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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
行楽編
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行楽編20 趣味全開

 マシュマロ、雪村ましろ。

 黒川さんの家にいたマシュマロは、夏休みの初め頃自室に篭り同人誌を描いていた。

 俺とトシと烏丸先輩をモデルにした、BL同人誌を。

 そんな人がコミケの時期に東京(正確にはここは埼玉だが)に来て何をするつもりなのか。

 そんなのは決まっている。同人誌を出すんだ。俺たちをモデルにした、あられもない姿を勝手に妄想した同人誌を。

「ましろ、首尾はどう?」

「ばっちり、サイズも、ピッタリ」

 マシュマロの実家で会ったときには鬼気迫るといった様子で正直怖かったが、今は普段通りのおっとりしたマシュマロ先輩だ。

「……八雲、お前俺に何させるつもりだ?」

 誤魔化すかと思ったが、事ここに至ってもう秘密にすることはないと考えたのか、八雲はニヤリと笑う。

 八雲はマシュマロがここにいるという情報をあえて伏せていた。間違いなく黒川さんとマシュマロと八雲はグル。宿代は体で払わせるとか物騒なことを言っていたし、俺に、俺が嫌がるであろう何かをさせるつもりだ。

「大神君、私はね……」

 俺の疑問に答えたのは、黒川さんだった。

「私はましろみたいに自分でクリエイトするタイプのオタクじゃない。かと言って、八雲みたいに消費者側で完全に満足できるタイプでもない」

 玄関からゆっくりと廊下を進み、一つの部屋のドアを開ける。一人暮らしには明らかに不相応なほどに広い家。どうやら部屋数も結構多そうだ。

 開けられたドアは、服屋のように大量の服がかけられていた。それも普段着とは思えない奇抜な服が目立つ。

 そこにいた誰か、部屋の中でうずくまっていた金髪の女の子の両脇に腕を差し込み、自慢するように俺に見せつけてくる。

「ひゃわ⁉︎」

 等身大の人形かとも思ったが、違う。可愛らしい悲鳴をあげたのは、可愛い女の子だ。

 おでこを見せつけるように左右に分けられた、腰辺りまである長い金髪。頭には黒とオレンジのリボンが無数についている。

 クリッとした青い瞳には何故か涙を溜めている。

 頭にあるのと同じリボンがいくつもあしらわれたふわふわの生地のセーター(のようなもの)は、真夏だというのに長袖で、袖の先がキュッと絞られていて手が出ていない。暑そうだ。

 下半身は、ドロワーズというやつだろうか? 白いモコモコした、太ももの半分くらいらまでの丈の見慣れないズボン。

 見れば見るほど人形のようだが、この匂いは……

「なにしてんだ、ネコメ……」

「だ、大地君……」

 俺の友人、猫柳瞳に違いない。

「きゃっわいいー! ネコメちゃんのアビー、完成度高杉ぃ!」

 バッと部屋に駆け込んだ八雲が黒川さんの腕からネコメをひったくる。そのまま激しく頬擦りし、「あう、あう……」と戸惑うネコメをペッタペタ触りまくる。

「きゃわいいよぉ……! ネコメちゃんアビー、ちょおきゃわいいよぉ……。触手でぬらぬらになってぇ……」

 八雲はネコメの首筋や服の裾に手を突っ込み、もぞもぞと怪しくまさぐる。

 荒い息遣いに高揚した頬、歪む口元に正気を失った目。その様子はどう見ても性犯罪者のそれだ。

「ひぃ……⁉︎」

 怯えるネコメを再び黒川さんが抱き寄せ、棚から取ったテディベアを持たせる。

「いや、我ながらよく出来たわ。ほら、ちゃんとユーゴを抱いてね。あとこれも被って」

「あ、あの……」

 荒い八雲とは違い、黒川さんは優しくネコメを撫でてから頭にハット帽を乗せる。一見優しそうだが、目の奥に八雲と同質の狂気が宿っているのを俺は見逃さない。

「ちょっと待てって!」

 ヤバいテンションになっている二人からネコメを救出し、背後に匿う。何なんだ一体。

「ちょっと大神君、乱暴にしないでよ。それ作るのすっごい大変だったんだから」

 やっぱりネコメのこの服、というよりこの部屋にある服は全部黒川さんのお手製か。なかなか売ってないもんな、こんな奇抜な服。

「服のことはともかく、何でネコメがこんな人形みたいな格好させられてるのか説明を……」

「可愛いでしょう⁉︎ 似合うでしょう⁉︎」

 堂々と言い切る黒川さん。隣で八雲もうんうんと頷く。

「いや、可愛いけど……」

 そうじゃなくて、説明を求めているのだが。

 未だに状況が飲み込めない俺に、背後から誰かがくいくいとシャツを引っ張る。振り向くとそこには、薄紫色の髪の、ショートヘアの女の子がいた。

 黒いインナースカートに白い長袖のパーカー。赤いネクタイと黒いタイツ。縁のないメガネの奥の瞳でジッと俺を見つめてくる。

「せーんぱい」

「……先輩はお前だろ、マシュマロ」

 いつの間に着替えたのか、それはマシュマロだった。

「そんで俺は、コレね」

 言いながらトシが頭から被ったのは、カラス?

 目が赤く光る、不気味なカラスの被り物だ。

「ごめんね、円堂君。ほんとはロビンをやってもらうつもりだったんだけど、アビーとサンソンが大変で」

「全然いいっすよ。コレ楽だし」

 巨大なカラス頭と平然と会話する黒川さん。シュールだ。

「それで、大地くんはコレ!」

 ウキウキとした様子の八雲が掛けられた衣装の中から引っ張り出してきたのは、白い長袖の襟詰め。学ランとは違うみたいだが、とりあえず普段着には見えない。

 コレを着ろってことか?

「つまり、これは……」

 いわゆる、コスプレ。

「明日はコスプレ参加だよ! 大地くんには先輩のブースで売り子もしてもらうから!」

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