第93話
秋も深まり、森の木々は落葉を始めて地面に落ち葉の絨毯を作っている。
歩みを進めるたびに、シャク、シャリ、シャクと小気味いい音が耳へと入ってくる。
「あー、秋も終わりか。寒くなってくるな」
「そうだね、冒険者って冬は何しているの?」
「あー、俺は春に冒険者になったばかりだからな...セシリアは?」
「私?そうねー、基本は町の中でぐーたら...じゃなくて魔法の練習をしてたりね!」
「「あ、ふーん」」
森の中をシャクシャク音を立てながら3人が歩いていると、それなりに近い距離から大型生物の足音が聞こえ始める。二足歩行であることは間違いない。
「ん?オークか?確か依頼には1匹程度だって...」
「でも、とりあえず斃す必要があるでしょ?」
「そうだな、冬になって食料が減ったら近くの村に出てくる可能性もあるし...ダンいけるか?」
「あぁ!大丈夫、今度こそ活躍して見せるさ」
「そこまで気張らなくてもいい、とにかく相手は腕力が強い。1撃で決めようとせずに戦うんだ」
「わかった」
3人が身を屈めて話していると、1匹のオークが森の奥から歩いてくるのが見えた。
(木が多くて狙撃が難しいな...)
ローレンは立木から半身を出し、ライフルを構える。オークとの距離は35メートル前後。
オークは止まらずに歩いているため、ほんの少しだけ歩いている方向に偏差を取る必要がある。
だが、森の中だけあっていくつもの木が射線を塞いでしまう。
ここだ。と決めたポイントに照準を合わせ、オークが来るのを待つ。
息をすぅっと吸い、スッと吐き止める。視界の端にオークが入り、射線へと踏み入る瞬間に引き金を引く。
――――パァンッ――――
乾いた射撃音が森の中を駆け抜け、何度か起伏に反射してこだまする。
「クソ!外した!」
放たれた弾丸はオークの腕を掠めただけにとどまり、ダメージ与えることすらできていなかった。
「ファイアーアロー!」
攻撃を外したローレンに変わってセシリアが魔法を発動させる。火魔法で最も一般的な攻撃魔法の1つである、ファイアーアローだ。
形成された炎の矢はオークに向かって飛翔し、右足へと着弾する。
着弾すると同時にダンがオークへと向かって駆け出す。
オークとダンの距離はおよそ15メートル。ローレンは空薬莢を排莢して次弾を薬室へと送り込み、すぐさまオークへと狙いを付けて引き金を引く。
2発目の弾丸はオークの腹を撃ち抜く。オークはその衝撃でよろめきながら膝をついた。
ダンはオークの元へと駆け寄ると、腹を押さえて膝をついているオークに向かって斧を振り下ろす。
斧の威力は十分で、膝をついていたオークの頭をたたき割ることに成功する。
オークは割られた頭から大量の血を噴出させ、その場で倒れる。
オークの首から上はぐちゃぐちゃに変形して、大量の血液やら髄液やらが流れ出ている。
「ウ、ウヴォエェ」
ダンは自らが潰したオークの頭部を見て、鉄錆の臭いに堪えきずに嘔吐する。冒険者ならだいたいの人間が通る道である。
ローレンはダンの背中を擦りながらも、念のためにオークを蹴飛ばして生死を確認する。
無論、頭部を叩き潰されているオークはピクリとも動くことはなかった。
「ダン、大丈夫...なわけないか」
「ウブゥエェ...ゲッホ、ゲッホェ」
ローレンはダンの背中を擦り、やがて落ち着くのを見て倒木へと座らせる。
「少し休憩だな。休んでていいぞ」
「わ、悪いな...」
ローレンはオークの討伐部位を剥ぎ取り、セシリアはオークの死体に火をつける。
相も変わらず、一瞬で燃え上がっては灰へと還っていくオークの死体。体外へと流出している血液などは燃えていないところを見えると、やはり何らかの条件があり、死体が灰へと還っているのだろう。
「ん?くっ!まずいなもう1匹だ」
「え?あ、ほんとだ。どうする?」
「どうするって言ったてな...1度引いてギルドへと報告するべきか?」
「でも、もうこっちに気が付いてるみたいよ」
新手のオークはローレンとセシリアに気が付くと、走って接近してくる。
たゆんたゆんと揺れる肉腹が酷く滑稽ではあるのだが、それを言っている暇はない。
「迎撃する、ダンがあの状況じゃ下手には逃げられない」
「わかった。森の中だからあんまり強力なのは撃てないんだけど...ファイアーアロー!」
セシリアはオークが走っている地面へと向かってファイアーアローを放つ。
着弾と同時に一瞬だけ炎が上がり、オークの視界を奪う。
ローレンは着弾と同時に左へと走り出す。
オークは炎の矢を放ってきたセシリアに向かって止めていた足を動かし始める。
対してセシリアは右後方へと下がって行く。
ローレンの存在をファイアーアローの火炎によって忘れてしまったオークは、後方からの大きな炸裂音聞いた途端に意識を喪失する。
「オークって意外と頭悪いんだな」
「えぇ、まあ視界からいなくなっているローレンを気にしないくらいにはバカなんじゃないかな?」
後頭部から穿たれた穴が額を貫通している死体を見ながら2人は苦笑する。
「さっさと討伐部位を剥ぎ取って帰ろう。この感じだと3匹だけじゃない気がする」
「同感ね」
先ほどと同じようにローレンが右耳を剥ぎ取り、セシリアが死体に火をつける。
「あぁ、燃やした時の煙を察知して来たのか」
「まぁ、そのくらいの知能はあるみたいね」
「ダン、大丈夫か?」
「あ、あぁ。まだちょっと頭が痛いんだけど、歩けるよ」
「じゃあ早くいきましょ、ギルドへも報告しないといけないし」
3人は森の外へと小走りで向かった。
因みに、この世界のオークは人間の女性にあんなことやこんなことはしません。
オークから見た人間はただの肉塊で食糧です。腐らないように生かして貯めておく、くらいの感覚で捕まえておく時もありますが、基本は即・殺・喰。
あと、オークが後からやって来たのはライフルの銃声のせいだと思うんすけどぉ、ローレンェ...




