第87話
ローレンはテオたちに向かって手を振り、ゴブリンを始末したことを伝える。
ゴブリンの右耳を剥ぎ取り、鞄の中へとしまうと、死体を集めてきとうに火をつける。
ゴブリンの死体は瞬く間に灰へと還っていく。
「ご苦労」
テオが先頭に立ち、伯爵を含め馬車なども前進してくる。
その後何度かモンスターに遭遇するも、そのすべてをローレンが斃し、夕方になる少し前に目的地である、『秘境の花園』へと到着する。
「これが...ダンジョン?」
「はい、基本的に花畑の中にはモンスターは確認していませんが、学者たちの話によるとダンジョンの創世期の姿だということです」
「なるほどな」
秘境の花園には既に前線基地のようなキャンプが設置されており、冒険者たちや坑夫たちが泊っているようだ。
ローレンも、このキャンプ設営に参加していたが、あくまでも護衛だったため大したことはしていない。それに報酬もそこそこと言った感じだった。
「私たちはキャンプから少し離れたところに野営しよう。迷惑はかけたくないしな」
「わかりました」
ローレンと騎士たちは、キャンプから少し離れたところにテントを張り、焚火を起こす。
「ところでローレン、この花畑にグリシア鉱石の鉱脈があるのかね?」
焚火を囲い、全員で夕食を取っていると、ガーランド伯爵がローレンに尋ねる。
「いえ、花畑の奥にある洞窟の中です」
「洞窟?それがダンジョンの本体か?」
「わかりません。グリシア鉱石の鉱脈があるところまでしか行っていないので」
「そうか...では、明日は軽くダンジョン内を案内してくれるか?」
「ダンジョン内をですか...」
「うむ、何か問題があるか?」
「いえ、その、モンスターがいないとはいえ、ダンジョンであることには変わりないのですが...」
「私も、閣下を危険な場所にお連れするのは気が進みません...」
「2人とも心配し過ぎだ。私だって若いころは剣を以てモンスターと戦ったこともあるんだぞ。それに、私がもし怪我をしたとしても、責任を負わせるようなことはしない。安心してくれ」
「そこまでおっしゃるなら...」
「...気は進みませんが、わかりました」
ローレンもテオも渋々ながらも、ダンジョン内の案内することが決まった。
翌日、テントから出ると秋特有のいわし雲が広がっている空が見え、ローレンは眠気を押し殺しつつ思いっきり伸びをして体をほぐす。テントの中で寝るのはやっぱり体が痛くなるが、野宿よりはマシだろう。
軽く朝食をとったローレンは念のため、冒険者たちと坑夫たちがいるキャンプへと向かう。ガーランド伯爵が来ていると伝えるため、彼の騎士であるテオにも同行してもらった。
「...というわけでね」
「そうか、わかった。無礼がないようには気を付けるが、大丈夫か?」
「まぁ、ダンジョンとは言ってもモンスターは出ないからね。ていうかヘンリク、久しぶりだね」
「あぁ、お前もなローレン。あの時あの3人に出会ってなかったらこんなにおいしい仕事を逃していたのかと思うと...」
「運が良かったね。お互い」
「そうだな。因みに俺は雪が降る前にヘルアインに戻る。春になってこっちでも仕事があればまた会う機会もあるだろ」
「あぁ、ヘルアインってどんなところなんだっけ?」
「山の麓にある町だ。町って言うほど大きくはないんだけど、炭鉱があるからそれなりに人口が多いんだよ」
「へぇ...あ、そろそろ行くよ。またどこかで」
「あぁ。ヘルアインに来る機会があったら俺の家に来るといい、御馳走を食わせてやる。お前らのおかげでかなり稼がせてもらったからな!」
ローレンとヘンリクは握手を交わし、軽く言葉を交わすとお互いに自らのキャンプへと戻っていった。
「では、行こうか。あまり歩くのは好きじゃないが、馬を連れて行くわけにもいくまい」
「えぇ、まあ」
「まずは洞窟へと案内してくれ、坑夫たちの働きを見学させてもらうとしよう」
「はい」
ローレンは花畑へと足を踏み入れ、洞窟の方向へと進んでいく。
ダンジョンなのにモンスターの1匹もいない花畑には、以前と少しだけ違う花が咲いているのがわかった。季節によってある程度、種類に変化がみられるようだ。冬にはどうなるのだろうか...とローレンは考えながらも、花畑を見つつ洞窟へと向かった。
「ここです」
「ふむ、いかにも洞窟だな」
「ローレン、先頭を頼む、トーマスが2番目、閣下は3番目にお願いします。ルフィナがその後ろに、私が殿だ」
「わかった」
一行は隊列を作ると、ローレンから洞窟の奥へと進んでいく。
暗い洞窟内をランプで照らしながら進む。
グリシア鉱石の鉱脈がある場所では、既に抗夫たちと冒険者が作業を進めている。
以前よりも、大きくえぐられている壁を見るに、既にかなりの量が採掘されているのがわかった。
「ここが、他の壁と見分けがつかないな」
ガーランド伯爵は抗夫たちを10分ほど眺めると、満足したのか、洞窟の出口へと向かってく。
入って来た時とは逆に、テオが先頭に立った。
どうということもなく洞窟から出て、花畑を抜けキャンプへと戻った。
「埋蔵量はかなりありそうだな...」
ガーランド伯爵は何かつぶやき、考え込んでいるようで、ローレンは邪魔にならないように距離を置いた。
「では、クラムへと戻ろう。来た時と同じように馬に乗っていくぞ」
(え、もう戻るのか。なんか忙しないな...)
ローレンは文句の1つも言わずに、表情を変えることなく頷き、クラムへと向かった。
昼前に秘境の花園を出た一行は、日が沈む数分前に、クラムへと到着した。




