第69話
東の草原でドワーフたちとローレンは木箱を開けて中身を取り出す。中から出てきたのは、第一次世界大戦から二次大戦にかけて最も一般的に使われていたタイプのボルトアクション式のライフルだ。
見た目はドイツが使用していたGewehr 98 に似ている。というよりも、見た目はそれを目指して作られたのだから、当たり前なのだが。
全長は1150㎜、銃身長は700㎜、重量は4.2㎏でやや重め。ライフリングは4条右回り。
クリップ給弾式で、装填数は5発。使用する弾薬は8mm×60mm弾。特に合わせる規格もないため、弾薬の大きさは適当に決めてある。弾頭は銅製、鋼鉄被覆。弾頭は鉛がポピュラーではあるが、毒性が強く環境汚染を引き起こすことがあるため不採用。
ローレンは50メートル先に鉄板を置いて、射撃位置について的へと照準を合わせる。
「あ、みんなちょっと離れててくれ、念のためね」
「あ、あぁ」
気を取り直して、ローレンは集中して的へと狙いを定める。息をすぅっと吸って、スッと吐き、そのまま引き金に力を掛ける。
―――カチッ―――
「あ、弾込めてなかった」
「「「「...」」」」
「あ、いや、今のはトリガーの硬さを確かめるためにね?」
ローレンは1発を弾倉に押し込み、ボルトを閉じる。そのままもう一度狙いを定める。
―――――――――――パァンッ―――――――
ショットガンとは違う、乾いた炸裂音が辺りに響く。町からそれなりに離れているが、町の住民にも聞こえているかもしれない。
ローレンはそこまで反動が大きいとは感じなかった。というよりも、ここ半年の冒険者生活の中で筋力が増したというべきだろう。身体に少し力を入れていれば、立ったままでも十分に撃てるくらいの反動だった。
そして、驚くことに飛翔した弾頭は50メートル先の鉄板のど真ん中を打ち抜いている。つまり、狙い通りまっすぐ飛んだというわけだ。
「え、マジで」
「おぉ、すげぇ。この距離からアーマー用プレートをぶち抜いてる」
「しかもど真ん中ですね」
「あ、あぁ、こんなにうまくいくとは正直思ってなかった」
ローレンたちは偶然にも、一発でライフリングの適性を引き当ててしまったというわけだ。
「あ、いや、まだだ。たまたままっすぐ飛んだだけかもしれない」
「確かにまぐれってこともあるかもしれないな」
ローレンはボルトを引いて排莢すると、もう3発の弾薬を装填して再度狙いを定める。
3度の射撃で的を打ち抜いたのは3発。全弾命中だった。しかも、ほぼ狙い通りに弾頭は飛翔している。
「これは、成功か?」
「完璧だね。一発でライフリングを作れるとは思ってなかった」
「アダンの金属細工はドワーフの中でもトップレベルだからな。鍛冶師育成所を首席で卒業しているってのは伊達じゃないな」
「あはは、やめてくださいよ。そんなたいそうなものではないですから」
「えっと、鍛冶師育成所とは?」
「鍛冶師育成所ってのは、そうだな、学校って言ってわかるか?王国が出資して建てた学校で、鍛冶を学べるようになってる場所だ」
「ドワーフしかいないのか?」
「いえ、そんなことはありませんよ。人間でも、ドワーフでも、獣人でも、鍛冶を志す者なら誰でも入学できますよ。卒業できるかはその人次第ですが」
「ちなみに、アダンはそこの教師としてオファーが来たのを蹴って鍛冶師を始めたんだぜ」
「僕としては、教えることよりも、こうして新しい技術なんかを学べるほうが楽しいですしね」
「まぁ、ドワーフらしい性格なんだが、口調はドワーフらしくない奴なんだよ」
アダンがかなりのエリート鍛冶師であることを知り、ライフリングが一発で完成したのは偶然だけではないのを知ったローレンだった。
「じゃあ、もっと距離を開けて撃ってみようかと思うけど、どうかな?」
「え?もっとですか?この距離でも十分すごいと思いますけど...」
「確かに、これくらいの距離が最も撃ちやすい距離ではあるんだけど、こいつのポテンシャルならもっと遠くまで狙えるはずなんだ」
「そうなのか?!ワシも見てみたいぞ」
ということで、さらに距離を開けて、およそ100メートル。
弾倉に弾を込めて、射撃体勢を取り、狙いを定める。
まずは1発。弾丸の落下は考えずにど真ん中を狙う。呼吸によるわずかな揺れでも、100メートル先では大きな誤差を生じさせる。息をすぅっと吸い、スッと吐き呼吸を止め、引き金を引く。
発砲音ののちに、遠くから『ギャン』という金属と金属が高速でぶつかったような音が聞こえる。
近くまで歩いていくと、的である鉄板に穴が開いているのがわかった。
「やや右にズレてる。けど上下の偏差は大丈夫か」
次も同じ距離から同じように射撃する。それを繰り返すこと10回。100メートルの距離では、少し弾がばらけてしまうことが分かった。特に左右の振れ幅が大きいらしく、上下の振れ幅はかなり小さいようだ。
「やっぱりこの距離だとちょっと厳しいかな。ていうか、肉眼だとさすがに精密な射撃はできないかも」
「肉眼だと?それ以外で何か見る方法でもあるのか?」
「望遠鏡って知ってる?」
「あー、遠くを見るための道具だろ?それを使うのか。でもあれは出回ってないぞ」
「というと?」
「望遠鏡は、貿易船とかの船長とか、軍のお偉いさんしか持ってないっすからね」
「作り方も、極秘になっていて鍛冶師育成所でも教えてもらってないですね」
「あ、そうなんだ。じゃあ勝手に作ったりしたらヤバいかな?」
「「「「え?」」」」
「あ、いや、作らない作らない。バレたらなんかヤバいんだろ?」
「いや、作れるのか?」
「え、うん、原理は知ってるから」
「あー、確かに、勝手に作って売ったりなんかしたらヤバいかもしれないが、自分だけで使う分には大丈夫じゃないか?」
「じゃあ必要になったら作るってことで。罪に問われるとかだったら嫌だしね」
「そ、そうか」
何はともあれ、試作ライフルの性能試験を終えると、5人はクラムへと戻っていった。




