第74話
リンベンの町長の家の前で、ガーランド伯爵の騎士たちと自己紹介をしたあと、ローレンは町長の家へと入って行く。
先ほどの応接間ではなく、さらに広いリビングルームのような場所にガーランド伯爵と町長、町の重役数人がテーブルを囲んで座っている。
「騎士の方々は、こちらへどうぞ。お湯と布を用意しています」
町長の家にはメイドはいないが、今日のために雇ったお手伝いさんが騎士たちを別室に連れて行く。
「ローレン、俺たちは鎧を脱いでくるから、護衛を頼む」
「わかった」
テオはローレンにそう告げると、隣の部屋へと入って行った。鎧の中は蒸れ易く汗を大量にかいているのだろう。
「ふぅ。では、今年の作物の具合はどうだ?」
「はい。昨年よりもやや良く、収穫量は例年の2割増しほどです」
「そうか。作物の種類も例年通りか?」
「はい」
「そうか。では決められた税を納めるように」
「それと、以前の飢饉の際の援助分をお返しいたします」
「いや、それは受け取れない。そもそも貴族の務めとして飢饉の際の蓄えを備えておくのが当たり前だ、それに以前の飢饉は冷害だったろう、人災だったのなら援助分を返却するべきだが、天災はどうにもならないだろう?」
「お心遣いありがとうございます」
「気にするな。私の領地は比較的豊かな土地が多いからな。税収にはそこまで困ってはいない。それに開発する土地もあまり残ってはいないしな、税はもっぱら蓄えとして金に換えているのだ」
ガーランド伯爵と町の重役たちは税として納める作物の話などをしているようだ。普段は税監督官がやってくるのだが、収穫祭に出席する町やその途中に通る領地に関しては自らが直接赴く、というのがガーランド伯爵領の特徴の一つでもある。
「閣下、そろそろ夕飯の支度ができますが、どういたしますか?」
「ふむ、リンベンの豆や根菜を使った料理か?では騎士たちの準備が終わったら頂こう」
「わかりました」
町長の奥さんと思われる老婦人が会話が途切れた瞬間に割って入る。
やがて騎士たち4人の準備が終わったようで、ぞろぞろと隣の部屋からガタイの良い人間たちが流れ込んでくる。
(あれ?伯爵と同じ部屋で騎士も食事するのか?あ、いや護衛のためか)
「よし、では全員が揃ったところでいただくとしよう。頼む」
「はい、すぐにお持ちいたします」
町長夫人が台所の方へ下がっていくと同時に、騎士たちも席に着く。
(え?)
「どうした、ローレンよ。君も座りたまえ、料理が来てしまうぞ」
「え、えぇと、よろしいのですか?」
「君が立ったままでは食事が始められないではないか」
「は、はぁ」
ローレンは仕方なく、町長の横の空いている席に座る。幸いにも円卓となっているテーブルでは、上座や下座などがほとんど関係ないため、座る場所に困ることはなかった。
連合王国の作法では、基本的に円卓に上座はないため、ガーランド伯爵のようなタイプの貴族がよく使うのだとか。諺の1つに「テーブルが丸けりゃ人柄も丸い」というのがあるくらいだ。
ただ、ガーランド伯爵はフランク過ぎるとローレンは思った。流石に冒険者と同じテーブルに着くとは思ってもみなかった。
ほどなくして、町長夫人が様々な料理を運んでくる。まずは豆のスープだ、トマトベースのスープに何種類もの豆が使われており、そのほかにも様々な野菜が入れられているようだ。
ガーランド伯爵は運ばれてきたスープを前に、『連合王国式いただきます』の祈りのポーズ。
それを見て、その場の全員がそれに倣って祈りのポーズを。
「今年もお恵みを与えてくれることに感謝を」
ガーランド伯爵が感謝の言葉を述べると、全員がポーズを解いて食事を始める。
伯爵がまずはスープを一口、さらには運ばれてきたばかりのパンをバケットから取り出してちぎって食べる。汚い食べ方ではないが、貴族らしからぬその作法にローレンは困惑しつつも、目の前に運ばれてきたスープを食べる。
(あえてフランクな作法を取ることで、周りの庶民に気軽さをアピールしているのか?それとも単純にこういう人なのか...)
豆のスープはトマトの爽やかな香りと濃厚な豆の味がマッチしている。さらにそこに焼きたてのパンを食べれば誰でも幸せになれることだろう。スープの中には肉が沈んでいて、それを口の中に入れると、肉汁の旨味と沁み込んだスープが一気にはじけて味覚を蹂躙する。とにかくパンが進むような味付けだ。
次に出てきたのは豆をふんだんに使ったサラダだ。黄色、赤、白、緑、と彩りの良い豆とレタスのような葉野菜、紫色のニンジンが皿を彩っている。酸味と塩気の効いたドレッシングがかかっており、豆のわずかな甘みと程よくマッチしている。子どもでも大人でも野菜嫌いでも食べられるようなサラダだ。
サラダを堪能していると、次に運ばれてくるのはマッシュホクイモだ。だが、そのマッシュされた芋の中にも小さな黄色い豆が入っており、味のアクセントになっている。
メインディッシュとして運ばれてきたのは、テーブルの中央を占領している大きな肉の塊だ。その大きな肉の塊に町長がナイフを差し込み、切り分けていく。すると、中から様々な豆が肉汁と共に溢れてくる。思わず「おぉ」と声が出てしまったのはローレンだけではなかったようで、伯爵や騎士たちも驚きと好奇心に満ちた表情で切り分けられる肉をじっと見つめている。
まずは伯爵に切り取られた肉が渡される。伯爵は満面の笑みで皿を受け取り、ナイフとフォークで食べやすい大きさに切り分けて口へと運んでいる。
切り分けられた大きな肉は、デッドボアの肉のようで、肉の中に豆とニンジンやカブ、香草を詰めて蒸し焼きにしたリンベンの伝統料理とのことだ。肉と豆を同時に口に入れると、肉の強い旨味と香草の香りが突き抜け、豆のわずかな甘みがそれを和らげていく。ニンジンにも肉汁が浸み込んでいるようで、口にいれて噛んでみると肉汁があふれ出し、その舌に旨味と甘みを感じさせてくれる。カブにもよく火が通っているようで、苦みが肉汁やその他の食材の出汁で緩和されているためとても食べやすい。
食べ終わってみれば、ものすごい満足感が腹を満たしている。それはローレンだけではなく、このテーブルに座っている全員がそうだったことは言うまでもなかった。
書いてたらお腹が減りましたので卵かけご飯食べます。




