼の、決まった、鬼ごっこが、面白い?」

 マシュマロは、怒っている。

 ゲームの選択を駆け引きではなく悪ノリで決めたことに、ひどくご立腹だ。

「ご、ごめんなさい、ましろ。私が悪かったわ。もう二度としないから、許して」

「すまなかった。二度とゲームで軽はずみなことはしない」

 真っ先に謝ったのは先輩二人だった。多分だけど、二人はマシュマロと親しい分、その怖い部分もよく知っているのだろう。

「真剣に、やろう? 遊び、なんだよ?」

 遊びは本気でやるから、悔しくて面白い。ぶっちゃけ悪ノリの被害者の俺は面白くも何ともなかった。ただイラッとした。

「し、仕切り直そうな。ちゃんと遊ぼう」

「そうだね」

「ああ……」

 三馬鹿も半ば怯えながらやり直しを提案する。みんなもそれに従い、自分に配られていたカードをマシュマロに集めた。

「ねえ、お兄ちゃん」

「ん?」

 ちょっと引いた様子の真彩と小月が、そっと俺に耳打ちする。

「雪村さんって、怖い人?」

「普段はおっとりしててめちゃくちゃ優しいんだぞ。ただ、誰にでも譲れないものがあるってことだ」

 マシュマロの場合、それがゲームなんだろう。

 マシュマロはアナログゲームが好き。しかし、今はこの通り進行役に徹して、マシュマロ自身は遊んでいない。

 つまり、自分がプレイするよりも、俺たちにプレイしてもらって、その面白さを知って欲しいってことだろう。

 悪ノリで済ますのは、マシュマロに対して不誠実だ。

「じゃあ、やり直し」

 再びカードをシャッフルし、改めて配り直す。

 今度こそ真剣にやろう。

 マシュマロに、マシュマロの好きなアナログゲームに、誠実に。

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