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異能専科の猫妖精(ケット・シー)  作者: 風見真中
夏休み編
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夏休み編1 三馬鹿の導き


 異能専科の補習とは、それはそれは雑なものだった。

 普段の始業と同じ時間に担任の白井先生がやってきてプリントを配り、時間いっぱい使ってそのプリントをやるというだけのものだ。

 補習者全員が同じ教科の補習をしているわけではないので、プリントの量も種類もバラバラ。

 各々が赤点の教科と同じ日数をかけて、プリントを消化することになる。

 純粋な出席日数不足の俺は基本の五教科に加えて異能と家庭科のプリントがあり、全部で七教科だ。

「ほい、終了だ」

 午前終了のチャイムの音と同時に監督していた白井先生がそう言って、テキパキと帰り支度を始める。

 監督と言ってもプリントを配ってからはずっとクロスワードやってたけどな、先生。

 補習は午前中なのだが、分割するくらいなら一日に二教科分やってくれとも思う。

「学食やってねえんだよな。昼飯どうする?」

 寝ぼけながらプリントをやっていたトシにそう問いかけると、隣の席から鎌倉が身を乗り出してきた。

「寮の売店でなんか買えばいいだろ。それよか午後はどうするんだ?」

「何でお前らと飯食う感じになってんだよ?」

 さも当然のように一緒にランチしようとしている三馬鹿にゲンナリした顔を向ける。

「つれないこと言うなよ。同じく補習仲間だろ?」

「嫌だよそんなアホな仲間。ちなみに俺は二時から生徒会だからな」

「あ、俺も午後は用あるから」

 俺とトシが揃って誘いを断ると、三馬鹿は不服そうに顔を歪めた。

「なんだよ。じゃあ昼飯だけでも……」

「いや寮戻るのめんどくせえよ」

 昼飯の為だけに寮に戻ってまたすぐ学校に来るのは手間だ。中庭にパンの自販機があったからそれで済まそうと思う。リルのカリカリは持ってきてるしな。

「なんでそんなに俺らと飯食いたくねえんだァ⁉」

「お前こそ何で一緒に食いたがるんだよ⁉」

 別にそこまで仲良しじゃねえだろう。そもそもついこの間まで敵同士じゃなかったっけ?

「寂しいこと言うなよ大神」

「エロ本プレゼントした仲じゃんかよ」

「言ってなかったっけ、アレのせいでネコメに殴られそうになったよコンチクショウ‼」

 五月の藤宮事件のオチとして、俺は入院の見舞いに三馬鹿からエロ本を貰った。

 それが見つかってネコメにアホな誤解をされたことを、俺は忘れていない。

「そもそもこの監獄みたいに管理されてる学校でどうやってあんなもん手に入れたんだよ⁉」

 異能専科は事実上の陸の孤島。

 学校の敷地外へは長期休暇以外基本的に出ることはできないし、学校を抜け出してきたとはいえ、病院ではコイツらは制服を着ていた。エロ本は簡単に手に入るものではなかっただろう。

 最近は臭わないが、以前鎌倉が吸っていたタバコだって、考えてみればどうやって手に入れたのか甚だ疑問だ。

「通販は検閲あるし、確かにそんなもんどうやって手に入れるんだ⁉」

「オイ食いつくなトシ‼ 同じ部屋の俺の気持ちにもなれ‼」

 エロ本を入手したコイツが同室で何をするかなんて、想像したくもない。

「……そっか、二人はまだ知らないのか」

「は?」

 俺たちの言動に得心がいったように、目黒がうんうんと頷いた。

 鎌倉と石坂も揃って顔を見合わせ、ニヤリと口角を上げる。

「お前ら、今日金持ってるか?」

「カツアゲか? 相手になるぞ」

「違えよ‼」

 まあカツアゲされてもそんなに持ってないけどな、金なんて。

「金って言われてもな……」

 鎌倉の質問にトシは苦い顔をする。

 異能専科では食事や学業に必要なものは税金で賄われており、決済は全て学生証に内蔵されたICチップで行われている。

 雑誌などは売店で、ゲームなどは通販の取り寄せで買うことも出来るが、そういった嗜好品の類を除けば異能専科にいる間は現金が必要無いのだ。

「この間の事件の報酬が振り込まれたらしいけど、ここATM無いしな……」

 俺の口座には藤宮の起こした事件を一応解決に導いたとして、中部支部から成功報酬が振り込まれている。

 正規の霊官はそういった成功報酬に加えて固定給もあるらしいが、生憎とまだ見習いの立場である俺にはない。

 ちなみに以前の藤宮の事件とトシの調査の報酬も含めて結構な額が入っているらしいのだが、諏訪先輩への負債を考えるとそう易々と手をつける気になれない。

「まあ今回は紹介だけでもいいだろ。知ってるのと知らないのとじゃ今後の学校生活が全然違うからな」

「……一体なんの話してんだ?」

 先程から鎌倉たちの言葉はイマイチ要領を得ない。

 現金が必要で、かつ学校内では手に入らないものの入手先にアテがあるってことなのか?

「大神は生徒会、二時からだったな。それまでには終わるからついてこいよ」

 俺たちの返答を聞かないまま、三馬鹿はさっさと席を立って教室のドアに向かってしまう。

「ついてこいって、どこにだよ?」

「いいから早くしろ。夏休みに入ったら人いなくなるから、多分今日あたりが一学期最後だ」

「だから、どこに行くのかくらい説明しろって!」

 曖昧な返答に若干イライラしながら問い正すと、鎌倉は久し振りにあの笑みを浮かべた。

 編入したばかりの頃に見せていた、あの嘲笑を。


「この学校の、闇だよ」




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