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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
夏休み編
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夏休み編30 お泊まり会

「ふぅ、ごちそうさま」

「美味かったぁ〜」

 空になったガラス皿に向けて手を合わせ、作ってくれた八雲に頭を下げる。

「お粗末さま。口に合ったみたいで良かったよ」

 八雲の作ってくれた冷やし中華は、具材の一つ一つまで手が込んでいて絶品だった。一緒に出された棒々鶏っぽい肉料理も美味かったし、八雲は本当に料理が上手い。

 しかし、消費カロリーが多い異能混じりとしては夏休みの間の食費が気がかりだな。異能を使うような事態にならなければ少しは抑えられると思うのだが。

「あ、八雲ちゃん、お皿は私が洗いますから」

「いや、俺が洗うよ。二人には買い出し行ってもらったんだし」

 後片付けまでやってもらったんじゃさすがに役立たず過ぎる。食客じゃないんだからな。

「大地くんはそのままの方がいいんじゃない? 火車ちゃん起きちゃうよ」

「あー……」

 俺の膝の上では三毛猫の火車が絶賛お昼寝中だ。

 なぜか俺に懐いた火車は膝の上から退こうとせず、昼飯を食っている間からずっとこうしている。

「俺がやるから、大地はそいつ起こすなよ」

「悪い、頼むわ」

 苦笑いを浮かべるトシに洗い物を任せ、部屋の隅でいじけているもう一つの毛玉に視線を向ける。

「リル、いい加減機嫌直せよ」

『ふんだ。ダイチはそいつの方が好きなんだろ? 無理にボクに構わなくていいよーだ』

「お前な……」

 俺にだけ懐く火車が可愛くて、つい火車ばかり撫でていたら、リルはいじけた。

 いつもは立っている尻尾も今は垂れ下がり、昼飯の茹でた鶏肉を食べている間もずっと不機嫌だった。

『ダイチの相棒はボクなのに、そんな乱暴な猫ばっかり撫でて……。最近はボクのこと全然撫でてくれないクセに‼︎』

 かまってちゃん系女子みたいなこと言いやがって。ちょっと可愛いなおい。

「撫でてやるから、ほら来いよ」

 チョイチョイと手招きすると、リルはゆっくりこちらに寄って来た。つまらんことでいじけやがって。

 手招きしていた手でリルの顎に触れる寸前、

『フニャッ‼︎』

『キャン⁉︎』

 目を覚ました火車がリルに猫パンチをお見舞いした。

「火車⁉︎」

 今の今まで寝てたのに、なんでわざわざ起きてまで攻撃するんだよ⁉︎

「火車さん、乱暴はダメですよ‼︎」

 火車の飼い主であるネコメが諫めるが、プイッ、火車はネコメの言葉など聞く耳持たないといった風にそっぽを向く。

『うぅ〜。八雲〜、ネコメ〜』

 一発KOされたリルは俺に近づくのを諦めて二人の方に行ってしまう。

「あらら、かわいそうに……」

 そんな情けないリルを八雲は優しく抱き上げ、膝の上で撫でてくれる。

「すまん八雲、うちのリルが……」

「いいよいいよ。リルちゃん可愛いし」

 しかし、これでいよいよリルと火車の力関係が明確になってしまった。

 圧倒的に火車が上位。伝説の神獣様が三毛猫に勝てないとは。

「火車、あんまり俺の相棒をいじめないでくれよ」

『ナァ〜』

 通じてんのかこれ?

「ははは、情けねえなリル公。どれ、たまには俺が撫でて……」

 洗い物を終えたトシが戻ってきてリルの頭に手を伸ばすが、

『ガウ‼︎』

「痛えっ‼︎」

 噛まれた。こっちもこっちで上下関係は相変わらずだな。

「トシ、お前のヒエラルキー、この中で一番下ってことだぞ?」

「納得いかねえ‼︎」

 そんなやりとりでひとしきり笑うと、八雲が持ってきたゲームでみんなで遊ぼうという流れになった。

 リビングの巨大なテレビにゲーム機を接続し、スマブラを起動する。

「ぬふふ、ちょろいね〜」

「えいっ、えいっ!」

「え、ちょ、待っ!」

「…………」

 やはりというか何というか、基本的にゲームは八雲の圧勝だ。

 普段から八雲に付き合っているのか、ネコメの腕前もかなりのもので、少し経験があるからと果敢に攻め込んだトシは真っ先に残機ゼロになった。

『ダイチのキャラどれ?』

「もう画面にいないよ」

 俺は戦う前に画面の端っこでステージギミックに落とされた。

 コントローラーを手放した俺とトシは、画面で繰り広げられる二人の芸術的な激戦を観戦する。

 お互いが空中で攻撃を当て、地面に着く前に相手を吹っ飛ばそうと追撃を狙う。

 当然のように攻撃をガードし、反撃、ガード、爆発、投擲、様々な技の応酬を繰り広げる中で、二人のキャラは一度も着地せずにドラゴンボールのような激闘を演じてみせる。

「スマブラって空中戦がメインだっけ?」

「動画サイトでこんなの見たことあるな」

 二人が何をしているのか全くわからなかったが、どうやら最後にミスったらしいネコメが負けた。

「ふぃー。ネコメちゃん腕上げたよね」

「八雲ちゃんと練習してるんですから、当然ですよ。二人は、いつの間にいなくなってたんですか?」

 圧倒的強者の発言だ。

「あ、そうだ。今日はこのままお泊まり会にするからね」

 次のゲームのハンデを設定しながら、八雲がそんなことを言った。

「あ、それ楽しそうですね」

「お、そうだな」

「お、そうだな」

 ステージを選択し、二戦目が始まる。

「……はあ⁉︎」

 ズドンッ、開幕早々に八雲に吹っ飛ばされた。隙を突かれた完全な奇襲だ。

「お、お泊まり会って?」

 ゲームで負けたことなど気にも留めず、俺は平然とコントローラーを操作する八雲に向き直る。

「夏休みなんだし、お泊まり会するでしょ。夕飯と明日の朝ごはんの材料も買ってあるし、今日はみんなでお泊りだよ」

「聞いてねえぞ⁉︎」

「言ってないもん。あ、帰ろうとしても無駄だよ。玄関見てみて」

「?」

 言われるがままに玄関に赴くと、そこにはあるべきはずのものがなかった。

 水色の小さいスニーカーと、ローファー。これはネコメのだろう。隣にあるのはヒールの高い、確かミュールとかいう靴。これは来るときに八雲が履いていた。

 そして、その隣にあるはずの俺とトシのスニーカーが無かった。

 即座にリビングに戻り、ゲームを続ける八雲を問い詰める。

「俺たちの靴どこやった八雲⁉︎」

「お買い物行くときに宅急便で送っちゃった」

「どこに⁉︎」

「ここ」

「……⁉︎」

 つまり、俺たちの靴は今はコンビニか集荷場。宅急便でここに届くのは、早くても明日とかだろう。

 当然、ここにある二人の靴はサイズが合わず、俺とトシでは無理矢理にでも履くことはできない。

 八雲はお手軽に、俺とトシをこのマンションに軟禁しやがった。

「何でこんな手の込んだ真似を⁉︎」

「二人が帰っちゃわないように。これで今夜は夜通しゲーム大会だよ‼︎」

 八雲は帰省の荷物の中から様々なソフトを取り出し、目をキラキラ輝かせる。

「……もう好きにしてくれ」

 結局、ゲーム大会は深夜まで及び、睡眠不足の俺とトシは夏休み初日から一気に生活リズムが乱れた。

 夏休みしてるな。

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