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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
小さな幽霊編
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小さな幽霊編40 カチコミ

 深夜。大地たちが河川敷での戦いを終えて市内の総合病院に運び込まれた頃、離れた場所ではもう一つの戦いが起こっていた。

「俺、生きて帰ったら絶対あんたのことぶん殴ってやるんだ……」

「そうか。なら生き残れ」

「…………」

 某県某所。鬼無里を有する長野から車で二時間ほどの場所。海に面した倉庫内のうず高く積まれた荷物の陰で、どこか達観したように呟かれた円堂悟志の言葉に、烏丸叶は冷たく返した。

「あんたマジでなんなんだよ⁉︎ いきなり拉致られてこんなとこ来させられて、何の説明も無くこんなとこに連れ込むだなんて⁉︎」

 精一杯の抗議の言葉を吐く悟志だが、その声は小さい。というのも、

「どこ行きやがった!」

「お前はそっちを探せ!」

「クソガキ共が、絶対に逃さねえぞ!」

 二人を探す罵声に、悟志は「ひぃっ⁉︎」と身を縮ませる。

 二人がいるのは倉庫。より詳しく言うなら、つい先ほどまでとても怪しい人達がとても怪しい取り引きをしていた倉庫だ。

 悟志は叶に倉庫へと引きずり込まれ、取り引きの真っ只中に放り込まれた。

 周りを見れば明らかに一線超えていそうな人達ばかり。頬に傷痕がある者や、シャツの襟元から刺青が覗く者。そんな本物っぽい方々が自分に注目する中で、悟志は当然血の気が引いた。

 しかし、それは相手も同じだった。突然の乱入者。それも一人は日本刀を所持し、もう一人は見た目だけはそれっぽいエアガンを持っている。怪しい人達はたちはひどく取り乱した。

「あまり声を出すな。見つかると面倒だ」

 冷徹に言い放つ横顔。見ようによってはシャープな顔立ちの美女に見えなくもないが、それを口にしたら自分を探す男たちに見つかるよりも酷い目に合うことを、悟志はよく理解していた。

「武装した男が、全部で五人。全員拳銃や長ドスを所持。そして、それとは別に異能混じりが四人か……。よし、都合よく奇数だ。どちらが多く倒せるか競争するとしよう」

「九対ゼロでいいので全部任せます!」

 咄嗟のツッコミについ声が大きくなってしまった。悟志が自分の失態を後悔するより早く、殺気立った男の声が倉庫内に響く。

「声が聞こえたぞ!」

「回り込め!」

「殺しちまえ!」

「一人は生かしておけ! どこの組のモンか知らねえが、洗いざらい吐かせろ!」

 男たちの罵声は、近い。倉庫内は音が反響して詳しい位置までは分かりづらいが、異能具を外して心の声が聞こえる悟志にはその位置が手に取るように分かる。

 無論、自分たちを追い詰める為に、男たちが挟み撃ちの形を取っていることも分かった。

「もうダメだ……。こ、殺される……。このまま海に沈められる……」

 握ったエアガンがカチャカチャ鳴るほどに体を震わせる悟志だが、叶は相変わらず冷たい態度を崩さない。

「いい加減覚悟を決めろ。自分の身さえ守れれば、後は私がやる」

「だったら最初から一人で来て下さいよぉ……。なんで俺まで巻き込むんすかぁ……」

 最早泣きそうになりながら、悟志はすがるような情け無い声を出す。

「二人で任務に当たれば、お前の課題もクリアできる」

「なんなんすかその課題って……」

「奴らを捕まえれば、霊官になれると言っているのだ」

「っ⁉︎」

 叶の放った一言に、悟志の目の色が変わる。

「霊官が監督する元で異能絡みの事件を解決すれば、一足飛びで霊官の資格が取れる。奴らの中には異能混じりがいて、しかもこんな物を取り引きする現場を押さえたんだ。十分過ぎる実績になる」

「それは……」

 叶が取り出したそれは、怪しいお薬でも入っていそうなチャック付きの小さなビニール袋。中身は白い粉などではなく、ドロップ缶から移し替えたように色とりどりな半透明の結晶体。悟志を取り引きの只中に放り込み、男たちが混乱するドサクサに紛れて叶が掠め取った物だ。

 一般人が見れば宝石の取り引きにしか見えないそれだが、悟志にはこのビニールの中身が宝石などという生優しい物ではないことはすぐに分かった。

「異能、結晶……」

 見ただけでそれを看過した悟志に、叶はコクリと頷く。

「ひと月ほど前から、一部の反社会勢力の内部に異能者が急増しているという情報があった。どこかの組織が秘密裏に囲っていた異能者かとも思ったが、蓋を開ければこの通りだ。どうやら大日本帝国異能軍は反社会勢力に異能結晶を流すことで、多額の資金を得ていたらしい」

「はあ⁉︎」

 大日本帝国異能軍が異能結晶を流通させていた。そのことにも驚いた悟志だったが、疑問は他のところにあった。

「ま、待ってください! なんでそんな裏の情報が霊官の耳に……」

「反社会勢力と霊官は、一部では蜜月の関係だ。警察や政治家とも切り離せるものではないだろう?」

「に、日本の闇……」

 自分たちが暮らしているこの国が急に信頼できなくなってきた悟志だったが、今はその程度のことでショックを受けている場合ではない。

「反社会勢力に異能結晶が出回り続ければ、最早奴らは警察の手には負えない。しかし、全国の反社会勢力を取り締まれるほど、霊官に人的余裕は無い」

「つまり、流通を阻止しつつ、霊官をやれる奴も増やしたいってことですか?」

「理解が早くて助かる。……来るぞ」

 ドタバタという足音の接近を察知し、叶は刀を抜いた。悟志もエアガンのセーフティを外し、叶と背中合わせになって通路に出る。

「お嬢様の話では、大神は未だ霊官の資格に見合うだけの働きはできていないということだ。あいつより一歩先を行くチャンスだぞ」

「そういうことは、早く言って下さいよ!」

 数秒前とは違った顔つきで、悟志は引き金を引いた。

 倉庫内に響き渡る銃声は、無論、ガスの爆ぜるエアガンのものだが。

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