第72話
太陽が頭上を通り過ぎ、少しずつ影が伸び始める頃にローレンはリンベンへとたどり着いた。
リンベン。ガーランド伯爵領にある町の1つ。主産業はクラムと同じように農業、主に根菜類、豆類の栽培が盛んに行われている。
周辺地域にはゴブリン程度のモンスターしか出現しないことから、クラムよりも安全な町になっている。それでもゴブリンの被害から農地を守るための冒険者ギルドが設置されている。
人口はおよそ800人ほどの小さな町だ。
(門兵とかいないのかな、警備兵も見た感じいない?)
町はクラムと同じように収穫期真っ盛りで、町の周囲にある農地で農民たちが畑から何か掘り起こしている。
カブやニンジン、何かの豆などが畑から運ばれているのを見ると、畑ではそれらが栽培されていたらしい。
なにはともあれ、ローレンは町の中心部へと歩いて向かう。
「すまない。町長さんの家はどちらだろうか」
「町長かい?中央広場の向かいにあるちょっと大きな家だよ、行けばわかる」
「ありがとう」
町の住民は比較的フレンドリーなようで、町の住民ではないローレンにも気軽に話している。
(さっきの集落とは結構違うなぁ)
中央広場へと出ると、町長の家と思われる建物がすぐに見つかる。
クラムの町長の家と同じように、周囲の家よりも一回りほど大きく、庭があり、建築素材に良いものを使っている、と一目でわかるようになっているようだ。
少しだけ緊張しながらも、ローレンは町長の家の扉をノックする。ドアノッカーは鳥を象ったものになっている。
「どなたかな?」
出てきたのは、白髪で白いひげを伸ばした人のいい感じのお爺さんだ。
「クラムから来た冒険者です。これを渡せばわかると」
ローレンは出てきたお爺さんに渡されていた封筒を渡す。町長と思わしきお爺さんは封筒を開封し中身を確認する。
「そうか、君が。とりあえずあがりなさい。お茶でも出そう」
「お邪魔します」
中に入り、応接間のような場所に通されてソファーへと腰を下ろす。
「紅茶でよいかな?」
「お構いなく」
「砂糖はいるかい」
「いえ...」
「ミルクは?」
「大丈夫です」
町長はローレンに一通り紅茶を勧めると、本題について話しだす。
「君がガーランド伯爵の護衛に付く冒険者じゃね?」
「はい。ローレンです」
「そうかい、君みたいな若い子がねぇ。ガーランド伯爵は物好きなところがあってね、毎年どこかの収穫祭に出席しては、その土地の冒険者を護衛に雇うんじゃよ」
「それは...まぁ、難儀ですね」
「ほっほっほ、難儀、難儀か、そうか、ほっほっほ。そうじゃ、面倒じゃ」
「い、いえ、別にそういうわけでは」
「安心せい、別に責めているわけではない。実際に各地のギルドは収穫祭のたびにビクビクしとるからのぉ、面倒くさいと思っているのもガーランド伯爵はわかっているんじゃ」
「なるほど...」
「それで、詳細じゃが。今日の夕方にはガーランド伯爵がこのリンベンにお着きになる。君...ローレンの仕事はそこからじゃ。伯爵を町の入り口でお迎えするからローレンも準備をするんじゃ、と言っても冒険者の君には準備するものがないじゃろうがな、ほっほっほ」
「え、えぇ、まぁ」
「わしも準備をしたら町の入り口へと向かう。ローレンはここで紅茶を飲んで待っていてくれ」
「はい」
リンベンの町長は応接間から出ていき、応接間の向かいの部屋へと入っていった。着替えやらなんやらがあるのだろう。
応接間には静寂が訪れる。ローレンが紅茶のカップを掴み上げるだけでも静寂は消え去り、雑音が鳴ってしまう。ゴクリと紅茶を飲み干すと、ローレンは応接間の窓から見える町並みを見る。
と言っても一階にある部屋から見えるのは、主に庭と目の前の広場だけだ。クラムにあるものと同じつくりの教会と、喫茶店のような店、そして花屋。
この世界でも、墓に供えるもっとも一般的なものとして、花が売られていることが多い。教会や墓地がある近辺に花屋が多いのはそのためだ。もちろん花を家に飾るような人も多いため、すべてがお供え用というわけではない。
紅茶をポットから空のカップに注ぎ、角砂糖を1つ。砂糖が比較的高価なため、一瞬だけためらうローレンだったが、1個くらいなら、いやむしろ使わないほうが失礼に当たるのでは、とテキトウな理由を付けて紅茶へと落とした。
前世で淹れた紅茶以来の砂糖入りであった。いや、紅茶をいつ飲んだのかなんて覚えていないが、味を覚えているということは最低でも飲んだことはあったのだろう。
「ほっほっほ、ローレンよ、そろそろ時間じゃ。ゆくぞ」
「はい」
ローレンは美味しい紅茶を名残惜しく思いながらも、くいっと飲み干して立ち上がる。
町長の家から出ると、何人かの男が近付いてくる。顔つきからしておそらくは町の重役たちだろう。
「町長、もうすぐ時間です」
「わかっとる」
「この子どもは?」
「クラムから来た冒険者のローレンじゃ、そういえばローレン、ランクはいくつじゃ?」
「冒険者ランクはFです」
「そうかい、その若さでFかい。ガーランド伯爵の護衛にFは低いが、君の年齢を鑑みればガーランド伯爵も文句は言うまい」
「町長、街道にガーランド伯爵の馬車が見えたそうです。早く向かいましょう」
「ほっほぉ、予定よりいくらか早いのぉ」
町長たちはいくらか歩く速度を速めて町の入り口へと向かった。町長は見た目のわりには足腰が丈夫なようで、急ぎ足でも危なげなくしっかりと歩いている。
「ほっほっほぉ、間に合ったぞい」
町長が町の外を見ながら声を上げる、ほんの少しだけ息が上がっているようだが、大丈夫だろう。
ローレンたちの目の前までやってきた馬車は大きく、引いている馬も6匹とかなり多い。
外装は武骨な木製で、窓には内側から暗幕が被っているらしく中の様子はうかがえない。
馬車の前後には合計で4人の騎士が馬にまたがって待機している。騎士はフルフェイスのグレートヘルムにフルプレートアーマーを着ており、乗っている馬も強靭そうで、防具を装着している。
馬車の御者台から御者兼執事が降り、馬車の扉をゆっくりと丁寧に開けた。
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