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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
小さな幽霊編
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小さな幽霊編46 再会の宣戦布告

「いやあ、楽しかったね」

「ええ、いい思い出になりした」

 夏の長い日が西に傾き始めた頃、観光案内を終えた俺たちは再び駅前にやって来た。朝と違うのは、遠野さんと伊勢田さんの手に大量の紙袋が下がっていることか。

「立派な建物だったが、異能はかなり薄かったな」

「それについては俺もショックを受けてるよ」

 参道の出店を眺めながら徒歩で向かった善光寺。異能者になる前は気付かなかったが、善光寺は鬼無里と比べて異能がかなり薄い。異能場ですらないという感じではなかったが、全国的にも有名な仏教寺院でありながら、感じられる異能はごく僅かだった。

「まあ有名な寺院やガイドブックに載るようなパワースポットなど、大抵はあんなものだ」

「そりゃまあ、ガチの異能場が観光地だったら妖蟲とかで大騒ぎになるもんな……」

 とはいえ、ガキの頃から知っているお寺があの程度の異能しか感じないとは。妖蟲一匹分くらいしか感じなかったからな。

「でも面白かったですよ。少し煙たいですけど……」

「あれもどの程度効果があるのかな……」

 体の悪い部分に当てると健康に回復するとかいう煙。ネコメは面白がって浴びていたが、あれは全く異能を感じなかったぞ。

「ああいうのは気分を楽しむものなんです」

「そんなもんかな……」

 テーマパークとかならともかく、宗教関連は気分の問題で済ませて良いのだろうか?

 異能者になってからああいったものが全て詐欺に見えてしまう。占い師とかももう絶対信じられないもん。

「ネコメちゃんの言う通り、気分だよ気分。オラたちは楽しかったんだから、それで充分さ」

「まあ、伊勢田さんたちが楽しめたならいいけど」

 どっちかと言うと伊勢田さんは観光よりも土産屋の方がテンション高かったけどな。地酒や地ビールの試飲してる時は本当に楽しそうだった。

「巨峰のお菓子に七味唐辛子、お土産も沢山買えたし、私も満足しているよ。林檎の菓子は買おうと思えなかったが」

「別に岩手は林檎関係無いだろ」

 嘲笑する遠野さんに一押し睨みを効かせておく。長野だって林檎のゆるキャラとかいるんだからな。青森には負けん。

「何でそんなに他県を敵視するんですか……」

 嘆息するネコメ。ネコメには分からない感覚かもしれないが、地元愛というものは確かに存在するのだ。

「あれだよネコメちゃん。ヤンキーって地元が好きだから」

「ああ、なるほど」

「納得すんな!」

 ヤンキーと違うわい。今は。

「諏訪先輩から言われてるんだよ、遠野さんのことをたっぷり挑発してやれって。それに、言伝も預かってる」

 同じ霊官同士、無闇矢鱈にケンカを吹っかけるべきではないと分かっているのだが、実はそうも言っていられない事情がある。

 夏休みももう半分が過ぎ、明けたらすぐに学園祭。そして、それ以外にも二学期にはイベントが目白押しだ。

 俺たちと遠野さんが、仲良しこよしにしていられないイベントもな。

「彩芽から言伝だと?」

「ああ。『今年もうちが勝つから。私のライバルなら、次は無能を晒さないでくれる?』だそうだよ」

「っ!」

 何の話か分かったのだろう。ピキッと遠野さんの額に青筋が浮かんだ。

 ネコメと八雲、トシは揃って「うわー」という表情を浮かべ、伊勢田さんは口角を上げて口笛を吹く。

「彩芽……アイツ……!」

 先日も散々役立たずだとか言われていた遠野さんは、怒髪天といった感じでお怒りのご様子。河童の特徴なのか、瞳も異能が漏れて両生類のような形に変わっている。

「……いい度胸だ。彩芽も、彩芽の言葉を臆さずにそのまま伝えてきた君もな」

「恐縮っすね」

 凶悪な笑みを浮かべる遠野さんに対し、俺は挑発的な笑みを向ける。

 俺は経験が無いが、これは都道府県のマウントの取り合いとは訳が違う。異能専科同士の、プライドを掛けた本気の勝負らしいからな。

 日は傾き、解散の時間も近い。同じ任務をこなした仲間として仲良くしていられる時間は、そろそろ終わりだ。

 前哨戦は、もう始まっている。

「その言い方だと、君も当然出るんだろう? 今度こそ、私の本気を見せてやるよ」

「役立たず晒さないでくださいよ? こっちはせっかく手の内を見せるってハンデをあげたのに、相手が弱くちゃつまんないっすから」

 俺も結構負けず嫌いなので、こういうのは正直言ってアガる。

 異能専科同士の真っ向勝負。最初は出場するのに消極的だったが、今では楽しみだ。

 秋の合同体育祭。生徒会に籍を置く俺は、出場メンバーに入っている。

「服従のポーズをさせてやるよ、犬畜生」

「やってみろよ、クソ雑魚両生類」

 ピリピリとした緊張感。突けば破裂する風船のような張り詰めた空気。

 高揚、不安、入り混じる感情。

 昔の血が騒ぐ、ではないが、ケンカの前にも似たような心情になったことがある。

 是非とも、心置きなく殴り合いたい。

「だ、大地君、さっきから失礼ですよ! どうしたんですか、急に?」

「いいんだよ、ネコメちゃん。こういうのは、エール交換みたいなものだから」

 ネコメには俺と遠野さんが急に険悪になったように見えたのだろう。戸惑うネコメを尻目に、遠野さんに向けてグッと拳を突き出す。

 すかさず持っていた紙袋を地面に置いて、遠野さんも拳を突き出してくれる。

 ゴッとぶつかる二人の拳。強めに来たね。痛い痛い。

「また会おう、大神大地。そして、私からも彩芽に言伝を頼む」

「なんすか?」

「絶対泣かす、この性格破綻者。そう伝えてくれ」

「…………ははっ」

 言えねえな。俺が泣かされる。

 俺の曖昧な返事に苦笑いで返し、遠野さんは俺たち四人の顔を見渡す。

「正直言って私は最初、今回の事件に中部支部と合同で当たることを快く思っていなかった。たたりもっけは東北の妖怪なのだから、我々東北支部の霊官だけで対処すべきだと」

 それはまあ、そうだろうな。

 霊官は決して一枚岩ではない。東北管轄の妖怪の始末に中部支部の手を借りたとなれば、つまりは借りを作ったことになってしまう。

「しかし、今は君たちと一緒に仕事ができて良かったと思っているよ。残念ながら私は今回役に立たなかったが、次会う時には……」

「ああ。全力で戦おう」

 手を振り、俺たちは駅前で解散した。

 次に会うのは合同体育祭。そうなれば、他校の遠野さんはライバルだ。

 正々堂々、良い戦いがしたいな。どんな競技があるかは知らないけど。

「なあ、大地」

「ん?」

 少し歩いたところで、遠野さんと伊勢田さんが消えた方を見ながらトシが呟いた。

「強気な年上の美人って、イイよな……」

「分かり易いよな、お前って……」

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