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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
夏休み編
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夏休み編2 暗部

「異能専科には、正体不明の集団がいる。それが『暗部』だ」

 先頭を歩く鎌倉の言葉に、俺とトシは揃って首を捻る。

 ここは校舎と体育館の隙間のような空きスペース。編入初日に俺が三馬鹿に連れてこられた、コイツらが隠れ家にしていた場所のさらに奥だ。

 道とも言えない道は雑草が伸びっぱなしで一切手入れされておらず、建物の陰になっているせいもあって陰気臭い。

 石やら木の枝やらもその辺にゴロゴロあって、足を取られそうだ。歩きづらいと言ってリルは俺の腕の中に収まっている。

「なんだよ、正体不明の集団って……」

「そのまんまの意味だよ。学校のあちこちに根を張って、いろんな活動をしてる。校内じゃ手に入らない物や学生には買えない異能具の闇市に、賭けの胴元。学校行事のときに生徒会の認可を得ないでゲリラ的な催し物を開いたりもする」

 なんじゃそりゃ。

「生徒がやってる……部活みたいなものか?」

「それも分からねえ。メンバーには生徒もいるし、教師も卒業生も、霊官までいるって噂だ。しかも暗部の人間同士さえ、お互いのことは何一つ知らないらしい」

「胡散臭えことこの上ねえな。何で学校側がそんな奴ら放置してんだよ」

 ゲリラ的催しくらいならヤンチャで済むかも知れないが、闇市や賭け事なんて完全に法に触れる行いだ。

 国家機関である霊官の下部組織の異能専科でそんな悪事が横行しているなんて、にわかには信じ難い。

「必要悪ってやつだよ」

「目黒にしては難しい言葉知ってるな」

 皮肉が通じなかったのか、目黒は俺の言葉に照れ臭そうに笑った。褒めてねえよ。

「こんな山奥の学校に閉じ込められてんだぜ。鬱憤溜まってるやつばっかりさ。そういう奴らのストレス発散のために、賭けやアブねーモンも多少は目を瞑るしかねえんだろうよ。現に生徒会だって、暗部に関しちゃ見て見ぬ振りだ」

「…………」

 仮にも生徒会に席を置いている俺に随分とズバズバ話すと思ったら、そういうことか。

 暗部、異能専科に蔓延る、必要悪。

 鎌倉の言うようにその存在が暗黙の了解になっているなら、あの諏訪先輩でも黙認しているということになる。

 あるいは、生徒のストレス発散という理由以外に、先輩でも手を出せないワケでもあるのか。

「……安全な奴等なのか?」

 異能者の秘密組織なんて聞くと、どうしてもあいつらが頭をよぎってしまう。

 藤宮が集めた、戦時中の遺物。

 大日本帝国異能軍を。

「愛想のいい連中じゃねえが、学校外で何かやらかしたって話は聞いたことねえよ」

「あくまでも『学校の暗部』だってことか……」

 腑に落ちない点も多いが、即座に対処が必要とも思えない。

 そもそも諏訪先輩が放置しているなら、生徒会で下っ端の俺がとやかく言うものじゃないかも知れないしな。

「な、なあ、大地……」

「ん?」

 三馬鹿との会話から考えをまとめていると、隣を歩くトシが不安そうに袖を引いてきた。

『変だぞ、ダイチ‼︎』

「変って……?」

 リルに言われて辺りを見回すと、突然の変貌ぶりに俺は瞠目した。

 足元にばかり気を取られていて気付かなかったが、周囲の風景はいつのまにか学校とは全く違うものに変わっていた。

 すぐ横にあったはずの校舎は影も形も無く、一向に日が差さないと思ったらトンネルの中に入っていた。

 足元もアスファルトの舗装道路になっており、どこからかピチョンという水音が響く。

「な、何だこれ⁉︎」

 驚愕して漏らした声がトンネル内に反響する。

 確かに俺たちは校舎と体育館の隙間を歩いていたはずで、トンネルなんてものに入ったことに気付かないわけがない。

 戸惑う俺とトシを見て、三馬鹿がニヤリと笑う。

「ここが闇市への入り口、通称『闇口』だ。闇市には幻覚みたいな異能術が使えるやつが常駐してて、そいつが闇口の場所が分からないようにこうして気付かないうちに招き入れてくれるのさ」

 異能の幻覚を見せられていたってわけか?

『気付かなかった……』

「俺もだよ……」

 これはいよいよ、無視できない。

 漫画とかじゃよく出てくるけど、実のところ幻覚系の異能術ははっきり言ってチートだ。

 人の視覚や聴覚などに働き掛けることで、五感の自由を奪い、意のままに操る。

 それは対象の力量に関わらず相手を無力化できる力だ。

 単純な戦闘系とは全く違うスキルを要求される幻覚は、異能術の中でも最強クラスだと以前諏訪先輩に教わった。

(強力だからこそ、その発動には相応の手順が必要なはずなんだがな……)

 異能ではない普通の催眠術なんかでも、相手に囁きかけたり揺れるコインを見せたりといった準備が必要になる。

 幻覚を見せるためには、こちらに何かしらのアクションを起こす必要があるのに、俺もトシもリルも、いつのまにか幻覚の中にいた。

 幻覚に必要なアクションさえ気付かせないで、自分の歩いている場所さえ錯覚させるほどの異能術。

 暗部には霊官もいる、というのは、あながち間違いではないだろう。

「なあ、本当に大丈夫なのか?」

 幻覚という予想外の事態に、トシが狼狽えてしまう。

 三馬鹿は慣れているのか、単に幻覚の重大さに気付いていないのか平然としている。

「……もし敵だったら、俺たちは今頃全滅してるよ。とりあえず攻撃されてる訳じゃないだろ」

 幻覚の中に囚われたということは、文字通り殺生与奪の権利を取られたことになる。

 単純な話、あのまま幻覚の中で崖にでも誘導されていれば、俺たちは一人残らず死んでいたのだから。

「怖え顔すんなよ。学校じゃみんな利用してんだからな」

「危機管理が緩い気もするぜ……」

 暗部とやらの恐ろしさに内心ビビりながら、俺たちはトンネルを抜ける。

「見えてきたぜ。あれが闇市だ」

 トンネルの先にあったのは、何の変哲も無いプレハブ小屋だった。

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