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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
小さな幽霊編
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小さな幽霊編1 真彩

このペースだとナンバリングが三桁に届きそうなので、今回から新章扱いでナンバリングを改めます。

内容的には『夏休み編 小さな幽霊の巻』みたいな感じです。

 異能者の考えとしての幽霊は一般的なそれとは違い、残留思念に近い。

 死後の世界だの輪廻転生だのという考え方はまるっと否定されており、形式上『幽霊』と呼んでいるものは、ただの異能の残滓という考え方だ。

 原則として、幽霊は普通の人間には見えないし、声も聞こえない。見えるとすれば、それは体内に幽霊と同じように異能を持つ異能者だけだ。

「異能の資質が高い人間が死んだとき、異能を介して魂の一部、つまり意識だけが残留する。そんな感じだったか?」

 確認する俺の言葉に、ネコメは僅かに目を見開いた。

「そう、ですけど……。大地君、誰から幽霊のことを教わったんですか? 確か授業では、まだそこまでやっていなかったと思いますけど」

「誰って、そりゃ……」

 あれ? 誰だっけ?

 なんか幽霊を見たのは二回目のような気がするのだが、考えてみれば幽霊を見たのは初めてだ。矛盾しているが、どれだけ思い返そうとしても覚えがないのに、見たことあるような気だけする。何だこれ。

「そんなことより、どうするんだこの子?」

 分からないことは考えても仕方ないと思い、とりあえず問題はこの子のことだ。

 自分のことが見えるのが嬉しいのか不思議なのか、女の子は戸惑いと期待の入り混じった瞳でジッと俺たちの方を見ている。

「……特にどうもしませんよ」

 平坦な口調で、ネコメはゆっくりとそう言った。

「え?」

 どうもしないって、それは放っておくってことか?

「なんか、成仏の手助けとかしないのか? よくあるだろ、この世に残した未練を解消してやるとか……」

「それはお話の中のことです。実際の幽霊は大地君が言った通り、異能を介して意識のみが残留すること。未練を残してここにある訳ではないですし、未練があったとしてもそれを解消して消える訳じゃないです」

 そりゃそうなのかも知れないが、何かネコメの言い方がキツくないか?

「だからって何もしないのか? このまま放っといたらこの子はどうなるんだよ?」

「ここにあるのはあくまでも『意思を持った異能』です。これが異能場にあったなら悪い影響が出る前に処分しますが、見たところ不自然に異能を溜め込んでいる様子もないです。ここなら時間が経って異能が霧散すれば自然に消えて無くなりますし、放っておいて問題ないですから、帰りましょう」

 そう言ってネコメは踵を返そうとする。

 そのつっけんどんな言い方がどうにも納得できず、俺はネコメの言ったことを無視して女の子に話しかける。

「こんにちは。俺の名前は大地、君のことが見える、まあ魔法使いみたいなもんだ。君の名前は?」

「大地君⁉︎」

 咎めようとするネコメを視線で制する。ほんの少し、怒りを込めて。

「帰るなら勝手にしろよ。俺はこの子に少し話を聞いてから考える」

「考えるまでもありません。幽霊は放っておくのが一番なんです。余計なことをすれば、絶対辛いことになりますよ」

「…………」

 何だよ、どうしたんだよネコメのやつ。

 何か頑なに俺とこの子を関わらせないようにしてるっぽいが、まさか霊官やってて幽霊が怖いなんてことないだろうな?

「あ、あの……」

「ん? ああ、ごめんごめん」

 俺とネコメの会話に不安を感じたのか、女の子は怯えるように身を縮こまらせてしまった。

「あっちの話の分からないお姉ちゃんは放っといて、名前教えてくれるかい?」

 悪いと評判の目つきをなるべく優しく見えるように、ぎこちないながらもなんとか笑みを作る。

「あたし、まあや」

「まあやっていうのか?」

 聞き返すと女の子、まあやはこくりと頷いた。

「真に、彩るで、まあや」

 真彩と書くのか。

「いい名前だな。よろしく、真彩」

「うん。よろしく、お兄さん」

 ようやく不安を安堵が上回ったのか、真彩はそこでようやく笑顔を見せてくれた。

 子どもは笑うと本当に可愛いな。庇護欲といか父性というか、そういうものがくすぐられるような気がする。

「えっと、真彩は自分のことが分かるか? その、自分が今どうなっているか……」

 言葉を選びながら、慎重に会話を進める。

 こんなに小さな子どもが、自分が既に死んでいるという状況を受け入れられているのか。

 そもそも自分が死んだことに気付いているのかさえ怪しい。

「うん。あたしは、もう死んでるんだよね?」

 確認するような言葉に俺は肯首で返す。

「ああ。真彩はもう死んでる。ここにいる君は、幽霊なんだ」

 先ほどの反応からして、真彩はほとんどの人に自分の姿が見えないことには気付いていたのだろう。

 不謹慎だが、俺は少し安堵してしまった。

 自分が死んでいると自覚していなかった場合、それを伝えるのは正直言って気が重かった。受け入れられなくて取り乱されるかと思ったからな。

「真彩は、いつからここにいるんだ?」

 こんな駐車場の片隅で、いつからこうして膝を抱えていたのだろうか。

「……結構、前だと思う。何日とかは、分かんない」

「そうか……」

 もし真彩がこの場所で車に轢かれでもしたのだとしたら場所の辻褄は合うが、それならこの子が背中を預けるフェンスに花の一つでも供えてあってもよさそうなものだ。

 つまり、真彩は他の場所で亡くなってからこの場所に移ってきたか、もしくは誰も花を供えなくなるほど時間が経ってしまっているか。

「……幽霊は多くの場合生前の記憶が曖昧になります。話を聞いて何が分かる訳でもないですし、分かったところで何も得るものなんてありませんよ」

 嘆息気味に、ネコメが背後から注釈を入れる。

 俺は先ほどからの腹に据えかねるネコメの態度に対する苛立ちを隠そうともせず、唇を尖らせながら僅かに振り向く。

「……まだいたのかよ? 帰ってくれていいぞ」

「ムッ」

 当然といえば当然だが、ネコメは『その言い方はカチンと来ます』とばかりに口をへの字に曲げてプイッとそっぽを向く。

「私は忠告しましたし、大地君がどうなっても知りません。だからこれから言うのは全部独り言です」

 何で怒っているのか何が気に入らなくて不機嫌なのか、ともかくネコメは俺と真彩を、というか幽霊を関わらせないようにしている。

「幽霊と関わることは何の利益にもなりません。そこにあるのはいずれ消える幻で……」

「さっきから『ある』とか『これ』とか、何でそんな言い方するんだよ⁉︎」

 ネコメの言い方に、俺もさすがに頭にきた。

 ネコメはさっきから真彩のことを、おそらくは意図的にではあろうが、人として扱おうとしていない。

 あえて『いる』を『ある』と、『この子』ではなく『これ』と言い換えている。

 そこにどんな意図があるのかは知らないが、それは真彩を不安にさせるほどの理由ではないはずだ。

「……決めた」

「?」

 俺はネコメに向き直り、真彩を庇うように立ち塞がる。

「俺が霊官になるための最初の仕事は、真彩の問題の解決だ。しっかり見とけよネコメ!」

 大見栄を張って啖呵を切る。

 堂々と言い放った俺に、ネコメは不思議そうな顔を向けて、呆然と、ポカンと口を開けて呟いた。


「な、何を解決するんですか?」


「…………」

 何を解決するんだろう?

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