第91話
「そうどおふ?」
ソードオフショットガンというのは、Sawed off つまり『切り落とした(のこぎりなどで)』の意味を持っている。銃身と銃床を短く切り詰めることによって携帯性や隠匿性に特化させたショットガンだ。
ソードオフショットガンにも様々な種類があるが、ローレンが今回提案したのは水平二連の元込め式のショットガンだ。
「...なるほどな。ライフルだけだと至近距離での戦いが難しいか、じゃあ普通のショットガンも持っていったらどうだ?」
「ライフルとショットガンを一緒に持って機敏に動けるほど体が大きくないんだよ」
「あ、そりゃそうだな」
「とりあえず、これが設計図ね。弾は今までのショットガンと共通のものを使うから、新規弾薬の設計は必要ない」
「わかった。さっそく取り掛かろう」
「それともう一つ」
「なんだよ!まだ何かあるのか?!」
「ライフルの先につける銃剣を頼みたいんだけど」
「銃剣?」
「ライフルって細長いでしょ?だから銃口の下に槍の矛先みたいな刃物を付けるんだよ」
「あー。なるほど、刺突用の剣を小さめに作ればちょうどいいかもな」
「それをグリシア合金製で頼もうかなと」
「わかった。これで今度こそ終わりだよな?」
「う、うん、まあね」
「よし、じゃあさっそくドミニクたちを呼んで製作に取り掛かるか」
「あ、そういえば他の3人は見てないね」
ローレンはここ最近、ダッソーの鍛冶場に他のドワーフたちがいるのを見ていなかったことを思い出した。
「あいつらは、高炉の方の手伝いとか新人鍛冶師に教えたりとかしてるぞ。それなりに稼ぎもいいみてぇだが、新しい武器の開発だって声を掛ければすぐに集まってくるさ」
「そ、そうなんだ。俺としては嬉しい限りだけど、無理はさせないでよ?」
「あぁ」
ローレンはそれだけ頼み、開発資金を布袋に包んでダッソーに渡し、鍛冶場を出た。
翌日、まだ日が昇り始める時間にローレンは自宅を出て冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの中には眠気眼で受付に座っているジーンと、2人のギルド職員がクエストボードに依頼書を貼り付けていた。
受付にいたジーンに見えるように軽く手を振り挨拶し、そのままクエストボードへと向かい、何か良い依頼がないかと探し始めた。
「ローレン、久しぶり」
クエストボードを眺めていると、唐突に背後から声を掛けられる。振り向くと、ピンクブロンドの髪に白いローブのフードを被っている魔法使いの女、セシリアが笑顔で挨拶してきた。
「あぁ、久しぶり。って言うほどでもないと思うけど」
「まぁ、そうかもね。ところでこれから何か依頼を受けるの?」
「あぁ。新しい武器のテストも兼ねて、大型のモンスターの討伐クエストでもないかなって」
「ふーん、新しい武器ねえ。ここら辺で大型モンスターっていうとやっぱりデッドボアかな?」
「あぁ、デッドボアの討伐依頼でも出てないかな...」
2人は依頼書を貼り付けているギルド職員の横へと行き、貼り付けている依頼を見て行く。
ローレンとセシリアがクエストボードを眺めている時、ローレンと同年代くらいの少年が、ギルドの中へと入ってくる。
少年は受付嬢のジーンがいるカウンターへと向かった。その後ろの方ではローレンとセシリアがあーでもないこーでもないと受ける依頼を精査している。
「あ、あの、いいですか?」
「はい、依頼ですか?登録でしょか?」
「登録を」
「ではこちらの用紙に名前と年齢、使用する武器や特技を書き込んでください。代筆は必要ですか?」
「いえ、大丈夫...だと思います。変なところがあれば指摘してください」
少年は少しだけ不安げな表情を浮かべながらも、用紙に書き込み始めた。
「お、これでいいんじゃないか?」
「なになに?オーク討伐依頼?いいんじゃない、オークなら大型って程ではないけど、明らかに私達人間よりは大きいから」
「じゃ、これで決まりだな」
2人は依頼書を引き剥がし、受付カウンターへと向かった。
そこにはローレンと同年代くらいの少年がジーンから手解きを受けつつ、冒険者の登録用紙に書き込んでいた。
朝の早い時間だったため、他のカウンターは空いておらず、2人は少年の後ろに並んだ。
ジーンはローレンとセシリアに気付くと、軽いジェスチャーで『ごめん』と手を動かすが、2人は気にしていないよと表情に出して答える。
やがて、用紙への記載が終わったのか、少年は横にずれて列を譲った。冒険者カードが作られるまで待っていてと指示を受けたのだろう。
「「あ」」
ローレンと少年の目が合うなり、2人はすっとんきょうな声を上げる。
「ローレン...久しぶりだね」
ローレンの目の前にいた少年は、ローレンの家の近所に住んでいる同い年のダンだった。
グレーの瞳と髪はが特徴的な少年で、腰には斧を携えている。中肉中背で至って普通の少年だった。
「あぁ、ダン...久しぶりだね」
ローレンの目の前にいるダンとローレンは仲の良い友達だった。ローレンの家の近所には同世代の子どもがほとんどいなかったため、友達と言える人が少なかったのだが、ダンは確実に友達と言える関係であった。
だが、ローレンが前世の記憶を補完されて以降、銃を作るために忙しくなり、やがて冒険者へとなってしまった。そのため、ダンはローレンと疎遠になってしまっていたのだ。
ローレンも、彼と会わなくなってしまったことを負い目を感じていたため、緊張してしまう。
「冒険者になるのか?ダン」
「ローレンに先を越されてばっかだけどね...」
「...」
「あぁ!依頼を受けるんだよね?邪魔してごめん」
「いや...それより、どうせなら今から一緒に依頼を受けないか?」
ローレンはダンに感じていた負い目からか、それとも単純に仲直りしたいからか、依頼を一緒に受けないかと持ち掛ける。
「あはは...僕が言っても足手まといになるだけだよ。我流で練習してはいたけど、実戦はほとんどないんだ」
ダンはぶら下げた斧をトンっと叩きながら、俯いて答える。
かつて仲が最もよかった友達が、今となっては町でも名を知られるようになってきていることが嬉しいのだが、同じくらいモヤモヤとした感情がダンを支配している。
「一緒に連れて行くのか?」
ダンの方を見ていたローレンはカウンターの奥から出てきていたリカルドに気が付かず、一瞬だけ驚く。
「リカルドさん。いや、断られちゃったよ」
「今の話の流れ的には断られてるわけじゃないだろ」
ローレンは、断られているわけではないな、と言われてみれば確かにそうだと気が付く。
「ダン、行こうぜ。足手まといだなんて思わない、むしろ来てくれないか?俺とセシリアだと前衛がいないんだよ」
「い、いいのか?」
「あぁ、そう言ってるだろ」
「ありがとう。行くよ」
ダンは笑顔でローレンの誘いを受ける。ダンのモヤモヤとした感情はまだ残っているが、それでも今はいくらか和らいでいるように感じていた。




