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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
行楽編
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行楽編11 異能の原理

 二品目は具のないスープ。コンソメスープっぽいが、やけに美味かった。

「この手の料理ってのは食べた気がしないね」

 スープを飲み干してため息を吐く大崎さん。俺も同感だ。順番にちょっとずつ食ってたんじゃ、腹も膨れたんだか分からない。

「それで隠さん、さっきの相互変換ってのが、どう異能と絡むんだ?」

 紙ナプキンで口を拭い、俺は再び話を聞く姿勢を取る。大崎さんは「まだ話すのかい?」なんて顔をしかめるが、俺は聞きたい。

 異能の原理。さっき隠さんが言った相互変換、錬金術が、どう異能と交わるのか。

「そうですね……。君はウェアウルフ、異能を使えば狼の耳や尻尾が発現するタイプでしたね?」

 隠さんの問いに頷く。フェンリルのことは秘密にされているみたいだが、生きた異能生物との異能混じりってことや、ウェアウルフのことは周知の事実っぽいからな。

「君が狼の耳を得る時、君の本来の耳、人間のそれは消える。これは動物系の異能混じりには多く見られる特徴の一つです」

「ああ、確かに……」

 俺やネコメ、鎌倉といった動物系の異能混じりは、見た目の特徴が耳や尻尾に出やすい。鎌倉に至ってはピアスまでイタチの耳にくっついてたくらいだ。

「その耳には感覚があり、機能する。つまり飾りではありません。異能混じりの体の一部は、異能の干渉によって変換されているのです。構成する元素は同じ生き物である以上大差無いかも知れませんが、大きさはどうですか?」

「大きさ……」

 確かに、異能を使って出た狼の耳は、普段の俺の人間の耳より遥かに大きい。

 鎌倉はどうだったか知らないが、ネコメも明らかに異能を使っているときのネコミミの方がデカい。

「変換の前後で大きさが違う。それは質量保存の法則に反しています。耳を分解し、獣の耳として再構成するなら、そこに質量の差があるはずがない。つまりその耳は、異能のエネルギーによって肉付けされた、エネルギーの物質化とでも言うべきものです。これは気体から貴金属を造る相互変換に通じるものがあると思いませんか?」

「それは、確かに……」

 耳だけでなく、尻尾が生えるならその分の体積、質量が増えていることになる。

 増えた質量がどこから来たものかって話になるんだが……

「でも、俺の場合は異能を使うときにリルと融合するんだ。それはどういう理屈で……」

「それこそが! あなた達の在り方こそが! 異能粒子の存在の証明になり得るのです!」

「っ⁉︎」

 急に身を乗り出して大声を出され、俺は思わず硬直してしまう。いきなりテンションマックスだぞこの人。

「うるっさいんだよ!」

 大崎さんの叱咤に「失礼」と居ずまいを正し、隠さんは再び口を開いた。

「質量保存の法則に則れば、あなたの体重は異能の発現中、狼さんとの合計になるはずです。それはご自身の感覚的にはいかがですか?」

「うーん、異能を使ってる間は筋力も上がるから、体が多少重くなっても感じないと思いますけど……」

「それもまたおかしいのです。筋力というのは数字で表すことができるのですが、その計算上で重要になるのは筋肉の太さになります。あなたは異能の発現中、腕や足が太くなりますか?」

「それは、ならないです……」

 筋力は数字で表せる、それは聞いたことがある。細かい式は忘れたが、当然だが太い方が筋力は高い。

 チラリと隣を伺い、先程地下駐車場で見た大崎さんの異能を思い出す。

 筋肉の膨張に伴う、筋力の増加。あれが最も分かりやすい例だ。

 対して俺は、見た目の変化なんかほとんど無いのに、異能を使うことで明らかに筋力が増している。

「見た目、更には物理法則とも反する力。それらを可能にするのが『異能粒子』であると私は考えます。つまり……」

 ダァンッ! 唐突に、大崎さんがテーブルを殴った。

「いい加減にしな。今日ここに来たのはお前の研究の発表会のためじゃないんだ。ボウズが話を聞きたいのは分かったから、端的に結論だけ言いな」

 額に青筋を浮かべ、大崎さんは低い声でそう言った。ずっとイライラしてたのか。気ぃ短そうだもんな、この人。

 隠さんは残念そうに唇を尖らせ、「分かりましたよ」と渋々肩をすくめた。

「我々異能者が異能のエネルギーと呼ぶもの。異能場の光や異能混じりを生む異能の残滓。それこそが『異能粒子』です。異能粒子は人間のDNAに変質を起こし、本来人間が持っている異能の才能を開花させるのです。これは異能使いが訓練次第で異能術を扱えることから、再現性が確立されるでしょう」

「誰でも異能者になれるってことですか?」

「才能によるところは大きいでしょうがね。人間のDNAは、未だ解明されていない未知の情報が大半を占めています。その『何のためにあるのか分からない遺伝子』の中に、異能粒子を感じ取れるようになる情報が含まれているのでしょう。それが異能者が異能者を知覚できる所以です。まあ、異能使いの中には自身から溢れる異能を完全にシャットダウンできる使い手もいますが」

 そう言って隠さんは大崎さんに視線を向けた。

(大崎さんのコレは、そういうカラクリか……)

 異能者特有の気配を感じさせない大崎さん。俺は異能を使われるまで、大崎さんが異能者であると認識出来なかった。それは大崎さんが暗部や大日異能軍のような気配遮断の異能具を使っていたのではなく、純粋な技量によるものだったのか。

「異能者は、粒子によって生まれる、か……」

 衝撃的な話だった。

 オカルト、ファンタジーの領分だと思っていた異能が、科学的に解明できる現象である。そんなこと思いもしなかった。

「結果があり、再現性がある。そしてそこへ至るまでの道筋さえ証明できるなら、全て科学です。科学で説明のつかないことはありませんよ」

 そう言って自慢げに笑う隠さん。この人はいずれ、異能のメカニズムの、その全てを解明してしまうのかも知れない。

 この人にとって異能とは、オカルトでもファンタジーでもない。ただの学問の一つなんだ。

 異能学の探究者、隠貫太郎。こんな支部長もいるんだな。

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