第70話
「とりあえずこのライフルをグリシア合金で作り直すってことでいいのか?」
鍛冶場に戻ったダッソーはローレンに確認を取る。性能としては良好なことを鑑みれば、試作を終わらせてしまってもいいとローレンは判断する。
「あぁ、鋼鉄製のところは全部グリシア合金にして、それ以外は試作品と同じように作ってくれれば大丈夫」
「わかった。グリシア合金の加工は少し時間がかかるから、そうだな...1週間くれ」
「うん。それと、弾も100発頼もうかな。必要経費は?」
「そうだな。ライフル本体の素材はローレンの持ってるグリシア合金だから、本体の製作費は金貨2枚。弾は...そうだな、大量発注のおまけで100発金貨3枚ってところでいいか?」
「うっ、けっこう懐に痛い...ちょっと今週は依頼をガッツリ受けないと...」
「あぁ~、分割でもいいぞ?お前が持ち逃げするような奴じゃないってことは知ってるしな」
「いや、大丈夫。じゃあ1週間後に」
「わかった」
「あ、そうだ、今回の製作が終わったら次の銃の開発を頼もうと思ってるけど大丈夫かな?」
「お?なんだ、また新しい武器か?それは楽しみだな」
「じゃ、そういうことで」
ローレンは鍛冶場でさっそく作業を始めているドワーフたちに別れを告げると、既に日が暮れ始めている町の中を帰り始めた。
町の中は、家に帰る途中の人がぽつりぽつりと歩いているくらいで、肌寒い風がローレンの髪を揺らしている。
「そういえば、秋の収穫祭がもうすぐか」
薄暗い夕暮れの町を歩きながら、なんとなく呟く。
収穫祭は文字通り収穫を祝うお祭りだ。中央広場に設置される大釜に住民たちが肉やら野菜やらをぶち込んでいき、謎の鍋を作るのが主な催しだ。当たりの年はかなりうまい煮込みになるが、はずれの時は食えたもんじゃなくなるため、一番最初に食べる町長は気が気ではないらしい。
そして年によっては、ガーランド伯爵が来ることもあるらしく、その年は大釜に入れる物をしっかりと確認するらしい。
(毎年そうやってチェックすればいいじゃねーか)
と、頭の中で悶々と考えながらローレンは帰宅し、レナートやレファンドにそのことを聞こうかと思ったが結局聞くことを忘れて眠りについた。
翌日の朝、日が昇る前に起きたローレンはいつも通りに準備を始める。
少しだけ厚めのインナーを着込み、シャツを着てからレザーアーマーを着ける。
ショットガンを肩に背負い、ベルトに弾帯を付けて弾を仕込む。さらにベルトにダッソーから貰ったナイフを括り付ける。
鞄にはちょっとした保存食と手鍋、ランプ、解体用ナイフ、弾薬、傷薬などを詰め込み忘れ物がないかを確かめて玄関を出る。
寝ている家族を起こさないように家を出たローレンは、冒険者ギルドへと向かった。
町は依然として静寂に包まれており、日の出前の最も寒い時間になっている。
鞄に入れておいたマフラーを取り出して首に巻き付ければ、風を防いでくれてとても暖かい。
ギルドに到着し中に入ると、ギルドの職員たちがクエストボードに依頼を張り付けていた。
カウンターにはジーンが眠そうな顔で座っている。ジーンはギルドにローレンが入ってきたのを見つけると、眠そうな顔を一転させて元気いっぱいに手を振って合図してくる。
ローレンは苦笑しながらも、無下にすることなくジーンの元へと歩いていく。
「ローレンさん、おはようございます!」
「おはよう。今日は早いね」
「はい、朝の当番でしてぇ...今日も収穫の護衛で大丈夫ですね?今日はホクイモの収穫みたいですよ」
「あ、いや、今日は何か割のいい依頼を探してるんだ」
「そうですか。最近は冒険者の人たちがみんな収穫の護衛しかしないので、モンスターの討伐依頼が結構溜まってますよ」
「わかった。ありがとう。ちょっとクエストボード見てくるよ」
「はい」
ジーンは笑顔でローレンを送り出すと、手元の書類を整理し始めた。朝の当番は書類の整理もやらなくてはいけないのか、などと思いつつローレンはクエストボードへと向かった。
貼り付け作業をしているギルド職員の邪魔にならないように依頼を探す。確かに討伐依頼やら採取依頼がかなり溜まっている様子で、貼り付け作業をしている職員も、空いている場所を探すのに時間を取られてしまっている。
「おう、ローレンちょっといいか?」
依頼を探しているローレンは、よくないと答えそうになったが、リカルドがこの時間に起きていることを不審に思い、話を聞いてみることにする。
「リカルドさん、おはよう。何かあるの?」
「ここだとあれだから、ちょっと奥まで来てくれ」
「え、わ、わかった」
何やら嫌な予感を感じつつも、ローレンはカウンターの奥の部屋へと入っていく。ジーンが何か意味有り気な視線を向けてきていたが...
「で?こんな朝早くから起きてるなんて何かあったの?」
「おい、俺だって普通にこの時間に起きてることくらいあるわ」
「はいはい。で、話って?」
「...いやぁ、今年も収穫祭がもうすぐだな」
「え、急にどうしたの?」
「収穫祭にガーランド伯爵が御参加なさるそうだ」
「へぇ、けっこう久しぶりじゃないかな?」
「そうだな」
「それが?」
「ガーランド伯爵からの護衛依頼だ。ローレン行けるか?」
「うん、無理」
「ありがとう助かr...え?」
「やだよ、行きたくない。もっとベテランの人に頼めばいいのに」
「いやぁ、それが他の冒険者たちにも断られちってな」
「そして俺に押し付けると」
「押し付けるつもりは...報酬について話そう」
「まあ話だけなら」
「護衛期間は1週間、明日から隣町のリンベンからだ。町に滞在する期間中も護衛を頼む。報酬はガーランド伯爵から直接貰える。額は仕事の成果次第、たぶん金貨数枚は固いな」
「1週間の護衛で金貨数枚はアツいな」
「アツいのか寒いのかは知らんが、受けてくれるか?」
「わかった。受けるよ」
「助かる!今から出発してリンベンに向かってくれ。今から行けば夕方前には着くはずだ」
「え、てか、明日から護衛なのに今日現地に行くの?ギリギリ過ぎない?」
「だから困ってたんだよ。マジで助かる!護衛が終わったら店で何か奢るよ」
「もちろん食べ放題?」
「もちろんだとも」
「わかった。今からリンベンに向かうよ」
「ああ、それとこれを持って行ってリンベンの町長に会いに行け」
「これは?」
「クラムのギルドが出した護衛だという証だ。くれぐれもなくさないように」
「あい」
ローレンはリカルドから書類の入った封筒を受け取ると、ソファーから立ち上がって部屋を出ていく。
「あ、そうだ。リカルドさん、家族には護衛依頼に行くって伝えておいてくれる?準備はもうできてるし、このまま直接行っちゃうから」
「あ、あぁ。わかった、必ず伝えておく」
「はーい、じゃー...」
ローレンはリカルドの部屋に顔だけ突っ込んでそれだけ言うと、さっそくギルドから出て行った。
リカルドは言い知れぬ不安が胸をよぎったが、すでに賽は投げられた後だった。




