表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
行楽編
224/246

行楽編32 楽しい夜

 山水館自慢の広い温泉で移動と予想外の戦闘の疲れを癒し、海の幸山の幸満載の美味しい夕食を食べた後、気を利かせてくれた女将さんの計らいで休みを貰った鎌倉と目黒、そして最後の三馬鹿である石崎が合流した。

「へー、そんなことあったのか……」

「大変だったんだぞ。まあ、俺様の活躍で万事解決したがな」

 石崎は目黒と同じ小学校の出身。実家はこの近くで漁師をやっており、山水館の食事に出てくる新鮮な魚はその多くが石崎の親父さんが卸しているものらしい。

 夏休みの間はずっと親父さんの手伝いをしていたが、俺たちが泊まりに来るということで休みをもらったとのことだ。

「たまたま相性が良かっただけだろ。実戦足りてねえ半素人が」

「三ヶ月前までパンピーだったやつに言われたくねえんだよコラ!」

「私から言わせれば似たり寄ったりだ。レベルの低いケンカをするな。おっと、また私が一位だな」

 俺たちは夕食後の時間を、今日の顛末を話しながら男子部屋でゲームをしつつ過ごしていた。

 トシが持ち込んだスマブラはコントローラーのが四つなので四人対戦。負け抜けで、下位二人は時間潰しに部屋にあった将棋盤で挟み将棋をやっている。

 持ち主のトシは当然そこそこ強いのだが、意外にも烏丸先輩が超強い。諏訪先輩が結構やり込んでて、よくその相手をしているらしい。二人とも意外と暇してんじゃねえか。

「先輩、アイテム有りにしましょうよ。あとステージも、戦場と終点は飽きました」

「実力では勝てないから道具と環境に頼るのか?」

「異能者だって異能具使うし、地の利を活かすのは当然でしょう。それとも先輩、平地でヨーイドンが無いと戦えないんですか?」

「よくぞ言ったな。覚悟しておけ」

 スマブラは実質トシと烏丸先輩しかゲームにならない。八対ニで烏丸先輩が好成績。ゲーム経験があまりない俺と三馬鹿で下位をぐるぐる持ち回り。ネットで評価の高い強キャラがあっさり吹っ飛ばされる光景にも、と金で歩を追っかけるのにも飽き始めた頃、

「やほー。遊び来たよー」

 バーンと襖を開け、八雲を筆頭に女性陣が現れた。

「やっぱり旅行の夜は男子女子どっちかの部屋に集まって盛り上がるモンでしょう!」

 修学旅行かよ。しかもそれはどっちかと言うと男がやることだからな。

「お邪魔します」

「あら、スマブラ やってるじゃない」

「あやめ、今日は、こっち」

 ぞろぞろと部屋に突入してくる女性陣。それぞれ手のには売店で売ってた菓子や飲み物、マシュマロは大小様々な派手なデザインの箱を抱えている。

 最後に入ってきた小月の腕には、すっかりぬいぐるみポジションのリルと火車。ずっとケージにも入れないでいるけど、いいのかな旅館内で。

 いきなり人口密度が増えた部屋。仕方なくちゃぶ台を壁に立てかけ、まだ敷かれていなかった布団を目黒が引っ張り出して座れるスペースを作る。

 率先して八雲が布団の上に座り、ネコメに持たせていた菓子の袋を次々と開ける。

「さてと、好きな子の話しよっか」

「そういうのは男女別でやるもんだ」

 この人数ではゲームができないので、スマブラも挟み将棋も中断して皆で円を描くように座る。

「で、何しに来たんだ?」

 恋バナなんてゴメンだし、小月も入れて小難しい異能の話をする訳もない。明らかに遊びに来た感じだし、何をするつもりなのか。

「これ、やろう。みんなで」

 そう言ってマシュマロが畳の上に置いたのは、抱えていたいくつもの箱。描かれているデザインは派手なものが多く、パッケージの文字には日本語の翻訳もあるが、その多くに英語ではない言語で書かれている。

「ボードゲームか?」

「正解」

 駒やボードを使うデカいものから、手のひらサイズのカードゲームまで。マシュマロが持ち込んだのは、いくつものアナログゲームだった。

「雪村先輩、アナログゲーム好きなんすか?」

「うん。なにを、隠そう、わたしは、アナログ、ゲーム部、副部長」

 隠していたのかは知らないが、意外だ。マシュマロにはあまりゲームのイメージはない。

「デジタル、ゲームは、動きが、早くて、苦手」

 ああ、それは分かる。マシュマロはスマブラみたいなアクションの速いゲームにはついていけなさそうだ。

「アナログ、ゲームは、人数、いないと、できないの、多い。せっかく、だから、やろう」

 マシュマロの言う通り、箱を見るとどれも四人以上とか書かれているな。二人からのやつもあるが、こういうのは適正人数でやった方が面白く作られているものだ。

 この場には十二人、真彩を含めれば十三人もいる。大抵のゲームの適正人数は満たしているだろう。

「面白そうだな。俺はこういうのあんまりやったことないんだけど」

「俺は少しあるぜ。中学の時に人狼が流行った」

 トシの言葉にちょっとショックを受ける。同じクラスだったのに、俺は中学時代にこんなのやってない。

「あたしはもちょっとだけやったことあるよ」

「私もあるわ」

 経験者はマシュマロとトシ、八雲と諏訪先輩。あとは素人っぽいな。

「じゃあ、ベターに、これを、やろう」

 そう言ってマシュマロが選んだものは、なんだか不気味な動物っぽい顔が描かれた小さな箱。日本語訳は書いてない。

「『ミラーズホロウの人狼』。人狼の、中でも、古い、やつ」

「人狼って種類あるのか?」

 人狼ゲーム。一時期大流行りした、アナログゲームブームの先駆者ともいえるゲームだ。

 プレイヤーは村人陣営と人狼に分かれて、処刑と夜襲でお互いの人数を減らし合う。そんなゲームだったと思う。

「色々、ある。これの、特徴は、オープン、ルール。脱落した、プレイヤーの、役職を、公開、する」

 よく知らないが、他の人狼だと公開しないのか。それは戦略性が変わるんだろうな。

「よく分からんが、面白そうだな。やってみるか」

 どうやらみんな異論は無いようだし、人狼大会の始まりだ。

 旅行の楽しい夜は、まだまだこれかららしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ