第83話
「ローレン、いきなりガーランド伯爵の護衛依頼を受けたと聞いて驚いたよ」
「父さん、ごめん。時間にあんまり余裕がなくて...ていうか、急に頼んできたリカルドさんに文句言ってよ」
レナートはローレンが冒険者として慣れてきた頃だと思っていたら、いきなり伯爵の護衛依頼と聞かされて正直言って不安でいっぱいだった。
と言っても、他の子どもよりも礼儀については教えもらっていたこともあってか、ガーランド伯爵がローレンについて憤りを感じているようなことはなかった。というよりも、前世を日本人として過ごしたローレンからすればそこまで難しい話でもなかったのだが。
「じゃあ、町長とお店を貸し切りに行ってくるから、くれぐれも頼むよ。若き冒険者さん」
「なんかその言い方嫌な感じだよ」
レナートと町長は日が暮れ始めている町へと繰り出していった。お店を貸切れるといいのだが...
「あれがローレンの父親か。それなりに良い身のこなしをしているな」
「どういうこと?ルフィナ」
「元は剣士か?たぶん元冒険者じゃないか?」
「よくわかったね。って言ってももう何十年も前の話なんだけどね」
ルフィナのような武人からすれば、少し身体の動きを見るだけでも、相手がどれほどのモノか見抜けるのだろう。既に掌からは剣でできたタコも消えているはずだろうし。
「まぁ、立ち話していても仕方がない、他の騎士たちが休んでいる部屋に行こう」
ルフィナは廊下を歩き、ガーランド伯爵がいる部屋の向かい側の扉を開けて入って行った。ローレンもそれに続いて部屋に入って行く。
部屋の中にはテオ、トーマス、ライナーがそれぞれ鎧の手入れをしたり、葡萄酒を飲んでいたり、何かの本を読んだりしていた。
護衛してるんじゃねーのかよと突っ込みたくなったが、それぞれの騎士たちは自分の手の届く範囲に自らの愛剣を置いている。もしもの時はそれを取ってすぐさま動けるようにしているのだろう。
「ふぅ、相変わらず野郎ばかりでむさ苦しいな」
「ルフィナってすげぇ口悪いな」
ローレンは部屋に入って開口一番ルフィナが言った言葉を聞いてドン引きしている。
「元からこんなもんだぜローレン。それよりも、明日は俺が非番なんだが付き合ってくれるかローレン?」
「えっと」
「ほぅ、トーマス...貴様にはそっちの気が...」
「断じて違う!!」
「えぇ...(困惑)」
「冗談だ。本気になるんじゃない、これだからからかい涯がある」
「「...」」
ローレンもトーマスも、もうルフィナに何か言おうとはしなかった。
「ていうか、トーマス...もう酒飲んでるのか?」
「ん?これぐらいじゃ酔わないから大丈夫だ」
「そ、そうか?それならいいけど。あと明日の予定はないが、そっちでガーランド伯爵に聞いておいてくれるか?」
「わかった」
部屋の中では騎士たちがそれぞれ思い思いに過ごしている。町長たちが戻ってきて伯爵が起きるまでは実質自由時間だ。
テオは相変わらず鎧の手入れをしている、続いて剣の手入れも始めているようだ。
トーマスは葡萄酒を片手に塩で炒った木の実を食べているようだ。木の実は胡桃だと思われる。あんまり胡桃食べ過ぎるのは体に良くないと思うが...
ライナーは先ほどから本を読んでいる。題名は『英雄騎士伝説』と書かれている。ローレンも1度読んだことがある本で、内容はぶっちゃけて言えばラノベだ。もう既に使い古され続けたテンプレートをなぞる内容で、読んでいるうちに次に何が起こるかわかってしまうくらいだった。
ルフィナはソファーに座ってただ寛いでいる。特になやることなどがないのだろう。
ローレンは、とりあえずライナーが座っているソファーの隣に腰掛ける。
「ふぅ。ところでライナー、それ面白いか?」
「え?これ?つまんないよ」
「だ、だろうね」
「でも今持ってる本がこれしかなくてね」
「まあ持ってこれる本なんか1冊か2冊くらいだろうしね」
ライナーも『英雄騎士伝説』については酷評している。聞いた話では、とある貴族出身のボンボン騎士が書いた『自伝』らしいのだが、自分で出資して写本して売っていたが全く売れなかったということだ。
そりゃそうだろう。主人公が騎士になるまではひたすら訓練の厳しさについて書かれているのに、騎士になったとたんに俺TUEEEEEEEという謎の物語進行なのだ。しかも、その騎士は生涯独身だったのにも関わらず、『自伝』ではまさにハーレム状態だったのだ。
副題を付けるならば『英雄騎士伝説~落ちこぼれ貴族の妄想日記~』とかだろうか。
「はぁ。紅茶でも淹れようかな」
「僕のも頼める?」
「私も貰おう」
「紅茶か?私も貰おうか」
ライナー、ルフィナ、テオの分のお湯も沸かしながら、ローレンは外の景色を眺めた。
夕陽は完全に沈み、暗闇が窓の外を覆い始めている。他の住宅の窓から漏れ出す光が通りを少しだけ照らし、数少ない歩行者たちの灯りになっている。
一般的な住宅で使われている灯りは、通常の蠟燭と魔導ランプがある。魔導ランプは魔石や人の魔力、珍しいものでは日光を使って光る道具だ。通常のランプよりも燃料のコストが安いという利点もあるのだが、その機構はやや複雑で、通常のランプの3~4倍は重く大きいため非常に携帯性が悪い。基本は住宅内の灯りとして使われることが多い。
町長の家の客間もこの魔導ランプで、暗くなると自動的に発光するタイプになっている。もちろん使わないときはオフにできるようだが。
紅茶のお湯を魔導コンロで沸かして紅茶を人数分淹れ、カップに注ぐ。
「砂糖もミルクもないけど、どうぞ」
「ありがとう」
「ふむ、安い茶葉のようだがいい香りだな。淹れ方が良いのか?」
「私には相変わらずわからないがな...」
と、騎士たちと紅茶を嗜んで(?)いると町長とレナートが帰って来たようだ。




