第79話
大型犬ほどもあるカエルが沼地に横たわっている。というよりも、頭から泥の中に突き刺さっていると言ったほうが適切だろう。
ローレンはこのモンスターについて全く知らなかったため、素材の剥ぎ取りを諦めて死体を焼いた。
「さて、さっきの声がしたのはこっちの方だったと思うんだけど...」
ローレンは燃えている死体を後にし、子どもの捜索を再開した。
湿地帯を探すことおよそ1時間、ローレンは倒れている子供を発見する。
ローレンはそれを発見し、駆け寄る。息はあるようだがかなり衰弱している様子で、服もぼろぼろになっている。
「あっ」
顔を確認すると、先日ローレンがパンを分け与えた子どもだった。
(まさか...パンをあげたからついてきちゃったのか?いや、干し肉を食べるのに精一杯で俺のことなんか見てなかったはず...それに閉鎖的なあの集落の子どもがよそ者に簡単について行くとは...)
何はともあれ、ローレンはその子どもを抱きかかえ、湿地帯から山林へと戻りやがて草原へと出る。草原へと出れば集落が見え、集落にいる人間もローレンに気が付いたのか駆け寄ってくる。
「あぁ、この子です!ありがとうございやす!!」
「あぁ、無事でよかった!」
「衰弱してるみたいだから、すぐに安静にしてやってくれ」
「わがりました!ほら!お前ら急ぐだよ!」
ローレンから子どもを受け渡されると、母親と思われる女性が急いで集落の中へと入って行った。
「ありがとうございました」
「いや、礼を言われるほどのことじゃ...」
「いえ、人が少ない集落じゃし、子どもは宝なのです」
「と言われてもな...」
「私はこれでも集落の長です、私から報酬を...」
「いやぁ待ってくれ、それは受け取れない」
「なぜ君は報酬までも断る?」
集落の長と話していると後ろから突然声がかかる。ローレンが振り返るとそこにいたのはガーランド伯爵だった。彼はわざわざ集落で待っていたようだ、彼の騎士たちが護衛しているのならばローレンがいなくともクラムへと行くことは容易かったはずだったのにも関わらず。
「ガ、ガーランド伯爵」
「君は冒険者だ、報酬を受け取る資格はあるし、それ相応の働きをしている。見事に少年を連れ戻してきたではないか?どうして頑なに報酬も礼すらも拒む?」
「それは...」
ローレンはここで先日その少年に食べ物を分け与えたことを話すか迷った。
そもそもが閉鎖的な集落に勝手に入り込み、子どもに食べ物を与えた。ということは集落の人間からすれば良いことだとは思われないだろう、それにそのせいで迷子になったと言われればローレンも反論はできない。だがそれでも、ローレンは話す事にした。
「...昨日、ここで迷子になっていた少年に出会いました。どうやら腹が減っていたようで...パンと干し肉を分け与えたんです...」
「...なるほど。それで君は自分のせいで少年が迷子になったのではないかと思ったわけだな?」
「えぇ」
「目の前で腹を空かしている子どもを見捨てるわけにはいかなかったと。ということらしいぞ、集落の長よ」
「...いや、まさかあの子がそんなに飢えているとは知りませんでした...」
「この集落はそこまで貧しいのか?」
「い、いえ。ですが余裕があるわけでもありません...」
「おそらくあの少年は集落のことを思ってずっと我慢していたのではないか?働いている大人たちに余裕がないのに、無力な自分がそんなに食べていいのか、とな」
「...」
ガーランド伯爵は少年の気持ちを代弁するように話す。もちろんそれが正しいのかはわからないが、ローレンは少年の性格を見た限りではあり得ない話ではないと思った。
「それにしても、既に陽が落ち始めているな。今日はこの集落の外で野営することにしよう」
「りょ、領主様、でしたら私の家をお使いになられては...」
「いや、余裕のない集落なのだから、私がいてはさらに余裕がなくなってしまう。馬車にはいくらか食料も積んである、心配する必要はない」
「そ、そうですか...」
ローレンは少年のことが気にはなったが、今はともかくキャンプの設営を急いだ。
「なるほどなぁ」
キャンプを設営し、焚火を囲んで騎士たちとローレンが座っている。事の顛末を聞いた騎士たちはそれぞれが考えこんでいるようだ。
「私は、ローレンがしたことは間違っていないと思うがな。そもそも少年が腹を空かせていったのはしょうがないことだろう?たまたま通りかかったローレンに食い物をねだったっていうだけの話じゃないのか?」
ルフィナが話を聞いて声をあげる。
「そうだな、それにそのガキがローレンのせいで迷子になるってのもおかしいと思うぜ」
「いや、多分ですが、もっと干し肉が欲しいと思ったその少年がいつの間にかいなくなってしまったローレンを追いかけようとしたんじゃないでしょうか?」
トーマスの疑問にライナーがすぐに答える。ローレンが思っていることとだいたいは同じだった。
「ふむ、まあそうだな、誰が悪いとかなぜ迷子になったなんてことは、少年が目を覚ませばわかることだろう?」
テオが正論をぶち込むと、全員がそれに首を縦に振って同意し、焚火を囲んだ雑談を終了させ夜間の見張りに移った。
今日中に次話が投稿されます。




