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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
行楽編
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行楽編2 旅の目的

 新幹線では二人掛けの指定席を二列取り、座席を回して四人で向かい合う。

 晩飯にはまだ少し早い気もするが、俺は小月が作ってくれたおにぎり、他の三人は駅構内のコンビニで買ったサンドイッチやらで軽食を摂ることにした。

「あ、大地くん、その唐揚げ一個ちょーだい」

「ん、いいぞ」

 小月が作ってくれたおかずは唐揚げと温野菜のサラダ。ビニールには小さいマヨネーズが添えてあった。この暑い時期に揚げ物をやってくれるとは、ありがたい。

『ダイチ、ボクのは?』

「はいはい」

 座席の下に置いたリル入りのケージをそっと開けてバッグから出しておいたカリカリを流し込む。雑だが、新幹線の中でリルを出すわけにもいかないので我慢してもらおう。

「そういやネコメ、火車は?」

 先日のたたりもっけのときは幽霊の真彩と相性が悪くてお留守番していたが、霊官の仕事に異能生物である火車を置いて行くとは思えない。しかし、ネコメはケージのようなものは持っていないように見える。

「火車さんはケージがお気に召さないみたいで、リュックの中で眠っています」

 そう言って座席の下に置いたリュックを開けると、中では火車が丸まって寝ていた。専用の入れ物に入れないで新幹線に動物連れ込んでいいのかな……。

「私が命令すれば大人しくしてくれるので、大丈夫だとは思うのですけど……」

 不安そうに笑うネコメ。動物に対して命令できるネコメだけど、あんまりしたがらないんだよな。

「まあ今日のホテルはペットの連れ込みできるとこだから、リルちゃんも火車ちゃんも窮屈なのは今だけ我慢してもらうとして……」

 サンドイッチを食べ終えて指についたソースを舐めとる八雲は、ゴミを手早くコンビニ袋に詰めるとポケットからメモ帳を取り出した。

「今後の予定を伝えとくよ。まず今日は東京駅の近くにあるホテルで一泊。明日は四時半起きだから、早目に寝ること」

「四時半? 随分早いな……」

 そんな暗いうちから動くなんてシンドそうだ。そんなに集合が早いのか、それとも集合場所がホテルから遠いのか。

「ホントは会場近くに泊まれればよかったんだけど、前乗りは予定に無かったし、急でホテルが取れなかったんだよ」

「それなら寝ないで動いた方が肉体的には楽じゃないか?」

 異能者になって結構経つが、肉体面での不調は一般人だった頃より遥かに軽い。体を動かすためのエネルギーさえ取れれば、休息や睡眠に関しては結構無理が効く。

「ダメだよ、徹夜なんて! そんなのマナー違反!」

「そ、そうなの、か?」

 徹夜がマナー違反。確かに、僅かにでも不調が出るなら、それは同じチームで動くメンバーにも負担を掛けることになる。多少の無理が効くとはいえ、出来る限りの休息や体調管理は心掛けるべきだが。

「あー、気にすんな八雲ちゃん。大地はこういうのに慣れてないんだ。追々教えてやったらいいさ」

 相変わらず含みを持たせたままトシがフォローを入れる。なんだよコイツ、異能者としては俺の方が先輩だってこと忘れてんのか?

「つっても八雲ちゃん、四時半から動くにしても東京駅周辺じゃ遅いだろ? それに一日目はもともと流しのつもりだったんだし、無理することないんじゃねえか?」

 トシは俺と違って詳しい話を聞いているのか、作戦参謀みたいな感じで八雲に意見している。

「うーん、もちろん一日目の参加は予定外だし、空気だけ楽しむなら早朝から動くことないんだけど、でも……」

 八雲は真剣な表情になり、真っ直ぐな目でそっと告げる。

「戦える舞台が整ってるのに、勝ち取れる筈の物があるのに、最初から戦うことを諦めるなんて、あたしはしたくない!」

「八雲……」

 八雲の目は本当に真っ直ぐだ。

 きっと、譲れない何かがあるんだろう。

 本当は参加出来なかったはずの戦いとやらなのに、俺が準備万端整えていたことで参加出来るようになった。

 なら、俺にも責任がある。

「いいぜ八雲。何と戦うのかは知らねえが、俺ももちろん協力する」

「大地くん……」

 俺の答えに八雲は柔らかく微笑み、トシも「仕方ねえか」と笑う。

 ただ、ネコメだけがどうしても浮かない顔だ。

「ネコメ、お前やる気あるのかよ? 八雲が本気なのに、何でお前そんな顔して……」

「私には大地君のやる気のほうが理解し難いですよ……」

 大きなため息と共に辟易した表情で窓の外に目を向けるネコメ。しかし、生憎と長野から東京に向かう新幹線はその線路のほとんどが山をくり抜いたトンネル。関東平野に差し掛かるまでは見る景色など無く、窓の外はすぐ真っ暗になった。

 何がそんなに気に入らないのか知らないが、ネコメは頑なに真っ暗な窓を見続ける。しばらくそうしていたが、窓に反射した俺の険しい顔に根負けしたように会話に戻ってきた。

「……あの、私はホテルで留守番していてもいいですか?」

「はあ?」

 何言ってんだネコメは?

 ずっとローテンションで無関心っぽくいたと思ったら、今度は留守番だと?

「ネコメ、お前本当にどうしたんだ? 今この中で正規の霊官なのはお前だけなんだぞ? それなのに何でお前が……」

「霊官は関係ありませんよ! あんなの参加するのは本当に好きな人だけで、私は八雲ちゃんに頼まれて無理矢理ついて来てるんです! 大地君、一体東京に何しに行くつもりなんですか⁉︎」

「な、何って……」

 何って、当然霊官の仕事だ。

 地獄の釜の蓋も開くお盆、霊官なら何かしらの仕事がある。


「仕事なんかじゃありません! 私たちは明日から三日間、ビックサイトでコミケに参加するために東京に向かっているんです!」


「……………………はい?」

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