第86話
秋も深まる朝、空気は澄み渡りどこまでも続くかのような青空が広がっている。
そんな中、ローレンは欠伸をしながら思いっきり背伸びをして背中の凝りを解している。
ローレンは町長の家の前でライフルを取り出して点検を始める。おそらく異常はないだろうが、念には念を入れて確認していく。
薬室内に異物が入っていないかを確認してボルトハンドルを握って前に押し出し、最後まで押したところでボルトハンドルを倒して閉鎖する。
弾丸の入っていないライフルの引き金に指を掛け、引く。トリガープルは剛性感がある感触で、非常に引きやすくなっている。こういった細部までのこだわりがドワーフの信条だとダッソーたちも自負している。
ボルトハンドルを起こして閉鎖を解き、ボルトハンドルを手前に引いて薬室を露出させる。
以上の動きを何度か繰り返し、ボルトの動きに異常がないことを確認する。
この一般的なライフルは弾倉上部から弾を1発ずつ、またはクリップで5発を装填する。
弾を込めた後は上記のように引き出されたボルトハンドルを前方に押し出していくと、弾倉内からボルトが弾を1発だけ引っかけて薬室内へと装填する。ボルトハンドルを倒してボルトを閉鎖させると発射準備ができる。
引き金を引くと撃針が弾薬の雷管を叩き撃発、弾薬の中の火薬の爆発力によって薬莢から弾頭が射出される。
弾頭を発射後、ボルトハンドルを上げて手前に引くと閉鎖されていた薬室から薬莢が抜け、エクストラクターと呼ばれる出っ張りに引っかかり外部へと排出される。
これが一連の流れだ。
「異常なしと」
ローレンは家の前で確認を済ませると、町長の家の中へと戻るために振り返るが、玄関には既にガーランド伯爵が出てきていた。
「ローレン、今日はよろしく頼むぞ」
「はい、えっと、その、朝食は?」
「トビアs...いや、町長に用意してもらった。私は馬車の中で食べるが...すまないが君には歩きながら食べてもらおう」
「わかりました」
その後、町長の家からぞろぞろと騎士たちが出てくる。
そして家の前には、いつの間にやら用意されていた伯爵の馬車が止まっている。騎士たちの馬も用意されており、準備万端といったところか。
道がわからない彼らに変わって、ローレンは先頭を歩き始める。町の中ではちょっとした見世物のような感覚だったが、町から出てしまえば好奇の視線から逃れられた。
町から出たところで歩きながら弾薬を装填しておく。
町から出てあぜ道をひたすら進んでいく。舗装されていない場所を通る場合、やはり馬車は不便であった。
「もうよい、馬車につながれた馬を1頭外してくれ」
ガーランド伯爵が馬車の中から御者をしている執事に何かを話している。やがて馬車が止まると、伯爵は馬車から飛び降り、馬車につながれていた馬を1頭外し、自ら鞍を取り付けて馬に飛び乗る。
「ふむ、やはり馬車の揺れより心地よい」
「流石は閣下、騎兵大体を率いていただけあって馬の扱いには長けています」
「テオ、褒めても何もでないぞ」
ガーランド伯爵はまんざらでもないような表情だ。
彼は馬車の前に出ると、自らの騎士に囲まれるようにして馬を進めた。馬車は人が乗っていないため、ある程度速度を出すことができるようになり、ローレンも少しだけ歩く速度を速める。
この調子ならば、8時間ほど、夕方になる頃には到着するだろう。
「あ。この先にゴブリンが、数は4から5くらい。前方約150メートルです」
順調に歩みを進めていたが、町から3時間ほど行ったところでモンスターと接触する。
「どうする?迂回もできるが...」
「私としては撃破して進んでも良いかと、閣下が騎乗しているが、ゴブリンほどなら問題はないだろう」
「ふむ、私としてもゴブリンほどでわざわざ迂回は必要ないと思う」
「閣下もこうおっしゃられている。私たちはいったんここで待機、相手がモンスターなら専門のローレンに任せる。終わったら手を振って合図してくれ」
「わかった」
ローレンは一行から離れ先行し、気が付かれないようにゴブリンたちへと接近していく。
50メートルほどまで近付いていき、ローレンはライフルを構える。
ライフルの照準器は、一般的なオープンサイトと言われるタイプのものだ。
銃の上部後方に凹型のリアサイト、前方に凸型のフロントサイトがある。構えて覗き込み溝の間に照準を合わせて使う。
この銃のオープンサイトはリアサイトにU字型を、フロントサイトは細い四角型を採用している。
照準にゴブリンの1匹を合わせて呼吸を軽く整え、引き金を引く。
―――――――――パァアアッン―――――――
乾いた発射音が辺りに響き渡る。ゴブリンたちはその音に気が付き振り返ろうとするが、仲間の1匹の頭部に穴が開いているのに気が付く。
頭部に穴の開いたゴブリンは既に白目を剥いており、身体から力が抜け頭から地面へと倒れる。
ゴブリンたちは混乱し、すぐに動くことができなかった。
ローレンはライフルのボルトハンドルを引き排莢、空薬莢は独特の金属音を立てて空中へと排出される。
硝煙が晴れるよりも早くボルトハンドルを押し戻し、ライフルを構えなおす。
混乱しているゴブリンたちは未だに動き出さずにじっとしている。というよりは目の前の現状が理解できずに固まっているようだ。
動きが止まっているゴブリンに次弾が着弾する。飛翔した弾丸はゴブリンの胸部にあたり、ゴブリンは跪き倒れる。
大きな音がした途端倒れた仲間のゴブリンを見て、状況を理解し始めたゴブリンはさらに混乱し始める。
その後、連続で飛翔してきた弾丸によって、5体いたゴブリンは最後の1匹となる。
周りが仲間の死体だらけになり、恐怖と焦りを覚えたゴブリンは咄嗟に逃げ始める。が。
発射音と当時に飛んできた弾丸によって後頭部を貫かれて絶命した。
「ワンショットワンキルだ」(イケボ風)




