第81話
ガーランド伯爵を乗せた馬車は昼になる前にクラムへと到着した。
クラムの入り口には既に町長たちが待ち受けており、リンベンの時と同じようにガーランド伯爵は町の入り口で馬車を降りる。
馬車から降りてくるガーランド伯爵に向かってクラムの町長たちと町の重役たちが膝をついて最敬礼している。
「もうよい。久しぶりだな、トビアス」
「はい、閣下。お久しぶりでございます」
「堅苦しいな、私が軍にいた頃はもっと仲が良かったと思っていたのだが...」
「閣下は相変わらず意地悪なお方です」
「はっはっは、まあ良い。ともかく、収穫祭の間はよろしく頼む」
「はっ。まずは私の自宅へどうぞ、長旅でお疲れでは?収穫祭まで3日ありますので、ごゆっくりと政務の疲れを癒してください」
「うむ、それは何よりも嬉しい。私はどちらかと言うと武官を自負しているからな、デスクワークというのは性に合わなくて妙に疲れる」
伯爵は再度馬車に乗り込むと、町長宅へと向かった。
「ローレンよ、こっちへ来とくれ」
「町長、何かあるのか?」
「予定では昨日の夕刻に到着とのことだったのだが、何かあったのかね」
「あぁ、クラムとリンベンの間にある集落はわかるよね?そこでちょっと問題があって...」
ローレンは子どもが行方不明でガーランド伯爵に捜索を命じられたことを町長に話した。
「なるほど、わかった。それと収穫祭が終わるまでの護衛は任せた」
「うん、それはいいんだけど、町の中でも護衛が必要なのか?」
「そりゃあそうじゃ、そういう依頼内容だったんじゃろ?」
「あぁ、まあそうだけど」
なにはともあれ、町長の家に着くとガーランド伯爵は馬車から降りて遠慮なく家へと入って行った。
ローレンもそれに続いて家へと入る。騎士たちも乗っていた馬を町の馬飼いに預け、家へと入って行く。
ガーランド伯爵はさっそく広い部屋へと入り、町の重役など交えてテーブルに座り、クラムの近況などを話し合っている。
「ふぅ。あっつい、グレートヘルムは本当に嫌いだよ」
「あぁ」
隣の部屋では騎士たちが鎧を脱いでいるようだ。聞くところによると、鎧を付けるのは騎士の証と言っても過言ではないくらいに重要らしく、外を歩くときには必ず身に着ける物らしい。下手に貧相な鎧を身に着けようものなら、周りの貴族に『あそこの騎士はまともな鎧も着させてもらえないのか』、などと変な噂を立てられるのだとか。ローレンは貴族にはなりたくないなと心底思った。
「ローレン、君はここの出身だったよな?」
騎士たちを横目で見ていると、一番最初に鎧を脱ぎ終わったルフィナがローレンへと話しかけてくる。
「うん、そうだけど?」
「今日は閣下から暇を貰っていてね、久々の休日なんだ。この町でおすすめの場所があれば教えてもらいたいのだが...一緒にどうかな」
「どうかなって言われてもな、俺も伯爵の護衛の依頼を受けてるんだぞ?」
「そうだが、この町の警備兵も町長宅の周りを固めているんだ、伯爵に一言言って行けば大丈夫だろう」
「そんなテキトウなぁ」
ルフィナはそういうと、町の重役たちと話している伯爵の背後へと行き、小声で耳打ちし二言三言ほど言葉を交わすと笑顔で戻ってくる。
「大丈夫だそうだ。ただし、夕刻までには戻って来いとのことだ。まぁ私もその頃には戻ってくるつもりだったから問題ないのだがな」
「いいのかよ...まぁ依頼主の許可が下りるなら問題ないか...」
「トーマス、私とローレンは町に出る。今日は私は非番だからな」
「ちぇぇ、でも俺も明日暇貰ったもんねぇ!」
ローレンは町長の方を見ると、視線で「え、行っちゃうの?」と思念を飛ばされるも、軽く手を振ってからルフィナの後を追うように町長宅から出ていく。
「ふぅ、半日も休めるなんて何ヵ月ぶりだか」
ルフィナは町長宅から出た途端、深く息を吐いて気分を切り替えているようだ。
「騎士ってのはそんなに忙しいのか?」
「当たり前だろう?騎士と言うと武のイメージが多いだろうが、割とデスクワークもあるのだ...いや、今は思い出したくない...帰ったら机の上に溜まった書類の山がぁ...」
「あ、あぁなんか悪いな」
「...うぅ...ゴホン。まあともかく今日はよろしくなローレン」
町長宅の目の前で長時間話すわけにもいかず、2人はとりあえず大通りを歩き出した。
「ところで、そうだな、もうすぐ昼時だろう?ここの町で何か美味しいものとかはあるのか?」
「ん?ルフィナはあんまり食べ物には興味ないと思っていたけど...?」
「い、いやぁ、じ、実は甘いものなら結構好きで...ね」
「あ、ふーん」
「...」
「じゃあとっておきのところに行こうか」
「ほ、本当か!それは頼もしいな!」
ローレンは以前1度だけ来たことのある飲食店へと向かった。クラムの町ではかなり新しい部類に入る飲食店でとある甘味が有名な店だ。
「ここが?」
「そうだね、実は俺も1回しか来たことがないんだけどね」
2人は店の中へと入る。店員に案内されて席に座りメニューが出される。
「ほう...あまりこういう店には入ったことがないのだが...」
「俺もこのスタイルはここが初めてかな」
ローレンは軽く嘘をつく。実際にはこの世界に転生してくる前に何度もこういった店には来ていたはずだ。だが、そういった個人的な一部の記憶は忘却しており思い出すこともかなわなかった。
「ふむふむ、ところでオススメは...?」
「このパフェっていう料理が今回の目玉だね」
「そうか、これが甘い物なのか。では牛肉のソテーとパフェを頼もうかな」
「じゃあ俺は...お、レバーがあるなぁ、あと久しぶりにパフェも食べよう」
2人は店員に注文を取ってもらうと、また話し始める。
「そういえば、ルフィナの出身を聞いてなかったね」
「私か?私は連合王国南方にある、アルシオーネ子爵領のパダンって町だ。いや町って言うよりは村なんだけど」
「結構遠いんだな」
「そうだな、馬を走らせても4日はかかるな。馬車なら1週間から1週間半、徒歩なら2週間くらいか?」
「へえ、ちなみにご両親は?」
「母は私が幼いころに。父も2年前に」
「あ、あぁ、すまない」
「いや、かまわないさ。いずれ人は死ぬものだ、それが早かろうが遅かろうが死というものは平等だ」
「軍人が言うと言葉に重みがあるな」
「そうでもないさ、帝国との戦闘で幾ばくか殺しをやったが、命というものは何と軽いものなんだと実感させられたよ」
「...」
ローレンがなんと言おうか迷っていると2人が頼んだ料理が運ばれてくる。せっかくの料理が冷めてしまわないように2人は会話を中断し、さっそく食べ始めた。




