第71話
ローレンは町から出ると、さっそく街道へと進み、歩き始める。
クラム周辺は落葉樹が多く、ブナやシラカバなどが多いため森も少しだけ色付き始めている。
街道には馬車によって作られた轍が多く残っており、ある程度の交通量があることを示している。
街道を歩いているだけで、何匹かのモンスターに出会う。もっともそのほとんどがゴブリンやらコボルトのような弱いものがほとんどであった。子どもだと思って寄ってたかってくるゴブリンたちをショットガンで吹き飛ばしては、耳を剥ぎ取り死体を積み重ねて焼いていく。
燃えるゴブリンの死体は最悪な臭いを漂わせるが、幸いにもすぐに灰になって風に飛ばされて消える。
モンスターは死体を焼くとなぜかすぐに灰になるのだが、素材として使う場合には火に強かったりするため、謎に包まれている。
何はともあれ、日が昇って暖かくなってくる時間になると、中間地点である小さな集落へとたどり着く。
特に名前もない集落で、小屋が数軒といくつかの納屋があるだけのようだ。
集落の住民は、ローレンが冒険者風の格好をしているのを見てやや訝し気にしているが、悪意がなさそうなことを理解すると、特に気にせずに自分の農地へと引き返していった。
「まぁ、追い返したりしないってことは大丈夫だろ」
ローレンは小声で呟き、集落の端のほうにある低い石の塀に腰を下ろし、鞄の中から昼飯を取り出す。
普段からよく買っているパン屋から、特別に開店前に用意して売ってもらったソーセージパンを包から半分出すと、豪快に齧り付く。
マスタードに近い辛みと香りのソースが主張してくるが、それが抜けていくとソーセージの肉としての味がやってくる。パンの甘みと塩気のあるソーセージの相性は抜群で、一口目からでも十分な食べ応えを実現している。
「うめぇ。やっぱあそこの夫婦が作るパンは最高だな」
「...」
ローレンは後ろに気配を感じながらも、振り返らずに声を出す。後ろにいる気配は声を聞くと、一瞬だけ立ち止まるも進んでくるため、ローレンは仕方なく振り返ってみる。
そこにいたのは集落に住んでいるのだろうか、5歳か6歳くらいの少年だった。
「どうした?パンが珍しいのか?」
「...」
少年がパンをガン見しているのを見て聞いてみるものの、彼からの反応は一切ない。
いや、ぐぅっという腹の音が主張していた。
「食べるか?」
ローレンはパンとソーセージをひとちぎり取り少年に渡す。伸ばされた手に一瞬だけ怯えたようにしながらも、ローレンの手から一口サイズのパンを取ると、がばっと口へと詰め込む。
「もぐひぃ」
「もっと食べるか?」
「うん」
ローレンは少年に残ったパンを全て渡すと、少年はがぶりとかじりついた。
(ここの集落はそんなに貧しいのか?だが、集落の大人たちはそこまで痩せているようには見えなかった。むしろこういった小さな村落にいる割には健康的に見えるな)
「そんな急いで食わなくても誰も取りはしないさ」
「むぐもがぁっが」
「わかったから、喋るか食うかどっちかにしろ」
少年がパンを喉に詰まらせないように、ローレンは木製のコップに水を出して少年に渡す。
「...お兄さん、ありがと」
「あぁ、君はこの集落の子?」
「うん」
「お腹減ってたの?」
「うん」
「朝ごはんは食べた?」
「ううん」
「そうか、そりゃあ腹が減っているわけだ。これも持っていきな」
少年が何らかの理由で食事を取れていないのがわかると、とりあえず持っていた干し肉を渡す。
もしかしたら孤児なのかもしれないし、家族がものすごく貧しく農作業ができない少年に食料を与えられなかったのかもしれない。
無論、ローレンも干し肉を渡したところでそれがその場しのぎでしかないことをわかっている。それでも、目の前にいる困った人間を見捨てられるほどできた人間ではなかった。
少年は干し肉を受け取ると、さっそくその1つに噛り付く。よほど腹が減っていたのだろう。
ローレンは干し肉に夢中になっている少年をそのままに、リンベンへと続く道を歩き始めた。
「あれ?」
干し肉を全て食べつくした少年は、気が付くといなくなっているローレンをきょろきょろと探すが見つけられず、肩を落としてどこかへとトボトボと歩いて行った。




