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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
夏休み編
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夏休み編8 せいとかいのおしごと

「とりあえずこの書類に目を通して。各クラスと部活の文化祭の企画と予算。希望予算はこっちのリストに書き出しておいて。出し物の内容に不備がないかをこっちの注意項目と照らし合わせて、不明瞭な点は書類に記載されている代表者に電話確認。屋外ステージと体育館のステージを使う企画は希望使用時間のダブりをタイムスケジュールで確認。二時間後に予算会議だから、それまでにね」

「………………多くね?」

 トシと三馬鹿と別れて生徒会室に足を運び、俺は割り振られた仕事の多さに顔を引きつらせた。

 仕事の内容は、九月の末頃に行われる文化祭の書類整理。夏休みという準備期間があるとはいえ、あまり時間的な余裕はない。

「文句言わないの。クラスや部活の企画は、夏休み明けから本格的な準備が始まるから、その時になって企画に不備があっても修正効かないんだから」

「そうは言っても……」

 書類の量もそうだし、チェックする項目が多すぎて見ただけで頭が痛い仕事量だ。

「ワンちゃん、口より、手を、動かそ?」

「へーい……」

 隣のデスクでゆったりとした口調とは裏腹にテキパキと書類を片付けているマシュマロにそう言われると、もう頷くしかない。

 俺は新しく用意された自分専用のデスクに座り、渡された書類に目を通し始める。

「……クラスはともかく、部活の企画書が馬鹿みたいに多いな。こいつらみんな出し物やるのか?」

「部活の数自体が多いからね。普段娯楽の少ない寮生活してるから、みんなお祭りのときはここぞとばかりにはしゃぐのよ」

 その気持ちは分からなくはないが、兼部してるやつとか大変だろうに。

「体育祭とは違って、文化祭は全部の部が部員を総動員してお祭り騒ぎするし、保護者の来場も認められてるから、毎年トラブルが絶えないのよ」

「保護者も来るのか⁉︎」

「そうよ。生徒一人につき三枚の入場券が配られて、それがないと入れないけどね。他にも中部支部からの来賓や、お忍びで本部の霊官も視察に来るわ」

 この異能の巣窟に一般人を招き入れるとか、正気か?

 経験から言わせてもらうが、妖蟲一匹出ただけで人死にだってあり得るぞ。

「もちろん安全には最大限の配慮をするわ。でも、一応こうやって免責事項があるけどね」

 そう言って諏訪先輩は一枚の紙を見せてきた。

 ちょっと書類確認の手を止めて見に行ってみると、どうやらこれが文化祭の入場券らしい。

「……異能がかかってるな」

「そう。だから複製も偽造も不可能なプラチナチケットよ」

 入場券からは大して強くないが異能術の気配を感じる。隅にはしっかりと『当校の文化祭中に起こる不測の事故に関して、学校側は一切の責任を負いかねることを了承願います』と書かれている。大した学校だよ、まったく。

「こんなこと書いてあっても、保護者は来るのか?」

「来るわよ。自分の子どもが異能なんてものとどう向い合っているのか、親なら気になって当然だし、そうでなくても超常の学校の文化祭だもの」

 好奇心をくすぐられるって訳ね。そりゃそうか。

「ほら、もういいでしょ。書類の確認に戻って」

「へいへい」

 束の間の休憩を切り上げ、渋々と書類仕事に戻る。見るだけでやる気が削がれる量だが、やらなきゃ永遠に終わらないからな。

「……サッカー部の出し物が、飲食店? 提供物はコーラ、軽食等って、これは他の部と被るんじゃないか?」

 こういう出店なんかって、競合することがないように提供物が被らないようにするって聞いたことがあったんだが?

「内容が被ること自体は問題じゃないわ。むしろライバル店に対してどう差別化を取るかなんて、将来的に役立ちそうじゃない?」

「ああ、言われてみれば……」

 異能専科の生徒だからといって、全員が霊官や異能に携わる仕事につくわけではない。異能を秘匿して普通の企業に就職したり、自分で店を持つ者もいるのだ。

 その時の仕事のシミュレーションだと思えば、文化祭の出店も無駄にはならない。

「いやでも、この内容、『客一名につき部員が一対一以上で対応』とか、『部員の顔写真を掲示し、客が接客する部員を指名する』とか書いてあるんだけど……」

 飲食物の料金もやけに高いし、完全にホストクラブ扱いじゃないか?

「公序良俗に反さない程度なら、何してもいい決まりだからね。売り上げは部費や学級費にできるから、みんな必死なのよ」

「ホストクラブはギリアウトだろ……」

 社会的には立派な仕事かもしれないが、あれの顧客層は金持ちの女性だ。少なくとも高校生の文化祭で行う催しではない。

「そんなのまだマシよ。去年はストリップショーや女生徒の衣服を売り捌くフリーマーケットなんてのもあったし」

「廃校になっちまえ‼︎」

 失望した。

 風俗紛いの店やブルセラの真似事なんて、暗部なんてものが暗躍するまでもなく、この学校の秩序は下の下ではないか。

「当然そういう出し物はそのまま企画書に書いたりしないわ。当日は提出と違う出し物をしてないかの見回りもあるから、覚悟しときなさい」

「……メンドクセエ」

 考えただけで嫌になるね。

 本当に、厄介な役職についてしまったものだ。

明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。


本作はもうすぐ一周年を迎えます。嬉しいです。

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