第76話
「ローレン。朝だぞ」
「あぇ、うっ、眩しい」
ローレンはソファーの上で目を覚ます。それと同時に眩しい朝陽が顔に直撃する。既に朝陽が登っている時間らしい。
「あ、やべ、寝すぎた?」
「いや、大丈夫だ。今から朝食をとって出発する。すぐに準備して食堂まで来てくれ」
「わかった」
テオに促されてソファーから起き上がり、伸びをする。ポキポキっと背中が鳴り、ソファーの寝心地の悪さを主張している。床で寝ていた他の騎士たちはもっとひどかったに違いない。それでも、野宿するよりはマシなのだが。
食堂に行くと、既に伯爵以外の全員が席についていた。ローレンがテーブルに着くと、ちょうど伯爵も食堂へと入ってくる。
朝食はパンとベーコンエッグ、サラダとスープという昨日の夕食に比べるとずいぶんとあっさりしたものだったが、それでも朝食としてはしっかりとした量があった。
「町長、昨日と今日と、ずいぶんと世話になってしまった」
「いえ、このような狭い家でご満足いただけるのならば、いつでもお越しください」
「はっはは、確かに、ここの料理を食べるために年に何度でも来たいくらいなのだが、これでも領主で忙しいからな。クラムには1週間ほど滞在する、帰りにはまた寄らせてもらおう」
「はい、わかりました」
朝食を終えると、すぐさま出発となる。町長宅前に馬車が付けられ、伯爵はすぐさま乗り込む。
「では、出発致します」
御者が一言注意を促すと、馬車はゆっくりと動き出す。騎士たちもそれに続いて馬を進める。
ローレンは徒歩だったが、舗装されていない場所を進む馬車の動きはとても遅く、歩く速度とほぼ変わらない。むしろ少しだけ遅いくらいだった。
騎士たちはグレートヘルムに全身鎧を身に纏い騎乗している、秋も深まるこの季節ではあるが、鎧の中は暑そうだ。それでも愚痴1つこぼさずにいられるだけの精神力を持ち合わせている、さすがは騎士。などとローレンは思っていた。
しばらく進んでいると、前方の茂みが不自然に動いたのを確認する。
「前方の茂みで何か動いた」
「本当か、くっ、これだから視界が狭まるグレートヘルムは...」
「どうする?」
「馬車の速度を緩めるからその間に...ライナーとローレンが向かってくれ」
「了解」
「わかった」
ライナーは騎乗したままローレンと前方にあった茂みへと近付いていく。
動いた茂みから10メートルほどまで近寄ると、茂みからゴブリンが4匹飛び出してくる。まず最初に威勢よく飛び出してきたゴブリンは、騎乗したライナーからの振り下ろしの剣を浴びて真っ二つに割れる。一体その剣はどういう切れ味をしているのだと言いたくなるが、ローレンは立て続けに茂みから飛び出してくるゴブリンを1匹ずつ撃ち落としていく。
わずか数秒のうちにゴブリンたちは血だまりへと変貌し、錆び臭い臭いを周囲に放っている。
「ローレン、馬が驚いて暴れそうだったよ。そんなに音が大きい武器とは思ってなかった」
「あぁ、すまない。火薬を中で爆発させてるから音が大きいんだ。それよりも、その剣の切れ味のほうが驚きだったけどな」
「これかい?まぁね、伯爵が大金払って買った剣だからそれなりにすごいものなんだろうね」
「へぇ。じゃあこいつらは焼却処分するから先に行っててくれ」
「わかった」
ローレンはゴブリンの死骸をてきとうに集めて火をつける。すると、すぐにその火が死骸へと燃え移っていき、やがてゴブリンたちを灰に戻していった。
「...」
ローレンが馬車の方へと戻ると、なぜか馬車が止まっており、中からガーランド伯爵がゆっくりと出てくる。
「今の音はローレンが?」
「はい」
「ちょっとその武器の使っているところを見せてくれるか?」
「...わかりました」
先ほどの音を聞いていたであろう伯爵はその発生源であるローレンに実演を求めた。少々乗り気ではないにしろ、貴族の言葉を無視することはできず、近くにある立ち木に1発撃ち込む。
――――ドムッ――――――――
鈍い音ではあるが、轟音が響き渡る。銃声は付近の丘に反響し、やまびこのように何度か繰り返す。撃ち込んだ立ち木には銃弾が埋まっている弾痕が見える。やがて硝煙が晴れるとローレンはショットガンを肩に掛ける。
「なるほど、火薬で鉄の弾丸を飛ばす武器。か」
伯爵はローレンのショットガンを興味深そうに見るが、やがて馬車へと戻り、馬車は再び動き出す。
(あまり軍事転用はして欲しくないんだけどな...)
ローレンとしては、モンスターを倒すために開発した武器で人間を殺すというのはあまり気が進まない。もちろん殺す人間が人外鬼畜の悪人であれば話は別なのだが。
もし他国の兵士を殺すとなると、難しい話になる。軍事と火器は密接な関係を持っていることは明らかで、第一次世界大戦時の死傷者数はそれ以前の戦争と比べると飛躍的に増加している。
さらには第二次世界大戦ではそれらの火器技術の発展、航空技術の発展でさらに死傷者を増やしていくのが、人間の業であった。
理由はなんであれ、敵を殺すのが戦争。それは有史以前から変わらない世の理だ。やれ宗教だ、民族だのといくら理由を付けようとも、人間を殺すことを正当化するだけで殺す事実は変わらない。
「はぁ」
「どうしたんだ、ローレン」
「あぁ、いや、なんでもない」
つい出てしまったため息をテオに聞かれてしまったようだが、ローレンは適当に誤魔化す。この話をしてもこちらの世界にいる人々には理解してもらえるのか微妙だった。
「お、もうすぐ中間地点の集落に着きますよ」
「あ、もうこんなところまで来てたのか」
考え事をしていたためか、いつの間にかローレンがリンベンに向かうときにも立ち寄った小さな集落へとたどり着いていた。




