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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
行楽編
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行楽編33 人狼のルール

「それじゃあ、わたしが、進行役、やる。十二人、だから、使う、カードは、村人が、四枚、狩人、一枚、占い師、一枚、魔女、一枚、キューピッド、一枚、少女、一枚、人狼、三枚」

 そう言ってマシュマロは箱から出したカードをシャッフルし、円を描いて座る俺たちに一枚ずつ配る。

「カード、まだ、見ないで。ルールの、説明、する。あやめが」

 お前がじゃないんかい、と思ったが言わない。マシュマロのゆったりしたペースでゲームルールの説明なんかされたら日が暮れる、もとい夜が明ける。

「人狼は『村人』陣営と『人狼』陣営に分かれて、相手の陣営の人数を減らし合うゲームよ。プレイヤーはとある村の村人で、村人に紛れた人食い人狼の正体を暴く」

 指名された諏訪先輩がスムーズにルールを説明する。俺も半端にしか知らないから、しっかり聞いておこう。

「ゲームの流れは、全員で話し合って誰が怪しいかを決める『昼間』と、人狼を含む能力者が活動する『夜』を繰り返す。昼間から夜に変わるタイミングで投票を行い、多数決で一人を処刑する。投票数が同じ人が出た場合、処刑は行われない」

 二人以上が同時に処刑されることはないってことか。今回人狼は三人だから、少なくとも一ターン目で勝負が決まることは無い訳だな。

「夜になったら、能力を持つプレイヤーだけが活動できる。人狼はジェスチャーやアイコンタクトで食い殺す人を決めて、次の朝に進行役が殺された人、つまり脱落者を発表するわ。処刑された人や人狼に殺された人は脱落。それ以降は喋ってはダメ。そうやって処刑と夜襲を繰り返して、相手を全滅させた陣営の勝利よ」

 人狼はお互いが人狼だと分かるってことか。

 諏訪先輩が大まかな説明を終えたところで、八雲が「はーい、質問」と手を上げる。

「村人は一対一だと人狼に勝てないから、人狼と村人が同じ人数になった時点で人狼の勝ちだったと思いますけど?」

「一般的な人狼だと、確かにそうね。でも、ミラーズホロウの人狼だと全滅まで処刑と夜襲を繰り返すの。よっぽどマヌケなミスでもしない限りは同数になった時点で人狼の勝ちだから、あまり意味のない違いだけどね」

 村人と人狼が同数、例えば一対一という状態になれば、投票はお互いを指名して処刑は行われず、その夜に人狼が夜襲して村人の全滅。二対二になった場合でも、人狼はお互いに投票せずに結託して村人のどちらかに二票集めれば、浮動票は村人が持つ二票だけ。人狼一人に票が寄ったとしても、処刑は無い。あとは夜襲で村人を一人減らせば、翌日の投票で村人を全滅させられる。

 そこまで人数が減るほどの終盤なら、お互いの役職なんてあらかた当たりがついている筈だ。

 つまり、人狼と同数まで落ちた時点で、村人に勝ちは無くなる。

 諏訪先輩の言う通り、『人狼が仲間に投票する』みたいな有り得ないレベルのミスをしない限り、勝負は決まりだ。

 当たり前だけど、村人陣営は早急に人狼の正体を暴く必要があるな。

「最後に役職の説明ね。一番多い『村人』は、何の能力も持たない。強いて言えば人数だけが武器。あとは役職を待つ村人陣営のプレイヤーを、ミスリードで守ったりね」

 ミスリードで守る。つまり、占い師や狩人を自称して人狼の標的をただの村人である自分に移すってことか。そうすれば人狼は自称していた役職への警戒を怠るし、本物の役職持ちたちも動き易くなる。

(これは、相当に高度な駆け引きだな……)

 ゲーム初心者の俺では、ちょっとできそうにない。

「次は『人狼』。毎晩一人をゲームから脱落させられるし。唯一お互いの正体を知れるから、結託もしやすい。数は少ないけど、序盤で偶然脱落したりしなければ有利よ」

 偶然の脱落ってのは、投票によるラッキーパンチだな。確かに、三日連続で選ばれて人狼全滅なんてことになれば、最もつまらない展開だろう。

「『狩人』は村人陣営で、能力は死後に発動する。処刑でも夜襲でも、退場してカードが公開されたときに誰か一人を道連れに退場させられる」

 これは、運の要素が強いな。

 もしも一日目の投票や夜襲で退場させられれば、ほとんど情報の無い中で道連れ相手を選ばなければならない。

 なるべく後半、怪しい奴に当たりをつけてから退場していただきたい役職だ。

「『占い師』は最もポピュラーな役職の一つ。村人陣営で、毎晩指名した一人のカードを見ることができる。もっとも、もし人狼を引き当てても、投票前の相談で迂闊なことを言えば……」

 その晩、真っ先に人狼に消される訳だ。更に言えば、占い師を自称する奴の言うことが真実とも限らない。人狼の虚言の可能性もある。

 占い師を自称する奴の真偽が分かるのは、そいつが人狼に殺された後。これも駆け引きが必要な役だな。俺はゴメン被りたい。

「次は『魔女』。唯一二種類の能力を持っているわ。一つが毒薬、夜に一人を指名して退場させる。もう一つが蘇生薬、人狼によって退場した人を蘇生させる。どちらも使えるのはゲーム中一回ずつ。誰にどの薬を使ったかは、翌朝にゲームマスターによって発表される」

 これは、多分『占い師』の次くらいに戦況に影響するキャラだ。村人陣営で生きたまま人狼を脱落させられる能力。しかも蘇生能力まで持ってる。

 占い師と違って正体を知られる心配も少ない。人狼になったら、真っ先に消しておきたいな。

「『キューピッド』は少しややこしい。ゲーム開始時に二人のプレイヤーを『恋人』にできる。自分自身を恋人に含めても構わない。恋人にされた同士はお互いを確認して、通常ルール外の縛りを掛けられる」

 そこまで言って諏訪先輩は、指を立てながら『恋人』のルールを説明する。

「一つ、恋人同士はお互いに投票できない。二つ、恋人はお互いを知ることはできても、役職は知ることができない。三つ、恋人の片方が退場すれば、もう一人は悲しみに暮れ、後を追って退場する。そして四つ、人狼と村人陣営が恋人になった場合、その二人の勝利条件は『恋人同士以外を全滅させること』に変わる。キューピッドは役職を知らずに恋人を指名するから、この状況を意図的に作り出すことはできない」

「や、ややこしい……」

 聞いただけで頭の痛くなる複雑さだ。

 とりあえず恋人同士は、お互いのことだけを考えることになるって認識しておこう。

 できればキューピッドには、俺を恋人に指名して欲しく無いな。こんがらがる。

「最後に『少女』。これは村人の切り札とも言える能力よ。夜に行われる人狼の夜襲、その相談中に、薄目を開けて様子を盗み見ることができる。つまり、最初の夜から人狼全員の正体を知ることができるわ」

「っ⁉︎」

 破格の能力だな、それは。

 一人で一気に村人陣営を勝利に導ける、圧倒的な能力だ。

「ただし、見ていることが人狼にバレた瞬間、少女がその夜の標的になる。あまりガン見し過ぎれば、即座に退場するってことよ」

「まあ、そのくらいのリスクは当然だわな」

 一人でゲームを支配できる能力。これは正直、どちらの陣営にとっても厄介だ。人狼側は元より、村人にとってもバランスブレイカー。早めに退場してくれた方が、ゲームとしては面白いかも知れない。

「ありがと、あやめ。ルールは、以上。なにか、質問、ある?」

 全く説明はしなかった癖に仕切るマシュマロ。俺は気になっていた点を聞くために手を上げる。

「はい、ワンちゃん」

「魔女が蘇生させたのが狩人だった場合、どうなるんだ? 狩人の能力を二度使えるのか?」

 退場した狩人を魔女で蘇生、そうすれば狩人は二人倒せる。カードゲームでいうコンボのようなことができると思うのだが。

「魔女が蘇生させられるのは、その夜に人狼に襲われた人だけ。魔女が行動するのは夜、人狼ターンの後。人狼に襲われた人のカードが公開されるのは、翌朝。つまり、狩人を狩人と知って蘇生することはできないわ」

 仕切っていたのはマシュマロなのに、質問に答えたのは諏訪先輩だった。

「えっと、いいですか?」

「はい、ネコちゃん」

「根本的な質問なんですけど、これって嘘をついてもいいんですよね?」

 当たり前だろう。ある意味騙し合いのゲームだぞ。

「ネコちゃん、素直。でも、ゲームでは、嘘、つかなきゃ、だめ」

「そうですか……」

 ネコメの顔は浮かない。嘘をつけない奴だし、ゲームとはいえ仲間を騙すには抵抗があるんだろう。

(……カモだな)

 場に揃った何人かの心の声が一致した。

 残酷だが、ゲームは真剣にやるから面白いのだ。

 ネコメとは是非とも、違う陣営になりたいものだ。

「質問、ないなら、はじめよっか」

 普段表情に乏しいマシュマロが、ニヤリと笑う。

 駆け引きが重要なアナログゲーム。夏休みの旅行の夜には、テレビゲームより相応しいかも知れない。

 楽しい謀り合いの始まりだ。

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